第9話 瘴気の原因
私たちは、最初の街であるカオスファームのライブを無事に終えた後、マオー王国内の主要な10の街でライブを行った。
どの街でも、初日はほとんど観客がいない中でのライブだったが、3日目になるころには、会場に大勢の観客がライブを見に来てくれるようになっていた。
ここまでは、私たちのライブは大成功だったと言えるだろう。
「まだ、たったの1か月なのに、この状況って……」
私は最初にライブを行った街であるカオスファームへと戻ってきていた。
ライブによって、街は活気を取り戻したのだが……。
ひと月も経たないうちに、再び瘴気が街中に漂っていた。
幸いにも、そこまで急激な変化ではないらしく、以前ほど酷い状況ではなかったものの、ライブを終えた直後と比べると、明らかに街中の活気が失われていた。
「この国は、いつからか、国全体に瘴気が発生するようになったのだ。それによって、活気が失われ、あの酷い状態になってしまったのだよ」
「原因は何かわかっているんですか? 私でも力になれることがあれば……」
少し落ち込んだ様子で語るマオーPを少しでも励ますために、自分でもできないことは無いかと聞いてみた。
「原因は分かっておる」
そう言って、彼は話を続けるべきか迷うそぶりを見せる。
「分かっているなら、それを何とかすれば……」
「それはできん!」
私の提案に、彼は声を荒げる。
私は、不躾だったと反省し、彼の様子を見守ることにした。
「場所を変えないか」
しばしの間、逡巡した後、彼は静かに言った。
私たちは、近くの喫茶店に入り、それぞれドリンクを注文する。
ドリンクが目の前に置かれ、私たちは少しそれに口を付ける。
そして一息置いてから、彼は静かに語り始めた。
「瘴気の原因なのだが……。それは、魔王城ドームを建設したことだ」
「えっ?!」
私たちのホームである魔王城ドーム、これが国中に蔓延する瘴気の原因だった。
「……結局、マオーPが原因じゃない! もう、心配して損したわ! こうなったら壊すしかないでしょう?!」
「まて! いまさらドームを壊したところでどうにもならん。本当の原因は、魔王城ドーム建設にあたって埋め立てられた魔王城地下ダンジョンなのだからな」
「どういうこと?」
「実は、魔王城地下ダンジョンというのは、単なるダンジョンではなく、歴代魔王の墓でもあるのだ。それを埋め立てたせいか、歴代魔王の亡霊が怒り狂って、瘴気を撒き散らしているのだ」
たいがいに酷い理由であった。
しかし、これはおそらく埋め立てられたことに対する怒りだろう。
今さら掘り返したところでどうにかなるとは思えなかった。
「いったいどうすれば……」
「ふふふ、そこでお前の出番だ! お前が魔王城ドームで踊れば、歴代魔王の亡霊も少しはおとなしくなるだろう」
悪い笑顔を浮かべながら、冒涜的なことを言う。
だが、経緯はどうであれ、このあふれ出す瘴気は何とかする必要があった。
「わかりましたよ! それじゃあ、今度はドームでライブをします!」
「やる気になってくれて何よりだ!」
「誰のせいだと思ってるんですか?! いい加減にしないと張り倒しますよ?」
私はあまりに好き勝手に言う彼の態度にぶち切れて、笑顔のまま彼に圧をかけた。
「わ、分かったから! 勇者のオーラをワシに向けるでない!」
どうやら、召喚された勇者は感情により、特別なオーラを発することができるらしく、魔王、というか魔族は、それが苦手だということであった。
「まったく、分かればいいんですよ。いずれにしても、この状況は放置できませんしね!」
呆れたように肩を竦める。
そして、恐る恐る私の顔色をうかがうマオーPと、魔王城ドームでのライブの段取りを決めていった。
「まず、お前ひとりではライブは難しいだろうな」
「え? なんでよ?! 2時間くらいは踊れるようになったじゃない!」
「体力の問題ではない、会場の広さだ。あの広さに一人は少し寂しく見えるからな」
「なるほど」
考えていないようで、ライブに関しては考えているようである。
もっとも、ライブに関して考えすぎた結果、魔王城地下ダンジョンを埋め立てるという暴挙に出たのだから、それが良いわけではないのだが……」
「そこでだ。『ゾディアック48』のメンバーを参加させる。お前も知っている3人、アリエスとヴァーゴとアクエリアスは前座で、それ以外はバックダンサーとして起用する」
「え? バックダンサーですか? もったいないような……」
トップスターともいえる彼女たちをバックダンサーとする、という彼の意見に、私は腰が引けてしまった。
しかし、そんなことは些細であるとばかりに彼は笑う。
「くくく、これからマオー王国の不良債権である歴代魔王の魂を鎮めるのだぞ? この程度のこと、大したことではないわ」
先代たちを不良債権呼ばわりする彼であった。
そんなノリだから、歴代の魔王が激怒するのだろうと思ったが、あえて、彼の気分を害する必要はないと思い、黙っておくことにした。
「わかりました。では、その形でライブを進めましょう。それで、いつにします?」
「うーむ、今回は大々的に宣伝を打つ予定だからな。一週間後を予定しているぞ!」
「宣伝打つんですよね? 一週間後? 早すぎですよ!」
「大丈夫だ、問題ない。すでに国内ツアーの間に魔王城ドームライブの告知はしておるからな。すでに、王都に向かっているものもいるだろうな! なに、これができるプロデューサーの姿というヤツだ!」
完全な見切り発車であった……。
それどころか、これまでの一連の流れ自体が、彼の中では既定事項だったようである。
「そのつもりがあるなら、最初から言えやぁぁぁ!」
思わず、私はマオーPを張り倒してしまった。
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