第7話 ソロライブ
特訓を終えた私たちは、魔王城ドーム脇のライブハウスへと戻った。
私だけならまだしも、『ゾディアック48』のメンバー3人も同行しているため、その間の活動は大丈夫なのか不安になった。
「心配するでない。12人もいるからな。一人や二人いなかったところで、問題は全くない。3人が不在の間はタウロスとスコルピオ、カプリコーン、そしてピスケスが取り仕切ってライブをやっておる」
グループ名からして仕方ないのかもしれないが、タウロスとか明らかに女性に付ける名前じゃないし、カプリコーンに至ってはお菓子か何かの名前にしか思えなかった。
もっとも、名前はともかくとして、タウロスは牛であることを考えると、女性の方がピッタリなのかもしれないと思った――主に胸が。
「邪なことを考えるでない、別にタウロスと牛は関係ないぞ?」
「別に何も言っていないじゃないですか!」
「まあ、お前の邪念などどうでも良い。とりあえずは無事特訓を成し遂げたわけだが……。この勢いでソロライブを敢行するぞ!」
「えっっ?!」
いきなりとんでもないことを言い出したマオーPに驚きの声が漏れてしまう。
「いやいや、特訓を終えたと言っても、まだドームでライブするには力不足……」
「喝ッッッ! 今のお前ひとりでドームでソロライブなどできるはずも無かろう。まずは国内の都市で電撃ライブを敢行するのだ!」
「そ、それなら……」
「だが、油断するなよ。人口は10万人程度だが、あそこは魔境と呼ばれておる。気を抜けば成功も覚束ないだろう。そこで3日間ライブを行う。目標は3日間で動員人を10万人以上にすることだ!」
「えっっ?! 人口と同じですが?!」
想定外に高い目標を掲げる彼の言葉に、驚きに加えて絶望の声が漏れる。
しかし、有無を言わさぬ彼の言葉に、私はアリエスたちと別れて、マオーPと、そして子ドラゴンと共にファーストソロライブの地、カオスファームへと向かう。
「そう言えば、ドラゴンに名前を付けていなかったわね。……ドラゴンだから、イーラとかどうかな?」
「きゅぅぅぅん」
どうやら気に入ってくれたようだ。
子ドラゴンの名前も決まったことで2人と1匹で馬車に乗り、揺られること半日、私たちはカオスファームの街へとたどり着いた。
しかしカオスファームは、街とは名ばかりの広大な農場を有する農業都市であった。
「ここがカオスファーム? なんか農園しか見えないんですが……」
「そりゃそうだ。ここはマオー王国の穀倉地帯だからな。住宅地や商業地などは、街の中心部に集中しておる。そこに向かうぞ!」
私たちは、さらに馬車を走らせて中心部へと向かった。そこには所狭しと建物が並んだ文字通り都市のような場所であった。
しかし、彼らの様子はどんよりと暗く沈んでいるように見えた。
「あの、皆さんの元気がないようなんですけど……」
「そうだ、ここは穀倉地帯なのだがな。数年前から地下から高濃度の瘴気が吹き出るようになって、農作物がほとんどできないようになったのだ。そればかりでなく、その影響で住民もやる気が無くなっておる」
「こんなところでライブしても、誰も来ないんじゃないでしょうか?」
私は、住民の様子から、当然と思われる感想を述べた。
しかし――。
「喝ッッッー! 彼らの陰気な様子に影響されてどうする! ワシらが彼らを元気づけるためにライブをするのだ!」
それはもっともな話であった。
世界を獲ると言った以上、この程度の逆境に負けているようでは、その高みにたどり着けないだろう。
「わかったわ! 明日から3日間、全力でライブしてみんなを元気にしてあげる!」
私の決意に、マオーPは鷹揚に頷いた。
翌日、私のソロライブ初日――しかし、観客は10名だった。
「ううう、やっぱりお客さんが全然こないよぉ……」
「何を落ち込んでおる。10人もいるではないか!」
「たった10人だよ? どうしろって言うのさ!」
「甘い、甘いぞ! たとえ観客が1人であっても、最高のライブをするのだ! それが来てくれた観客に対しての礼儀だ!」
彼の叱咤激励を受けて、私はステージのお客さん一人ひとりを見ながら、全力で歌い、踊る。
「HOP! 苦しい時も悲しい時も~ STEP! 歌と踊りで闇を払い~ JUMP! 光あふれる笑顔を取り戻す~」
私が踊りを初めてしばらくすると、まるで舞台演出のように、私の身体から無数の光の帯が四方八方に伸びていった。
その光の帯の一本が観客に触れる。
すると、先ほどまで苦しそうだった彼の表情が、瞬く間に晴れやかなものとなった。
それだけではない。
四方八方に伸びた光の帯は街中に広がり、人の心に巣食う闇だけでなく、街全体にはびこる瘴気をも、瞬く間に打ち払ってしまう。
そして、ライブが始まる前までは、どんよりとした曇り空だったのだが、今は爽やかな日差しが燦燦と降り注ぎ、ステージに吹く風は明日への希望を運んでくるような心地よさをもたらしてくれる。
「こ、これは一体……?!」
一曲終わった後、あまりの変化に私が驚いていると、マオーPが私の隣に立ち、10人しかいない観客に向かって高らかに宣言した。
「フハハ! これがワシの側近の力だ! この力でワシはこの国の、いや世界中の人間を苦しみから解放し、世界をワシたちのものとするのだ!」
彼の言葉に、観客は盛大な拍手をする。
10人しかいないはずの観客に対して、割れるような拍手の音と歓声が聞こえていたことに不思議に思い周囲を見渡すと、街中の人たちが思い思いに拍手をし、歓声をあげていた。
「どうだ? お前の踊りは神をも魅了すると言っただろう? これこそが、その証拠だ」
私を見る、普段は厳しい彼の眼が優しさにあふれていた。
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