第11話 商人の街

商業都市フリーディア。

帝国の中でも最も大きな交易がなされている都市であり、この都市の年間売り上げは帝国の収入の約3割に相当するほどである。

ありとあらゆる国や文化が入り混じるこの場所は帝都とまた違った装いがあり、道行く人間一人とっても服装すらまばらだ。

帝都からの3日間の旅路を終えてフリーディアへとやってきたカリス達は、依頼主であるラドラーから依頼金を受け取り解散後その足で組合からおススメされていた武器やに足を運んでいた。


「武器屋ってこんなにいろいろ置いてあるんだね」


そう言いながらキョロキョロと周囲を見回すカリスの周りにあるのは壁一面を覆う様々な武器だ。

人が使用することを前提に作成されているであろう武器から、人では扱えないような形状のものまでその品ぞろえの数々はまさにカリスが理想としていた武器屋の内装である。

軽く近くにあった武器を手に取ってみればいままで使用していた粗悪品とは違うしっかりとした手ごたえがあり、重量なども自分用に整備されていないにも関わらずどこかしっくりくるような作りになっている。


「カリスは剣使ってるところしか見たことないけどやっぱり剣が得意なの?」

「うーん、どっちかっていうと苦手かな。素手の方が楽だし、本当は魔法と拳だけで戦えるのが一番良いんだけどね」


ダフネからの問いかけにカリスは少しだけ気まずそうにしながら言葉を返す。

日頃自分をライバル視してくれているダフネに対し、ハンデを背負った状態で戦っていますというのは気が引けたからだ。

だがダフネとしてはそんな事よりもなぜそんな苦手な武器をわざわざ使うのかという疑問の方が勝る。


「じゃあなんで剣使ってるの?」

「グウェインから使えって言われてたのもあるし、おばあちゃんから苦手な武器をなるべくなくすようにも言われてたからね」

「そういう事なら頑張って慣れないとね。頑丈そうな武器が欲しいなら人向けの武器よりもどっちかというと亜人の人達向けの武器の方がいいんじゃない?」

「……亜人って何だっけ?」


聞きなれない言葉にカリスは疑問をこぼす。

ある程度街中での生活にはなれていたつもりだが、少なくとも帝都にいるときにそんな言葉を聞いた覚えはない。


「土精霊とか森妖種が有名だけど……聞いたこと無い? ほら街中でも結構歩いてるけど」


言いながらダフネが窓の外に視線を移すと、街中を歩いている人に視線を誘導させる。

東部から角が生えており、顔には3つの目。

その隣には腕が4本生えている人がのそのそと歩いているが、カリスから言わせてみればあれらは人の範疇内だ。

人に近しく、それでいて人ではない者達。

だからこそ亜人と呼ばれているわけだが、もとより人ではない人生を送っていたカリスがあまりよく分からないのも無理はない話なのかもしれない。


「あの人たちって違う種族なんだ」

「カリスって結構不思議な感性持ってるわよね……ここは人向けの武器が多いし人じゃ持てない重量の武器とかも用意されてるからそっちの店に行ってみよっか」

「うん、案内お願いするよ」

「私も小さいころに来たことあるだけだからそんなに信頼されても困っちゃうんだけどね」


そう言いながらもダフネは確信のある様な足取りで店の外に出ていく。

その後を追いかけながら街中をある程度の距離歩くと、ふとダフネが裏路地の中へと入っていった。

大通りに面していた先程の武器屋とは違い少しくらい雰囲気の店にダフネが入って行き、遅れてカリスが入って行くとそこは先ほどまでの武器屋とは全く違う内装の店内だった。

石で作られた建物の中には店の奥と入口の間を隔てるようにして横長の木のテーブルが一つ、それ以外に目に着くものは何かの宣伝用のポスターと料金表くらいの物か。

テーブルの奥、そこにある椅子に腰を掛けて座っているのは180センチを超そうというほどの大柄の一つ目の女性だった。

その女性は入ってきた二人を一瞥すると、けだるそうに腰を上げてカウンターに立つ。


「いらっしゃい……君ら人間?」

「この子は人間です。僕は……多分人間ですかね」

「そりゃ悪い事聞いたね。ウチの商品は質は良いが癖が強くてね、これ持てるかい?」


カウンターの下にあったハンマーを持ってくると店員はそのままカリスにそれを手渡す。

ずっしりとした手ごたえに加えて先程の店で持ったばかりの武器と比べて更に手になじむような感覚が手にやってくる。

重量自体は先ほどの物に比べれば圧倒的にこちらの方が重たい。

人間が持つことを想定して作るのであれば、素材の段階から見直しが必要なのは間違いがないだろう。


「良いですね。ちょっと軽いですけど」

「……それを持ち上げれるんなら文句はないよ。小人族の血が入ってるのかもね、どんな武器がご所望だい?」

「とにかく頑丈な武器をいろんな種類で作ってもらえるといいですね。強めに振り回すと全部壊れちゃうので」


壊れないものを作ってほしい。

カリスの要求はいたってシンプルなものである。

最悪切れ味が悪くたって別にいいのだ、全力で振り回しても壊れない武器さえ作れるのであれば。


「短剣と剣に斧、あと手甲でもあれば十分かい?」

「そうですね。ぜひお願いします」

「ウチは料金の半分を前払いしてもらう制度になっててそれだとこれくらいかかるよ」


提示された金額は冒険者としてここ最近活動した金額の約7割ほど。

割に合った仕事をしていないとはいえそれでも一日にこなしていた依頼の量を考えればかなりの高級品である。

だが制作前に武器を握らせてこちらの力量を判断したり、子供だからと言って特に見下すこともなく客として扱ってくれる辺りそういう硬派な店なのだろうと納得する。

それにお金ならばまた稼げばいいだけの事である。


「貯金があるのでなんとか。支払わせていただきます」

「判断が早くていいね、三週間したらまた半額持って来てよ。それまでに仕上げておくからさ」

「お願いします」


依頼を受けてくれたことに頭を下げてカリスは武器屋を後にする。

これから3週間の間に残り半分の料金を稼ぐために仕事をしなければならない。

生きていくのは大変だなと思いつつ、初めて自分専用の武器が出来上がることに少しだけテンションの上がるカリスなのだった。

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魔女の森に産まれし忌み子 空見 大 @580681

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