第8話 奇跡のライブ

初のソロライブを終えて、2日目がやってきた。


1日目は10人しかいなかった観客だが、今日は用意した観客席が埋め尽くされていた。

それだけではない、まるで街中の人たちが、私たちのライブを見に来ているのではないかと思うほど、大勢の観客が席の間や観客席の外側に大勢立っていたのである。


「うそ、こんなに大勢の観客が……!」


「それがお前の真の力だ。そして、これが――その結果だ!」


私は感動して少し涙ぐんだが、ライブが始まった瞬間、私の心は平静を取り戻し、ライブへと集中する。


「HOP! 苦しい時も悲しい時も~ STEP! 歌と踊りで闇を払い~ JUMP! 光あふれる笑顔を取り戻す~」


私の歌声が街中に響き渡る。


私の心から、そして体から溢れる金色の光が、天に昇り、煌めく燐光となって降り注ぐ。

それを受けた大地に植えられた作物が急速に成長を遂げ、一瞬にして収穫できるまでになってしまった。


それを見た住民は大きな歓声を上げて、私を称える。

ライブを終えた観客たちは、足早に収穫のために帰っていった。


そして、最終日である3日目。

文字通り街中の人たち全員が、私のライブを心待ちにしてくれていた。

昨日の反省を生かし、座席数を倍に増やしたが、焼け石に水だったようで、立ち見する人の割合は昨日と変わっていなかった。


「フハハ! この街は落ちたな! ここはワシらのモノだ!」


「いやいや、元からマオーPのモノじゃないですか……」


意味の分からない彼の勝利宣言に思わずツッコミが漏れる。


「分かっておらんな。この国、マオー王国は元々は近隣諸国の中でも随一の穀倉地帯。だが、近年、瘴気の影響で作物は常に不作だったのだ。作物の育たぬ穀倉地帯など価値はない。ゆえにワシは王ではあったが、同時にハリボテであった。しかし――」


「私のお陰で、光が見えた――ということ?」


「そうだ! これで農地が復活すれば、国に価値が生まれ、国民は幸せになる。そして、ワシらは高い金を払って王国から農作物を輸入する必要がなくなるのだ!」


彼は、国に価値を作れず、国民を幸せにできないような王は、価値が無い、ただのハリボテだと言いたいようであった。

そんな、ハリボテばかり見てきた私にとって、彼の思想は素晴らしいものだと感じていたが……。


「いや、魔王だよね? 悪の」


「だからマオーPと――魔族という種族の王というだけだが? 種族に善も悪もあるわけがなかろう」


彼の言葉は、実際に支配者として君臨しているが故の説得力があった。

そして、最終日のライブの時間がやってきた。


私は、この3日間で最高の歌と踊りを観客たちに披露する。

観客たちも、私のライブに笑顔と歓声で応えてくれた。


ステージと客席の一体感に包まれながら、私のファーストソロライブは無事に終わりを迎えた。


私が、達成感に浸りながら控室で一息ついていると、扉がノックされる。

そして、この街の長が入ってきた。


「お初お目にかかります。私はカオスファーム領主のショーヤと申します。この度はルーナ様のライブを開催いただきまして、ありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ。まだ未熟な私を受け入れてくださいまして、ありがとうございます!」


市長が頭を下げたのを見て、私も同じようにお礼を言って頭を下げる。


「いえいえ、ここ10年ほど、作物の不作に悩まされておりまして、そのせいか、領民も日に日に弱っていっており、我々では手の施しようがなかったのです。そこに、ルーナ様が降臨されて、この地を救ってくださった。まさに伝説の聖女、そのものでございました」


嬉しさのあまり、興奮を隠し切れないショーヤだが、私が謙遜しようとすると止めるように言われた。


「謙遜されなくてもよろしいのですよ。それほどに、我々は追い詰められておりました。しかし、この光は我が領地だけでなく、やがてはマオー王国全体を照らすこととなりましょう」


そう言って差し出してきたショーヤの手と固い握手を交わした。


「それでは。我々は、この地でルーナ様の成功をお祈りしております」


そう言って、頭を下げながら部屋から出ていった。


「どうだ? お前の踊り子の力で多くの者が救われた感想は。素晴らしいとは思わないか? これこそ、世界を手に入れる醍醐味だと言えよう。フハハ!」


マオーPのセリフはいちいち悪役っぽい感じなのだが……内容は――内容だけ聞けば、とても善良な人なのが、違和感になって私を戸惑わせた。


「うーん、なんか、魔王っぽくないのよねぇ」


「仕方あるまい。今は魔王ではないからな。マオーPだと言っただろう? そもそも、名前こそマオー王国のままだが、現在はワシの側近が王として連合王国となっておる。まあ、今でも名前だけはワシが国王だがな。正式にはマオー連合王国、名誉国王イマノ・マオーだ」


「側近? って、もしかして……」


「お前も知っているだろうが『ゾディアック48』のメンバーだぞ?」


マオー王国のトップアーティストは王様だった。

その事実に唖然とする。

何より、アリエスやヴァーゴのノリはどう考えても王様という感じではなかった。


「寡黙な王様はどうかと思うけど、メタルな王様ってどうなの?」


「何を言っておるのだ。お前の世界にはメタルキングっていうのがいると聞いたことがあるぞ? アリエスが王様でも不思議ではあるまい」


彼に私の世界について話した人間が適当な話をでっち上げたのか、それとも、彼がトンデモ解釈をしているだけなのかは分からなかったが、いろいろとおかしい認識があるのは間違いないようだ。


その事実を再認識して、私はため息を漏らした。


「何を終わったような雰囲気でいるのだ。まだまだ回らなければならない街は多いぞ。明後日からは隣のディープフォレストでライブだ!」


そう、私のライブはまだまだ始まったばかりであった。



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