第15話 輝き

青島たち勇者一行は、魔王城目指して、マオー王国を進んでいた。

途中の街で宿を取り、温泉で英気を養いながら、着実に魔王城を目指す。


「この辺、宿代安くね?」

「そうだね。エンジョー王国だと、この10倍はしたんだけどな」

「まあまあ、いいじゃないの。むしろ安いんだし」


敵国内であることも忘れて、観光しながら魔王城へと向かっていた。

彼らは、のどかな田園風景を眺めながら、街の間を走る観光馬車に乗っていた。


「のどかな風景だな」

「田舎を思い出すわ」


そんなことを話しながら、彼らは中心部へと向かう。


やがて、彼らの行く先に巨大なドームが見えてきた。


「あのドームなんだろう?」

「東京ドームみたいだけど、大きくね?」


それを聞いていたのか、同乗者の女性が声をかけてきた。


「みなさんも魔王城ドームへ向かわれるのですか?」


「いえ、俺たちは魔王城に向かっているんです」


「やっぱり、ドームに向かっているんですね」


「いやいや、俺たちが向かっているのはドームではなくて城の方です」


「えっ?! 城? そんなものありませんけど……。この先にあるのは、あのドームだけですよ」


「「「「えっ?!」」」」


魔王城を目指していた彼らは、肝心の城が無いと言われて動揺していた。


「なんでも、ルーナ様の歓迎ライブが急遽開催決定したらしくて、たくさんの人たちがドームに集まっているんですよ」


「歓迎ライブ?」


「ええ、何でもルーナ様のお友達の方がいらっしゃるらしくて、彼らを歓迎するためのライブが行われるんです」


自分たちのイメージとかけ離れた話に、勇者一行は戸惑いつつも馬車に揺られてドームへと向かっていく。


ドームに着いた彼らは、受付へと向かった。

彼らの目標は魔王を倒すことである。

なので、受付に魔王がどこにいるか聞いてみることにした。


「すみません、魔王は今どこにいるか分かりますか?」


「はい、えーと。あっ、勇者様御一行ですか?」


「あ、はい」


「でしたら、ドームのミーティングスペースがありますので、そちらでお待ちください」


受付の案内に従って、ミーティングスペースへと向かう。

そこは意外なほど広く、ちょっとしたスタジオくらいの広さがあった。


彼らが魔王を待っていると、スーツ姿のマオーPが入ってきて、彼らにお辞儀をする。


「ふはははは。よくぞ参った、勇者たちよ。我が名はマオーPだ」


「何?! 貴様が魔王か!」


勇者一行が武器を構える。

しかし、マオーPは涼しい顔をしていた。


「喝ッッッー! 急くでないぞ、勇者たちよ。まずはステージを見ていくがよい」


マオーPは、彼らをドームの観客席最前列の特等席へと案内した。


「そこで待っておれ。すぐに始まるからな」


大人しく待っていた彼らの前のステージに、理想を詰め込んだような女の子が現れた。


「え? み、満月くん?!」


白崎が驚いた様子で声を張り上げる。

他の3人も、その女の子をマジマジと見る。


「あ、ホントだ、夜明じゃん」

「あいつ、何やってるんだ?」

「マジかよ。完全にアイドルじゃねーか」


3人も遅れて彼女が一緒に召喚されてきた男の子だと知って呆然と見る。

そんな彼らを置いてきぼりにして、ステージは始まった。


「こんにちはー! みんな、今日もステージを見に来てくれてありがとう!」


地味だった頃の彼を知っている4人は、あまりの変わり様に、どう反応していいかわからなかった。

そして、音楽が流れ始める。


「START、START! 新しい一歩。 WISH、WISH! 想いを胸に。 WALK TOMORROW! 明日へと歩きだす」


歌と共に彼女の身体から煌めくような輝きがあふれ出す。

その輝きは瞬く間にドーム全体に広がり、観客たちを包み込んだ。

それは勇者一行の4人も例外ではなかった。


王国からほとんど追放のような形で追い出された彼らに付けられた傷。

目を逸らして見ないようにしていた、その傷が癒されていく。


「暖かい……光……」


うわごとのようにつぶやいた白崎の言葉に、みんな心の中で頷いていた。


「どうだ? その輝きは。 すばらしいだろう?」


光に包まれて恍惚とした状態の彼らに、背後からマオーPの声がかかる。


「まさか、あいつに……こんな才能があったなんて……」


夢心地の状態でつぶやかれた青島の言葉をマオーPは鼻で笑う。


「ふっ、本当にそう思うか?」


「どういう意味だ?」


「確かに才能はあった。それを見出したのはワシだからな。だがそれだけだと思うのか?」


「「「「……」」」」


マオーPの問いかけに4人は言葉を詰まらせる。

そして、遠い目をしながら話を続ける。


「あやつとワシが出会った日。あやつは追放されて一文無しだった。しかし、それで諦めてはいなかった。頼まれたとはいえ、飛び入りでステージに立ち、稚拙ながらも観客を魅了したのだよ」


想像以上に過酷な状況であったことに、4人は息を呑んだ。


「もちろん、経験も何もない状態だった。最初は3分と持たず息を切らしていたからな。だが、あやつは諦めなかった。ダンジョンに向かい、ドラゴンを相手に何度も戦った。そして、ついにはドラゴンすら負かすほどに成長したのだ」


「「「「……?!」」」」


そこまで聞いていた4人は、突然、ステージに立って歌と踊りを披露しているルーナとダンジョンに行ってドラゴンと戦う話が結びつかず不思議そうな表情になった。

しかし、マオーPは4人の様子などお構いなしに話を続ける。


「あやつが今、ステージの上で大勢の観客を魅了しているのは才能だけではない。そこに至るまでの弛まざる努力があったからなのだ!」


「「「「努力……」」」」


途中良く分からなくなっていたが、結論として彼の努力の結果だったと理解した4人は戸惑いを隠しきれなくなっていた。


「翻って、お前らはどうだ? それだけの力を持ちながら、その力に胡坐をかいていただけではないのか? そんな生き方であやつのように輝けると思っているのか?」


辛辣な、しかし、優しさのこもった彼の言葉に、4人の心は大きく揺り動かされた。

彼らはお互いを見て頷き合うと、青島がマオーPに申し出る。


「マオーP。俺たちは……、今のままではあいつと肩を並べることもできない。だから……お願いだ! 俺たちもあいつのように輝けるようにして欲しい!」


彼らの瞳には情熱の炎が揺らめいていた。

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