第6話 特訓
「具体的にはどうすれば……やはり筋トレとか走り込みとかですか?」
基礎体力を上げる方法について、私はあまり詳しくなかった。
そのため、元の世界での基礎体力の上げ方を例にして聞いてみた。
しかし、返ってきた答えは私の想像を超えるものであった。
「それでも基礎体力は上げられるが……時間がかかりすぎる。幸いにもお前は勇者召喚で、この世界に連れてこられた者。であれば、レベルアップを目指すのが手っ取り早い」
「レベルアップですか?」
「魔物や魔獣といった存在を倒すことで手に入る特殊なエネルギーを摂取することでレベルというものを上げることができるのだ。レベルが上がっていけば自動的に基礎体力も上がっていく」
「倒すって……。私が魔物や魔獣を殺すんですか? そもそも私に殺せるんでしょうか?」
「殺せば確実だが、絶対に殺さないといけないわけではないぞ。まあ、いずれにしても、お前だけでは無理だ。だから手伝う人間を用意する。というわけで、今日は休め。明日からみっちり1週間ダンジョンに籠るぞ!」
「え?! 籠る?」
「そうだ。テントと寝袋、そして食料をもって、ダンジョンで生活するのだ! 大丈夫だ、命の危険はほとんどない!」
いきなり、私のサバイバル生活が決まってしまった。
「いやいや、無理ですよぉ。戦うの苦手なんですよ?!」
「だから協力する者を付けてやるといっているだろうが。ちなみに、アリエスとヴァーゴ、アクエリアスだからな。お前の役目は踊り子らしく歌と踊りだ!」
私は彼が何を言っているのかわからなかった。
その様子を見た彼は詳しく説明をしてくれた。
「真に魂の込められた歌と踊りは、ドラゴンすらも屈服させると言われておる。お前は、歌と踊りに魂を込めてモンスターどもを屈服させればよいのだ。簡単だろう?」
要するに、歌って踊って「参った」と言わせればいいということであった。
言うのは簡単だが……。
「無理ですよぉ。そんなの普通に戦うより難易度高いんじゃないですか?!」
「喝ッッッー! そんな弱気で世界を獲れるとでも思っているのかぁぁぁ! ワシなど魔王教育の一環として、5歳で魔王城最深部から出てこいと言われたわ! しかも、装備何もなしだぞ?! それに比べたら……」
マオーPがグチグチと言い始めたので、私は慌てて止めるためになだめ始める。
「どぉどぉ、落ち着いてくださいよ! わかりましたって、ダンジョンでもどこでも行きますよ!」
「くっくっく、どうやらワシの情熱が伝わったようだな。嬉しい限りだ」
「いや、情熱じゃなくてウザさしか伝わっていませんよ? まあ、そんなことより、早速行きましょう!」
再び彼がウザくなっても面倒だったので、私は今すぐにという勢いでダンジョンへと向かう準備を整える。
すぐに手伝いの3人もやってきて、私たちは魔王城ドームから馬車で1時間ほどのダンジョン『
「この名前は?」
「ふふふ、昔は、初心者向けのチュートリアルダンジョンという名前だったんだが、ワシが改名したのだ。どうだエモい感じになっとるだろ?!」
「魔王城地下のダンジョンじゃないんですか? 初心者の私のために?!」
「いいや。魔王城地下ダンジョンはドーム建設時の基礎工事で埋め立ててしまったわ。もちろん平和的に立ち退いてもらったぞ。モンスターたちの移転先が、これから行く
その言葉に、一抹の不安を感じたが、馬車は無情にもダンジョンへと近づいていた。
ダンジョンに着いてさっそく中に入った私は、その圧倒的な光景に呆然と佇んでいた。
何故なら、チュートリアルダンジョンであるはずのそこは、入口からドラゴンやら魔神やら、巨人やら大精霊やらが跳梁跋扈している魔境だったからだ。
「ここですか? チュートリアルダンジョンですよね?」
「違う違う!
そういって、3人はドラゴンと大精霊と巨人を引っ張ってきた。
私は、恐怖で震える身体に鞭打って、全力で歌い踊る。
最初のうちはぎこちない部分もあったが、少しずつ硬さが抜けて、歌や踊りに優雅さが見え隠れするようになった。
それに合わせるかのように、周囲に響いていた戦闘の音も少しずつ静かになっていく。
「いいぞ、その調子だ」
マオーPが私を鼓舞する。
しかし、徐々に体力が尽きていき、歌も踊りも精彩を欠いていく。
そして、本当に酷い状態になって初めてマオーPはストップをかける。
息も絶え絶えの状態から、少しずつ息を整えて、再びモンスターの前で踊る。
そんなことを繰り返していると、私の踊っていられる時間が少しずつ伸びていき、一週間後には1時間以上、踊れるようになっていた。
「よしよーし。よく頑張ったな! さすがはワシの見込んだ踊り子だ! だが、1時間は最低限と言うところだからな。慢心するでないぞ!」
そして、私はさらに踊り続け、2週間後には2時間近く踊れるようになっていた。
「よし、だいぶレベルも上がったな。このくらいでいいだろう」
マオーPは満足そうな表情で頷きながら、特訓の終わりを告げた。
「きゅぅぅぅん」
私は特訓を終えた解放感に浸っていると、肩の上に乗っている子ドラゴンも嬉しそうに鳴いていた。
この子ドラゴンは、私の特訓中に居合わせたドラゴンが感銘を受けたらしく、卵を一つ譲ってくれた。
今日の朝、それが孵って私に懐いている。
「やればできるではないか! 特訓を見事にこなしただけでなく、ドラゴンから卵を譲り受けるほどの信頼を受けるとはな!」
「最初は無理だと思っていたんですけどねぇ。たった一週間でドラゴンの信頼を得るまでになるとは思ってなかったわ」
「ふふふ、ワシのプロデュース力にかかれば、できて当然だがな!」
感慨にふける私にマオーPがドヤ顔で語った。
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