第13話 豊穣の聖女

魔王城地下ダンジョンから溢れる瘴気の問題が解決した後、私たちは再び国内ツアーを敢行した。

その結果、国内の農作物の生育を妨げていた瘴気が完全に払しょくされただけでなく、私のライブによって、作物が一瞬にして収穫できるようになってしまった。


その結果、貧困にあえいでいたマオー王国は一大穀倉地帯として、周辺諸国に輸出できるほどになっていた。


「すごい収穫量だなぁ」


「ふははは、これが本来の我々の土地よ。王国の奴らが汚染物質まみれの土地を賠償として渡してきたおかげで、これまでは広い土地があっても利益があがっていなかったが、これからは毎年大豊作だ!」


頻度は減ったが、あの後も国内ツアーは何回か行っているし、ドームライブや地下ライブも定期的に行っている。

そのお陰で、大豊作を通り越して1年に何回も作物を収穫できるようになっていた。

そのため、私はマオー王国で豊穣の聖女の二つ名で呼ばれるようになっていた。


一方、歴代魔王が鋭意改装中である魔王城地下ダンジョンだったところも、あっという間に海や山、城や塔、洞窟などが作られていき、マオー王国と同じくらいの広さの世界が作られていた。

唯一の難点は地下のため日が出ないということくらいで、温泉のある村や城塞都市などのような特徴のある街もどんどん作られていき、いまや地上から移り住む人も少なくなかった。


「これ……どこかで見たような世界なんだけど気のせい?」


「ああ、お前の故郷にあるゲームの世界を参考にして作ったらしいぞ。それにあやかって、この世界の名前をマオーガルドって名付けたらしい」


「……明らかにパクリだよね?」


「喝ッッッー! パクリと言うな! これはオマージュ、というものだ!芸術に関わる者がたやすくパクリと言うではない。たとえパクリでもリスペクトとかオマージュとか言っておけば何とかなるものなのだ!」


マオーPの主張は、私から見れば明らかにおかしいものであったが、そもそもの話、ここは異世界である。

そのような心配は不要であった。


こうして、マオー王国は地上と地下に分かれたことで、領地が実質2倍となった。

当然ながら、地下には日が出ないため、農業をすることはできないが、農業以外の産業を地下に移転したことで、さらに農地を増やすことができるようになった。


「これで、この国もしばらく安泰だろうし、あとはスローライフで余生を過ごすだけね!」


私の忙しかった生活も終わりを告げようとして――


「喝ッッッー! そんなわけあるかッッッ! まだまだお前を必要としているところはたくさんある。国内の状況が落ち着いた今だからこそ、国外へと進出するのだ!」


「マジすか?! そういうなら、頑張りますけど……」


「そうだ、これからワシらは全国ワールドツアーで各地を回るのだ!」


マオーPの熱気にあてられて、私のやる気も上がっていった。


「分かったわ! 全国に私たちの名前を広めて、ファンを増やしましょう!」


「そうだ、その意気だ! だが、国内ツアーの疲れも残っておるだろうし、まだまだ力不足だ。1か月は英気を養いつつ、さらなる鍛錬を続けるぞ!」


「おぉー!」


私とマオーPはこれから始まる全国ツアーに向けて気持ちを新たにしたのであった。


♪♪♪♪♪♪♪


一方、エンジョー王国では緊急の報せに浮足立っていた。


「なんだと?! マオー王国が農作物の輸入を停止するだと……? どういうことだ!」


「はっ、噂では、かの国の農地から瘴気が払われて、作物が育てられるようになったとのことで、輸入に頼る必要がなくなったとのことです」


「バカな! あの瘴気をそう簡単に払われてたまるか! 何かの間違いではないのか?」


報告を聞いた国王は激昂して兵士に詰め寄った。しかし――


「実際に見てきた者からの情報によると、不作どころか豊作だそうです。しかも、数日で収穫できるらしく……」


「くそっ! マオー王国の分際で……。おい、勇者たちを呼べ!」


国王は勇者を謁見の間に呼び出すと、単刀直入に話を切り出した。


「緊急事態だ。どうやら魔王が急速に力を付けたらしい。世界征服に乗り出すまでに1年はかかると思われていたが、どうやらすぐにでも乗り出す勢いだ! しかし、我々は魔王の好き勝手にさせるわけにはいかん! 勇者たちよ、今すぐに魔王討伐に向かうがよい!」


「冗談だろ?! まだ訓練も中途半端で十分な実力がついていないぞ!」


国王の言葉に、青島は反論した。

しかし、国王は青島を圧倒するように声を張り上げる。


「バカ者! なにを暢気なことを言っておるのだ! もはや魔王の侵略は秒読みだぞ?! 足りない実力は実践で付ければよかろう! わかったらさっさといけ! 装備も用意してやるが、足りない分は自力で調達しろ、わかったな!」


「くそ、これで足りるわけねーだろ! 自力で調達しろって、どうなっても知らねーからな!」


「安心しろ、手段は問わぬ。わかったらさっさと行くがよい!」


赤倉の反論すらも適当にあしらい、4人を王城から追い出してしまった。


「くそっ、あのじじぃめ、俺たちまで追い出すとは!」

「もらった物資もこれだけだと足りなさそうなんだけど……」

「まあ、国王も『自力で調達しろ』と言っていたみたいだし、お言葉に甘えて調達しに行こうぜ」

「どこに行くの?」


赤倉の言葉に白崎が不安そうに聞くと、彼は城下町を指さして言った。


「勇者は街で色々とアイテムを調達するものだぜ」


幸運にも、国王自ら国民に勇者の力となるようにお触れを出したおかげで、青島たちは王宮のツケで足りない物資を調達することができたのであった。


準備の整った彼らは、マオー王国へと旅立った。

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