あの星空に君を映して
桜飴彩葉。
あの星空に君を映して
暗い夜道を、僕は1人で歩いている。あの日交わした約束を果たすために……
「卒業したら一緒に星見に行こうね」
それが、遥の最後の言葉だった。
遙と出会ったのは約3年前。高校1年の時に偶然隣の席になったのがきっかけだった。彼女は休み時間になっても席を立つことがめったになく、ずっと本を読んんでいた。僕はただの興味本位で彼女に話しかけた。
「何読んでるの?」
「星座の本!」
僕の何気ない問いに、遥は明るく返した。
「ねえ、彰人くんは星好き?」
今度は遥が聞いた。
いきなり名前を呼ばれてドキッとしたが、それよりも、僕は答えに困った。正直言って全く興味はなかったが、まっすぐこちらを見つめ、目を輝かせている彼女を見ていると、本当のことを言うのは憚られた。
「うーん、よくわからない」
結局僕は曖昧な返事をした。
「それじゃあさ、私が教えてあげる!」
遥は笑った。
これが僕らの初めての会話だった。
その日以来、遥は毎日僕に話しかけてくれるようになった。話題は決まって星座や宇宙についてのことだ。どうやら彼女は、幼い頃に自然の中で見た満点の星空に魅了され、星が好きになったらしい。本やネットで調べた知識を、全く何も知らない僕にでも分かるように、熱く語ってくれた。最初は話半分で聞いていた僕だったが、だんだんと彼女の熱意に押され、気がつけば一緒に図書館へ行き、星座の本を読むようになっていた。これまで何かにハマると言うことはなく、これと言って趣味もなかったので、自分自身が一番驚いた。
遙と過ごす時間はとても楽しかった。もちろんメインは星の話だったけれど、それ以外にも雑談したり、お昼を一緒に食べたり、同姓の友達にからかわれるくらいには仲良くやっていた。
そんな彼女に対し、恋愛感情が生まれるのはもはや必然だったのかもしれない。
「ねえ、春休み星見に行こうよ!」
終業式を翌日に控えたある日、僕は勇気を出して遥をデートに誘った。
「めっちゃ行きたいんだけどさ、うち門限厳しいから無理だわ!」
遥はいつも通り明るい調子で答えた。
「ごめんね、大学生になれば大丈夫だと思うんだけど……」
僕がどう返そうか悩んでいると、遥が付け足して言った。
「そっか、それじゃあ卒業したら行こう。2年後になっちゃうけど……」
僕は無意識にそんなことを言っていた。
「うん、楽しみ! 卒業したら一緒に星見に行こうね!」
遥は無邪気な笑みを浮かべながら、大きくうなづいてみせた。
そんな彼女に釣られ、僕も笑った。今から卒業が楽しみだなと思った。
大好きな星空の下で彼女に告白して、付き合って、いろんなところに遊びに行って。そんな幸せいっぱいな妄想を膨らませていた。だから、彼女が事故で亡くなったと聞かされた時、僕の頭は真っ白になった。何度も繰り返した妄想、描いた未来が、一瞬にして音もなく崩れて行く感覚。激しい混乱がおさまってくると、悲しみ、後悔、怒り、今度は様々な感情がとめどなく溢れてきて、自分自身を制御することすら叶わなかった。
僕は遥の存在がどれだけ大きいものだったかを実感した。彼女がいなくなって仕舞えば、影の薄い僕の中にはほとんど何も残らない。いや、違う。一つだけ確かなものがある。星、それは、彼女が幾度となく語ってくれたものだ。
忘れてはいけない、約束を果たさなければならない。僕は悲しみの淵でそう思った。2年後、絶対に星を見に行くのだ。たとえ隣に遥がいなくても。
足に伝わる感触の変化で僕は我に帰った。どうやら急な斜面を登りきり、目的地についたようだった。本来ならはるかとくるはずだった場所、遥が星を好きになったきっかけの場所だ。
僕は空を見上げる。そこには、満点の星空が広がっていた。大小様々な光の粒子たちが夜空を飾っている。それはさながら、闇に散りばめられた宝石のかけらのようだった。
きっと3年前の自分なら、綺麗だなと何の捻りもない感想を浮かべていただろう。でも、今なら分かる。星座の名前を、並びの規則性も、遥がなぜこの星空に魅了されたのかも。
「遥、大好きだ」
なんとなく、あの星空の向こうに遥がいるような気がして、僕は静かにつぶやいた。
瞬間、小さな光が一つこぼれ落ちる。流れ星だ。しかし、それを認識した時にはもう消えて亡くなっている。それでも僕は目を閉じ、強く願った。
「綺麗だね!」
ふと、遥の声が聞こえた。幻聴だろうか、それとも、流れ星の奇跡だろうか。どちらでもいい。こうしてまた遥の声を聞くことができたのだから。
明日からはちゃんと前を向いて生きていこうと思う。だから今は、今だけは、遥のことで心を満たしたい。
脳裏に浮かぶのは眩しいほどの笑顔。きっと今だって、輝く星々に囲まれて笑っているのだろう。
僕はまっすぐ星空を見上げ、もう一度、今度ははっきり告げた。
「遥、大好きだ!!」
あの星空に君を映して 桜飴彩葉。 @ameiro_color
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