第16話 ネクストステージ

「ふむ、やる気はあるようだな。では、ワシから一つ課題を出そう。それを成し遂げたときに、改めてお前たちの進む道を教えてやる」


マオーPは不敵に笑いながら、彼らに告げる。

その様子に一瞬怯んだものの、すぐに彼の目をまっすぐに見つめた。


「「「「よろしくお願いします」」」」


「よろしい、では、この魔王城ドームの地下にライブステージがあるのは知っているな? お前たちはそこにたどり着いてもらう。もちろんエレベータは使用禁止だぞ。歩いてそこへ向かえ」


「え? そんなことでいいんですか?」


彼の言葉に青島は拍子抜けした様子で尋ねる。


「今はエレベータができておるから脅威に感じないかもしれんが……。あそこは昔、魔王城地下ダンジョンと呼ばれる最難関ダンジョンだったのだぞ。歴代魔王の特訓の場として用意されたダンジョンゆえ、お前たちの特訓にもちょうど良かろう」


「歴代魔王の特訓の場……」

「最難関……」


気軽に考えていた4人だったが、実際はかなり厳しい場所だったと理解したのか、言葉に詰まってしまう。

しかし、そこまでの覚悟が無ければルーナと肩を並べられないと直感的に理解したのか、覚悟を決めた表情になる。


「「「「わかりました、頑張ります!」」」」


「そうか、それならばよかろう。見事、地下ステージまでたどり着くがよい」


そう言って、マオーPは部屋から出ていった。


4人はさっそく準備を整えて、魔王城地下ダンジョンへと向かう。

しかし、そこは彼らにとって格上も格上のモンスターが跋扈するダンジョンであった。


あっという間にボロボロにされて地上へと逃げ帰ってきた4人の元にマオーPがふたたび訪れる。


「どうだ? 思ったより難しいだろう?」


「いや、難しいどころか無理ですよ! 全然先に進めないですし……」


「喝ッッッ! たかが数回、ボロボロにされたくらいで弱音を吐くな! こんな修羅場ルーナは何度超えてきたと思っているんだ? 今のアイツは、それを一歩一歩乗り越えてきた結果なのだぞ!」


彼は4人を叱咤した。

ルーナがこの苦難を乗り越えてきた(実際には戦っていないが)ことに、少なくないショックを受けているようだった。


「100回挫折したのなら、101回立ち上がればいい」


「マオーP……」


「心が折れてもいい、立ち上がる時に元通りになっていればな!」


「……」


「諦めなければ、勝利の女神はいつかは微笑む――まあ、ワシは魔王だがな」


ここまで良いこと言ってきたことを台無しにする一言に、4人は答えに窮した。


「やめたければ何時でもやめても良いのだぞ。ワシにそれを拒否する権利はないからな。だが、それではルーナの背中には追い付けんぞ」


「わかった! もう、俺たちは諦めない。絶対にステージにたどり着く。だから待っていてくれ!」


「ふっ、その意気だ」


そう言って、マオーPは4人の元を去った。


それから、4人は何回もボロボロになりながらも、少しずつ奥へ奥へと進んでいった。

途中で全滅することもあったが、魔王城地下ダンジョンでは再挑戦が可能であることが分かってからは、さらに積極的に攻略を進めるようになっていった。


そして、1か月ほど経ったころ、4人はダンジョン最深部、マオーガルドの地に降り立った。


「ダンジョンが終わり……と思ったら、闇の世界があった……ガクッ」


ゴールが見えたと思ったら折り返し地点だったという現実に耐えきれず、4人は力尽きてしまった。


しかし幸運にも、近くにあった街に運ばれて、治療を受けることができた。

態勢を立て直した4人は、さらに1か月の期間をかけて、様々なアイテムを集めて虹の橋を渡り、ついに魔王城地下ステージへとたどり着いたのであった。


「勇者たちよ、よくぞ参った」


ステージの上にいたマオーPはそう言うと、舞台袖に消えていった。4人は最前列の観客席に案内され、そこで座って待っているとルーナが舞台に上がり、ライブステージが始まった。


「START、START! 新しい一歩。 WISH、WISH! 想いを胸に。 WALK TOMORROW! 明日へと歩きだす」


最初にドームのライブで聞いたものと同じ曲が流れる。

その時も彼女のステージに感動していたが、命がけでダンジョンを乗り越えてきた後のステージは、また別の感動が4人の胸に押し寄せてきた。


「ううっ、俺たちは成し遂げたんだ……」

「そうね。でも、今はルーナのライブを応援しましょ」


4人は他の観客に負けじと涙ぐみながら大声を上げてルーナを応援した。


ライブが終わり、4人はマオーPと話をするために、ミーティングルームへと向かう。


「数多くの困難を乗り越えて、よくぞ、ここまでたどり着いた。まずは褒めてつかわそう」


「それで、約束していた、俺たちのこれからについては……」


「お前たちの力は、ルーナとは違う。戦うことのできる力だからな。だからこそ、あやつでは解決できない問題を解決できよう」


「……」


「魔王城地下ダンジョンを踏破したお前たちの実力は、この世界でもトップクラスである。だからこそ、冒険者を目指すがよい」


「「「「冒険者?!」」」」


彼の提案に4人は驚きの声を上げる。


「そうだ、冒険者はわかるだろう? 力を必要とするものの悩みを解決する者たちのことだ。ルーナの力は、人々を救う光となるだろう。しかし、それだけでは救えない者がいるのも事実。お前たちには、そんなルーナを陰から支える冒険者となってもらいたいのだ」


「俺たちがルーナの力に?」

「ねえ、やろうよ!」

「そうよ、私たちもルーナの力になれるって証明したい!」

「いいね、悪くないよ。俺も賛成だ! あいつの背中は俺たちで守ってやろうぜ!」


この時、初めてルーナという一人の人間を通して、4人の心が1つになった。

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