第17話 聞こえた音



「水色?」


そんな僕に気がついたアルトとテナも足を止める。


僕は右腕を見つめる。

ぐるぐるしてから上にのびて縦に伸びた楕円。

その線をしたにもってきて左にはらう。

ト音記号のように見える。

それに上から十字をきる。


それはまさしく聖跡の形。

僕は恐る恐る聖跡をなぞった。


(そうだ、この位置・・・・右腕のおまじない・・・・)


なぞったその時、音が聞こえた。


「なんだ・・・?この音?」


間違いないと思う。

ふとした瞬間に、耳鳴りのような音が聞こえたように感じた。

なにか「ビー」っと伸ばす音だ。


(・・・・そういえば、シモンに会うまえにも、何でだかわからないけど音が聞こえた・・・)


あの時も、町からはずっと離れていた筈なのに聞こえたラッパのような音。


(今度はなんだろう?あの音・・・なんか知ってるような気がするけどわかんないな。)


なんだろう、なんか日本的なような感じもするし、洋風なような気もするし、全然関係ないような感じもする。


「水色君?どうしました?」


テナにそう言われて、僕はハッとした。


「次の街まで、あとどのくらい??」


「まだシモンの町を出たばかりですからね。疲れました?」


「ううん、大丈夫なんだけど・・・・なんか音がして」


「音?」


「うん。なんだかわかんない。なんかビーって聞こえてきてさ。」


「俺はなんも聞こえないな。テナは?」


「私も何も聞こえませんでしたね。」


アルトもテナもそう言って、ウーンと考える。


「あ、また聞こえた。よくわかんないけど音程はソっぽいけどね。

今思えば、シモンたちに会った時も聞こえたきがするんだよね。」


テナも何かを思い出したように呟いた。


「絶対音感・・・・」


僕はテナを見つめる。

すると、テナは僕に向きなおった。


「もしかして、水色君。君は伝説の娘と同じ魔法ちからを持ってるんじゃありませんか?

娘は耳が良かったと伝わっています。

絶対音感、てやつだとおもうのですが。

僕らの能力は、元々は楽譜を守るために娘が楽譜に分配した魔法ですからね。

私たちには属性がありますけど、特に決まった力は無くて、娘そのものが持っていた魔法が使えるのかもしれませんね。

それを考えたら異世界からこちらに来る力があるのも合点がいく気がするのです。」


僕は目を見開いた。

つまり、僕はこちらに来る時にすでに魔法を発動したことがあるということだろうか。


「僕が持つ力は伝説の娘の魔法・・・・・?」


正直、魔法を使った自覚がないため自分ではよくわからない。

気がつけば日は暮れて、不安にかられながら今日は野宿。

仰向けに寝転がって空を見れば、やっぱり星が瞬いていた。


「この調子でしたら、明日の昼頃には着きますね。」


「だよなー。腹減ったなー。」


「リオさんがサラミとパン持たせてくれてます。

それからドライフルーツも。」


「不景気なのに、僕たちを気遣わせちゃったね」


「そうですね。大事にいただきましょう。」


疲れがたまっていた。

今日歩いている中で頭の中は色々思い出した。正直まだ整頓できていない。

自分の気持ちが一直線になっていかない。

寄り道と寄り道を繰り返して、考えていると気持ちが悪くなりそうだ。


「疲れてますよね?無理をしないでくださいね。」


テナは水を僕に渡してくれた。


「正直、今上手く行きすぎてて怖いんですよ、私は。

なにか一気に厄災が起こりそうな気がしてきます。

だからこそ、無理はしないで欲しいんです。

無理は自分自身がわからなくなってしまいますからね。」


僕はその言葉がなにか引っかかった。


『無理は自分自身がよくわからなくなる』ってどういうことなんだろう。

テナは僕に笑いかけた。

すると、アルトがそっぽを向いたまま言った。


「無理な時は無理っていえよ?

無理していいことはねえからな。

お前、人に合わせようとするタイプだろ。」


再び、僕は目を見開いた。

間違ってはいなかった。

人を否定はしない。

合ってることでも、間違っていることでも、とにかくその場の空気になる。

それが僕だった。


「私たちはね、一緒に楽譜を探すと決めた時から仲間です。

楽譜を探すと決めた時から覚悟はできています。」


テナがそう言った時も、アルトはそっぽを向いたままだった。

それでも、アルトは口を開く。


「言っとくが、俺はお前、嫌いじゃないぞ。」


そう言って、アルトは僕の方を向いた。


「音楽が好きな奴に、悪いやつはきっといねぇから。」


僕は、そう言ったアルトを見つめた。

なんでだろう。

また泣きそうになる。

それに、この世界で出会った人の優しさに触れる度に、なんだか懐かしい気がしていた。

まるで、ずっと昔に来たことがあるような。


「ありがとう。本当に僕は大丈夫だよ」


心からそう言えた。



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水色のコラール 大路まりさ @tksknyttrp

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