第10話 ドーム・リベンジ

「魔王城ドームよ! 私は帰ってきた!」


「いや、お前のホームだろう……」


リベンジライブが決まってから5日後、私たちはホームである魔王城ドームへと戻ってきた。

感慨にふける私に冷や水を浴びせるマオーPを睨むと、さっと目を逸らした。


「しかし、まだライブまで2日もあるのに、だいぶ賑わってない?!」


魔王城ドームの周辺だけでなく、王都全体が祭りでもあるんじゃないかと思うくらい人がごった返していた。


「当然だろう。国内ツアーでお前のステージに魅せられた者は数知れないからな」


彼はドヤ顔で僕に言う。

しかし、彼の自信満々な態度も頷けるものであった。

どのライブでも、初日こそ人数が10人前後と振るわなかったが、私のステージによって街中の瘴気が一掃され、瞬く間に人々を蝕んでいた暗い雰囲気が払しょくされ、汚染された土壌が蘇ったのである。

そんな私のステージを見ようと、2日目以降の観客はそれぞれ10万人を余裕で突破していた。


「でもなあ……。それって、私のステージで瘴気が消えたからっていう理由にしか思えないんだよね」


「そんなことは無いぞ。義理や興味本位で見に来たのであれば、3日目は来ないだろう。しかし、2日目だけでなく3日目にも来た観客だけで5万人を超えていたからな。お前のステージを見たいと思う観客が、少なくとも、5万人はいたということだ」


「5万人かあ、微妙な数字だね」


私は、目標の10万人の半分である5万人という微妙な結果に、不満を漏らした。


「喝ッッッー! 何の前準備もしていない野外ライブな上に、知名度もない新人、それが5万人もファンを作ったというだけで奇跡だろうが! そして、ファンはたった1人でも大事なのだぞ! 微妙とか言うでない!」


彼の言うことはもっともで、私は微妙だと言ったことに罪悪感を覚えた。


「ごめんなさい! そういうつもりじゃなかったんだけど、確かにファンを大事に考えていなかったです……」


「分かれば良いのだ。そうやって謙虚な姿勢を取れるのもまた、スターの素質であるからな」


素直に頭を下げる私に、彼は優しく語り掛けながら、頭を撫でててきた。

そのことに私の胸がぽかぽかと優しい暖かさに包まれるのを感じた。


心機一転した私は、2日後の本番まで集中してリハーサルを行った。

そして、万全の状態で迎えたドームライブ初日、国内ツアーのお陰か、あるいは宣伝のお陰か、ドームの観客席は全て満席だった

しかも、国内ツアーと違って全席指定だったため、チケットの予約が抽選になるというほどであった。

そして、抽選は1人1枚となっているため、今日の観客が見れるのは今日のステージだけである。


控室で待っていた私は、迫ってきた開始時間に合わせて気合を入れる。


「今日、来てくれたお客さんのためにも、全力のステージを見せなきゃね!」


「その意気だ。お前にとっては3日間の1日なのだろうが、彼らにとっては今日が全てだからな。よし、全力で行ってこい!」


控室を出て、決戦の場であるステージへと向かう。

ステージに立ち、観客席を見渡すと、どこもかしこも人ばかりであった。


私の姿を見た観客たちから、一斉に歓声が上がる。

その熱気に当てられて、私の気持ちも少しずつ昂り始めた。


「今日は! 来てくれて! ありがとうございます! それじゃあ! これから始めるよ!」


そして、私はステージの上で全力で歌い、踊る。

バックダンサーとして協力してくれている『ゾディアック48』のメンバーもさすがと言うべきか、私のステージを引き立てるように華麗なダンスを披露してくれていた。


「うまくいかなくて~、SHIT! 苦しいけれど~、SHOCK! 歌って~、SHOUT! 踊って~、SHINE! 元気出していこうよ~、YEAH!」


私のステージの盛り上がりに合わせて、サイリウムの動きが激しくなり、歓声が大きくなる。


しかし、今回のステージの目的は観客を楽しませるだけではない。

このドームの地下に埋められてしまった歴代の魔王たちの亡霊を鎮めるためのものでもある。


このステージの熱気が少しでも届くように、彼らの怒りや悲しみといったマイナスの感情を喜びや幸せといったプラスの感情で上書きできるように。

そう願いながら、全力でステージを盛り上げていく。


そうして、ステージの熱気が最高潮に達したころ、突如ドームが揺れ始めた。


「なんだこれは?」

「地震?!」

「きゃあぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ!」


そんな悲鳴が観客席から上がる。


「みんな、大丈夫だから落ち着いて!」


私は、揺れるステージの上で必死にバランスを取りながら、ステージを続けていた。

観客たちも一種の催眠状態のようになっているせいか、私が落ち着くように言うと、平静を取り戻していた。


「ちょっと、あぶないかも、しれないから! 私たちはステージを続けるけど! みんなは落ち着いて避難してください!」


そう言って、私は観客に避難するように伝えた。


しかし、その言葉に反して、ドームから避難するために外に出る観客は一人もいなかった。

むしろ、先ほどにも増して、サイリウムの動きが激しくなり、歓声は一層大きくなっていく。


それはまるで、その揺れの原因が分かっていて、それに打ち勝とうとするかのようにも見えた。


「みんな……! わかった! みんなで、この熱い想いを、彼らに届けてあげよう!」


その言葉に歓声はさらに大きくなる。

それはまるで限界などないかのように。


しばらくは、私のステージを邪魔するように揺れていたが、私たちの熱気に根負けしたのか、少しずつ収まっていった。


そして、ステージの目の前。

観客席の間の地面に穴が開いた。


「バカな! 完全に埋め立てたはずの魔王城地下ダンジョンが復活しているだと?!」


開いた穴を見ながら、マオーPが驚愕の声を上げる。

観客たちも、突然開いた穴に驚きを隠せないようであった。


「まるで、彼らが私たちを誘っているみたいね!」


「くそぅ! これほどまでにワシの邪魔をすると言うのか!」


「どうする? こうなった以上、中に行くしかなさそうだけど?」


「やむを得ん! ワシが安全に先導する! お前たちは後ろから付いてくるがいい!」


こうして、突然開いた魔王城地下ダンジョンに私たちは入っていった。

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