第12話 地下ステージ
魔王城地下ダンジョン最深部。
歴代の魔王が眠る、この地に突如として現れた――魔王城地下ステージ。
そこに立った私を最前列の席から見下ろす巨大な亡霊――初代魔王、その手には何故か2本のサイリウムが握られていた。
目配せすると、まるでいつでも準備はできていると言わんばかりに鷹揚に頷いた。
私たちについてきた観客たちも、まるで当然かのように、彼ら歴代魔王の後ろの席に座っていた。
誰も、彼らが亡霊であることを気にしていないようであった。
そんな様子を見ていると、客席の方からマオーPがやつれた様子でやってきた。
「彼らに……最高のステージを見せてやるのだ! わかったな! 必ずだぞ!」
どうやら、彼は歴代魔王たちに、こってりと絞られたらしい。
勝手に埋め立てて、魔王城ドームなるものを作ったことはもちろんだが、それ以上に、私のステージを自分たちだけで楽しんだことに、酷くご立腹だそうだ。
私にとってはモチロン大事なステージなのだが、彼にとっては、まさに命を賭けたステージらしい。
もちろん、彼のことも心配ではあるが、それ以上に瘴気をあふれさせるほどのマイナスに囚われた歴代魔王たちのことを少しでも元気づけたいという想いを込めて、私はステージから大声を張り上げる。
「みんな! ライブの後半戦、楽しんでいってね!」
その言葉と共に歌と踊りが始まる。
バックダンサーのみんなも、マオーPのことが心配なのか、普段以上に気合の入ったダンスだった。
「Alone in the Dark! どんな暗く寂しい場所でも~。Shine your Heart! 明るく元気に歩き出そう~」
暗く寂しい魔王城地下ダンジョン最深部のことを想い、そこでもなお明るく輝こうとする心をイメージして歌い上げる。
そんな私の歌に心を打たれたのか、歴代魔王たちのサイリウムがより一層激しく左右に振られる。
気付くと、ドームにいた観客の座っている後ろには、ここに来る途中でマオーPに吹き飛ばされて逃げていったモンスターたちがお行儀よく席に座って、私のステージを見ていた。
人型でないものも多いため、分かりにくいが、その動きから楽しんで観てくれていることがわかる。
私がステージの合間に観客席に向かって手を振ると、観客たちの歓声だけでなく、モンスターや歴代魔王の咆哮まで聞こえてきた。
本来ならダメージがあるそれらの咆哮も、今回は危害を与えないように調整しているらしく、その咆哮を聞いた観客たちの歓声が負けじと大きくなっていく。
熱気に包まれた会場で、ステージと観客、歴代魔王とモンスター、全てが一体となって場の雰囲気を盛り上げる。
「HOP! 苦しい時も悲しい時も~ STEP! 歌と踊りで闇を払い~ JUMP! 光あふれる笑顔を取り戻す~」
私の歌によって、瘴気にあふれるダンジョン最下層の空気が清められていく。
私の踊りによって、爽やかな風が会場を吹き抜ける。
私の身体から出た光の帯が会場を埋め尽くし、あらゆる不浄を浄化する。
それは歴代魔王も例外ではなかった。
光に包まれて徐々に彼らの姿が見えなくなっていく。
そしてステージが終わり、光が消えていくと、そこには――全盛期の頃の歴代魔王たちが立っていた。
「なんでよ?!」
流れ的には、明らかに亡霊が光の中に消えていく展開であった。
しかし、結果は見ての通り、歴代魔王が全員復活を遂げてしまったのである。
「もしかして、世界が滅んじゃう? 世界中が魔王の支配下になっちゃう?」
私はいけないことをしてしまったような気分になり、冷や汗が止まらなかった。
しかし、そのことを察した初代魔王が、私の目の前に立ち跪いた。
「心配されるな。聖女よ」
「いえ、聖女じゃありませんが?」
「細かいことは気にするな。とりあえず、貴殿が心配するようなことは何もない」
「そうなの? 歴代魔王って世界を支配下に置こうとしたって言われたんだけど」
優しく微笑む初代魔王の言葉に、私が訪ねると彼は表情を崩さぬまま吹き出した。
「ぷっ、ふははは。そんなこと誰も考えておらんよ。大方、あの王国の人間が言っていることだろうがな」
「それはそうなんですが……」
私が申し訳なさそうにしていると、彼は私の頭を撫でながら話し始める。
「あいつらは、自分たちが一番でないと気が済まない連中だからな。自分たちの優位性を脅かす国が現れると徹底的に叩き潰そうとするのだ」
「そんな……」
「だから、貴殿が心配するようなことにはならぬ。それに……、我らは一度は引退した身、いまさら返り咲くような真似はせんよ。今後は、ここを第二の王都にすべく、一丸となって動くつもりだ。そうだろ?」
「「「もちろんだ!」」」
初代魔王の言葉に、歴代魔王たちが頷いた。
「そして、ヨサックよ」
その言葉に、マオーPの身体が強張る。
「あれ? マオーPってイマノ・マオーって名前じゃなかった?」
「当代の魔王は、本来の名前でなくイマノと名乗るようになっておるのだ。貴殿らの王もキンジョーと名乗ると聞いたが……?」
「それは名前じゃないですけどね!」
「なぬ。まあよい。ヨサックよ。今回、我らが墓所を埋め立ててふざけたドームなどと言うものを作ったことは非常に許しがたい。だが、彼女のライブを見て、我らの気が変わった」
マオーPを責めるように見ていた初代魔王は、そう言って顔を綻ばせた。
「ここに、新たにステージを作った。以後は、我らが認めた者は、ここでもライブを行うようにせよ。そして、先ほども言った通り、ここに第二の王都を作る。我らの全ての力を使ってな! 貴様も我らに負けぬように励むがよい!」
初代魔王の言葉に、彼は跪いて頭を垂れる。
「御意に。しかし、ワシはイマノ・マオーでございます。ヨサックではなく、イマノ、もしくはマオーPと呼んでくだされ!」
「ふん、ならば、その名にふさわしい成果を上げよ、ヨサックよ!」
ヨサックの名前が気に入らないのか、彼は訂正を求めたが、初代魔王にとって彼はまだ力不足とのことであった。
「ふふふ、久々に腕が鳴るわ!」
後日、私たちが再びここを訪れたときに、腰を抜かすほど驚くことになるとは、この時の魔王の言葉からは想像できていなかった。
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