第14話 地下の温泉
魔王城地下ダンジョン最深部に作られた新しい世界、マオーガルド。
そこにはいくつかの街が作られており、その一つに温泉の街、マールがあった。
私たちは英気を養うために、その温泉でゆったりとした日々を過ごしていた。
「んうぅ! 温泉はやっぱいいわね!」
だだっ広い温泉につかりながら手足を伸ばすと、国内ツアーや地下ライブの疲れが一気に吹き飛ぶようであった。
温泉から上がると、定番と言われるコーヒー牛乳(ノンカフェイン)を一気に飲み干したり、火照った体をアイスを食べてクールダウンする。
身体が整ってきたら、マオーガルド名物キノコ尽くしの料理に舌鼓を打つ。
日が出ないため、こちらでは苔やキノコのような植物しか育たない。
しかし、それらを使った料理が日々考案されていて、味だけで言えば地上で食べられる料理と遜色のないものとなっていた。
「この暗闇キノコのソテーも良いけど、光苔のおひたしも悪くないわ!」
暗闇キノコは文字通り真っ黒なキノコなのだが、トリュフのような香りが特徴のキノコである。
光苔は薄っすらと光る苔なのだが、料理をすると光らなくなる代わりにほのかな甘みと濃厚なうまみを持つ苔で、食感はホウレンソウに近い。
いずれも高級食材であるが、それは地上での話であって、日の差さない地下世界では、どちらもありふれた食材であった。
「おいおい、食べ過ぎるなよ?」
「わかってるって。つっても、この後は練習でしょ? ちょっとくらい食べ過ぎても大丈夫だって!」
「きゅぅぅぅん」
私の肩の上に器用に乗っている子ドラゴンも、私が料理を小さく切り分けて与えると、美味しそうに食べている。
「ほら、イーラもおいしいっていってるよ! マオーPも楽しまなきゃね!」
「やれやれ、あまりゆっくりしているわけにはいかんのだがな……。まあ、たまにはこんな時があってもいいだろう」
そう言って、私に合わせるように休暇を堪能していた。
当然ながら、休暇を堪能しているのは私たちだけではない。
『ゾディアック48』のメンバーも私たちと一緒に温泉に来ている。
「温泉に行くのDEATH! のんびり過ごすのDEATH!」
向こうの方からアリエスの声が聞こえてきていた。
彼女はどうやら温泉に入りたがらないヴァーゴを連れていこうと頑張っているようだった。
「……やめてくださいっ!」
「まーまー、いいじゃん。怖いのは最初だけだよ! 一度入ってしまえば、そんなことは気にならなくなるくらい気持ちよくなるからさ!」
抵抗するヴァーゴを宥めるアクエリアスだが、そのセリフが妙にオッサン臭く聞こえた。
そんなこともありつつ、私たちの1週間にわたる温泉休暇は無事に終わりを告げた。
「さて、ワシらは、この一週間、温泉で英気を養った。次のステージはアイアンアーム共和国だ。ここはかつて鉱業の国であったが、近年、モンスターの出現や岩盤の崩落、資源の枯渇などで厳しい状況が続いておる」
そう言って、マオーPは私の方を見て、話を続ける。
「そこで、ワシとルーナはかの国へと赴きライブを敢行する。そして、人々が笑顔を取り戻せる手助けをするのだ!」
彼の演説に一斉に拍手が上がる。
と言っても、拍手をしているのは『ゾディアック48』のメンバーだけなのだが……。
「ん? どうした? 浮かない顔をしているようだが」
「そもそも、この国ではたまたま上手くいきましたけど、ライブなんかで状況が良くなるんですかね?」
「当然だ! お前の踊り子の力は、ただ人々を楽しませるだけではない。奇跡を起こす神によって与えられた力なのだ」
彼の言葉に、私は複雑な気分になる。
何故なら、これが神によって与えられた力だとするなら、女体化させたのも神ということになるからである。
「力には必ず意味がある。今は大して意味があるか分からなかったとしても、時が来れば、与えられた意味もおのずからわかるようになろう」
私の表情から察したのか、彼は私の心情をさりげなくフォローする。
「そうよね! 女体化はともかく、せっかくいろんな人を助けられる力を手に入れたんだから、精一杯頑張らないとよね!」
「そうだ。そして、『ゾディアック48』よ。ワシらが全国ツアーに行っている間、ドームとライブハウスの運営は頼んだぞ! 仕切りはリーダーであるアリエスに任せる!」
不安そうな顔をする面々だったが、そんなことを気にする様子はアリエスにはなかった。
「もちろんDEATH! 私が仕切ってやるDEATH! これで安泰DEATH!」
メタル系であることを主張しようとしているのだろう。
しかし、私にはどんどんメタル系から遠ざかっているように見えた。
「ふむ、やる気は十分のようだな! それでこそワシが見込んだ側近、安心して任せられる。 ワシらがいない間、しっかりと盛り上げるのだぞ!」
「当然DEATH! YEAH!」
どこをどう解釈したのか、一同は不安しかないと言いたげであったが、彼はアリエスに絶大な信頼を置いているようであった。
そんな不安しかない打合せが終わりかけたころ、一人の魔族がミーティングルームに駆け込んできた。
「大変です! 勇者が魔王討伐にやってきました!」
「バカな! いくら何でも早すぎる!」
その言葉に、マオーPが焦りの声を上げる。
周りにいた私たちも、彼の焦りを感じ取ってか浮足立っていた。
「しかたない。まだ十分ではないが、歓迎のライブで出迎えてやろうぞ!」
こうして、私の勇者歓迎ライブが無し崩し的に決まったのだった。
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