第11話 魔王城地下ダンジョン

マオーPを先頭に、私たちは魔王城地下ダンジョンを進んでいた。


「喝ッッッー!」


彼の一喝に、立ちふさがるモンスターたちは一瞬で吹き飛ぶ。

吹き飛んだモンスターはおもむろに立ち上がると、どこかへ逃げ去ってしまった。


「ふん、他愛もない!」


「って、マオーPの一喝って、そんな強力だったの?!」


「当然だろうが! ワシは魔王だぞ?」


モンスターが吹き飛ぶような攻撃を平然と私に放ってきた彼の正気を疑った。


「ふん、お前は勇者だろうが! そんな人間がワシの一喝で吹き飛ぶわけがなかろう!」


明らかに私はモンスターより弱いと思うのだが、一応は勇者ということになっているらしく、魔王の一喝は効かないようだ。


「とりあえず、出てくるモンスターは任せるわね。大丈夫?」


「ふん、造作もないことだ! お前は後ろから安心してついてくるがいい」


私の不安の交じった問いかけに、彼は自信満々に答える。

その力強い背中に、私はライブとは違った胸の高鳴りを覚える。


「いやいや、そもそも、こうなったのマオーPが原因じゃない?」


しかし、大本の原因が彼にあることを知っている私は一瞬で我に返る。

前は問題ないだろうと、後ろを振り返って、私は凍り付いた。


「えっ?! なんで観客のみんなが付いてきてるのよ?!」


私は、思わず悲鳴にも似た叫び声を上げる。

しかし、彼は事も無げに答えた。


「問題ないだろう。観客どもも、まだ興奮冷めやらぬ感じだろうからな。モンスターどもはワシがおるから問題ない」


「そう言う問題じゃなくない?」


現実的に考えて、もはやライブを続けるような状況ではない。

それにもかかわらず、観客たちを引き連れてダンジョンの奥へと進むなど、正気とは思えなかった。


「みなさん! この先は危険なので! 帰って大丈夫ですよ! もう、ライブも続けられなさそうですし!」


私は精一杯、声を張り上げて、観客たちを安全なうちに帰そうとした。

しかし、観客たちは私の言葉に対して、大きな歓声をもって答えてくれた。


「あきらめろ、ライブに大事なのは観客との一体感。そう、こうやってダンジョンをみんなで突き進むのも一体感というものだ」


どうやら、このまま帰る気がない観客たちとともに、私たちは魔王城地下ダンジョンの奥へと進んでいく。

どうやら、私とマオーPは臨時のパーティーを組んでいる状態らしく、彼がモンスターたちを吹き飛ばして撤退させると、私にも経験値が入ってきているようであった。


その経験値は膨大で、私のレベルは特訓の時よりも早いペースで上がっていた。


「こんなに早くレベル上がるんだったら、特訓じゃなくて最初からマオーPと一緒にレベル上げればよかったんじゃないの?」


「喝ッッッ! あえて茨の道を進んでこそ、世界を獲れるスターとなれるのだ! パワーレベリングなどで上げたレベルなど、所詮はハリボテ。そんなものはクソだ!」


私がパワーレベリングを提案したが、彼はパワーレベリング自体に恨みがあるかのように激昂した。


「だいたい……パワーレベリングなど、卑怯者のすることだ! そんなもので手に入れた力など、ワシは断じて、断じて認めんからなぁぁ!」


そんな話を延々続ける彼に、同情しつつも辟易していた。


「それはそうと、まだ一番奥じゃないんですね」


私は話題をさりげなく変えた。

そのことで、落ち着きを取り戻した彼は、先ほどの荒ぶり具合など嘘のように答える。


「あと、もう少しだ。そろそろ歴代魔王の墓所に入る。それを抜ければ最深部だ」


あと少しという彼の言葉に安堵するが、それを戒めるように、彼は言葉を続ける。


「だが、安心するのは早いぞ。歴代魔王は強い、この先は彼らが行く手を阻むことになる。気合を入れねば先へ進むことすらままならんぞ!」


そんな話をしてから少し進むと、うら寂しい場所にたどり着いた。


「ここが歴代魔王たちの墓所だ」


彼が墓石のようなものを指し示して言った。


その言葉の正しさを証明するかのように、左右の墓石から半透明の何かがにゅるっと出てきた。

そして、私たちの前に立ちふさがる――ように見えたが、私たちを見ると、左右に分かれた。


「先に行けってことかしら?」


「そうだろうな。全く何を考えているのかわからん連中め!」


ドーム作ろうとして墓を埋め立てた彼にとって、その言葉はまさにブーメランであった。

しかし、そのことに気づいていない彼は、忌々しそうに先代の亡霊を睨みつける。


その後も、亡霊は何体か出てきたが、私たちを見るなり左右に分かれて道を開けてくれた。


こうして、歴代魔王の亡霊たちに導かれて行った私たちは、ついに最深部へと到達する。

そのだだっ広い空間に圧倒されていると、マオーPは大声を上げた。


「な、なんだこれは?! こんなもの、いつできたのだ?!」


「いつできた、って。そもそも来た事あるんじゃないの?」


「たしかにそうだが、このようなものはなかったぞ!」


私がだだっ広い空間を見回していると、急に明るくなった。


「な……! これはステージ?」


そう、そのだだっ広い空間は、まるで魔王城ドームをそのまま地下に移してきたかのような形をしていた。

おそらくマオーPに対抗して作ったのだろう。

大きさが魔王城ドームの倍近かった。


どこから現れたのか、歴代魔王の亡霊が左右に、そして、巨大な亡霊が奥の中央に立っていた。

彼らは私たちに恭しく礼をすると、奥へと行くように促される。


巨大な亡霊の前に私たちが立つと、その亡霊が跪いた。

そして、おもむろに立ち上がると、私をステージの上に案内し、大きく頷いて、観客席の方へと向かった。


「これは……。ここでライブをしろということね!」


私のドームライブ初日、第二ラウンドが始まる。

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