誓いの流れ星

よし ひろし

誓いの流れ星

「ここから見る星空は、二年前と変わらずに綺麗ね」

 草原くさはらに寝ころびながら満天の星空を見上げ、二年前のあの日のことを思い出す。


 次々と落ちていく流れ星を見ながら、あなたは誓ってくれたわね、『永遠にきみを離さない。幸せにするよ、死を迎える瞬間まで』と。


 目を閉じると、あの日の流れ星と、少し照れながら真剣な眼差しでわたしを見るあなたの顔が浮かんでくるわ。


「そういえば、あの日の流星群は、何て名前だったかしら、ねえ?」

 すぐ横に横たわる彼に訊いてみる。が、答えは返ってこない。


「はぁ…」

 小さくため息。


 星空は変わらなくても、人の心は移ろいやすいものね。

 あの日、あれほど強く愛を誓いあったというのに――二年、たった二年ですべては変わってしまった……


 ちょっとしたサプライズをしようと、不意に訪れたあなたの部屋で、見てしまったあの子との情事。わたしの後輩に手を出すなんて、しょうがない人。

 ま、浮気の一つや二つ、許してあげる、そう思っていたのに――


『本気なんだ、すまない。別れてくれ』


 冗談だと初めは思ったわ。でもあの子の肩を抱きながら真剣な眼差しを向けるあなたを見て、事実を悟った。


 まったく、あの誓いは何だったの。

 ありえない、そんな事実、ありえない!


 わたしの中で、何かが壊れた。

 気づくと、部屋が血まみれになっていた。


 シャツを真っ赤に染め、目を見開き怖い顔で天井を見上げて床に倒れるあなた。

 わたしはあの子の上に馬乗りになり、その愛らしい顔を包丁で何度も切り裂いていた。


 わたしは悪くないわ。裏切ったあなた達が悪いのよ……


 我に返り、呆然とするわたし。


 もう終りね。せめて、あなたとのあの日の約束、守ってもらうわ――


 息絶えたあなたを、見つからないように車に運び、ここまでやって来た。


 あの女? あんなのは知らない。そのまま放ってきたわ。ただの生ゴミだもの。



「はぁ、残念ね。今日は流れ星、流れないわ……」

 どうせならあの日と同じ、多くの流れ星が見れればよかったのに――仕方ないか。


 いえ、そもそも流れ星になんか誓ったのが間違いだったのよね。だって、あんなのただの宇宙のゴミクズだもの。綺麗に見えるけど、燃え尽きて、無くなってしまうんだから。


 そう、あなたのわたしへの愛も、同じように燃え尽きてしまったのね……


「でも、わたしの愛は燃え尽きていないわ。だから、守るの、あの日の誓いを――」

 用意しておいた灯油缶に手を伸ばす。

 蓋を開け、静かに横たわる彼の体にたっぷりと灯油をかけ、更に自分も頭から浴びる。


「死の瞬間まで、あなたと一緒よ、離さない。二人で燃え尽きましょう、流れ星のように」

 物言わぬ彼にしっかりと抱き着き、ライターの火をともす。


 ぼぉーっ!


 炎が全身を包み、周囲の草も巻き込んで、大きな火柱となる。


 ふふふふふ、あの誓いから二年後の流れ星よ、わたしたち自身が。綺麗でしょう、あの日の流れ星と同じように――……

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誓いの流れ星 よし ひろし @dai_dai_kichi

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