ふわふわハッピーエンド
「さて。皆、先の些事は忘れて、引き続きゆるりと過ごされよ」
陛下がパンと手を叩いてそう言うと、楽団が演奏を再開した。
皆、最初は戸惑い気味だったけれど、一組のカップルがダンスを始めたら一人また一人と、手を取り合ってゆったり踊り始めた。隅に用意された立食会場には、可愛いスイーツが宝石のようにきらきら輝いて並んでいる。
わたしがふらりとスイーツの山に引き寄せられると、妖精さんたちもきらきらした目で覗き込んできた。
「一緒に食べる?」
『たべるー!』
小さく切り分けられたケーキと、妖精さんにも食べやすい大きさのベリーをお皿の隅に置いて、わたしも気になるケーキやゼリーを堪能した。
ホールの真ん中では、王太子殿下とアリーシャ様が見つめ合って踊っている。そのお姿はまるで一枚の絵画のよう。
「やっぱあのお二人は絵になるなあ」
『エイミーは、おどってこないの?』
「わたしはいいかな。男性側にとって殆どメリットがないしね」
『そーなの?』
そりゃそうでしょうとも。
次の聖女が見つかるまで恋人らしいことも出来ない。それを差し引いて家が凄くて役に立つってわけでもない。聖女パワーは日常的に使えるものでもない。というか、本来は国のために役立てないといけない力だからね、これ。
強いてメリットを挙げるとするなら、どうしても相手が見つからなかった人が全力全開妥協して売れ残りを回避するのに使える程度じゃないかと思う。
今回の出来事で女神様に見放されなかったのは、彼らが国の転覆を画策してたからなのかな。考えたら公爵家と王家の繋がりを雑にぶった切ろうとしてたんだもんね。取りようによっては国家反逆罪にもなるのか。そうか。
でもまあ、難しいことはお役人様に任せることにして、いまはケーキだ。こんなに高価な美味しいもの、卒業したら一生お目にかかれなくなるし。
「あ、これ美味しい」
「どれどれ? 私にもおくれ」
「へぁっ!?」
真横から急に声が湧いて出て、斜め上に裏返った声が出た。
恐る恐る横を見れば、王太子殿下が所謂「あーん」待ちの顔で待機している。その斜め後ろにアリーシャ様がいるんだけど、全てを諦めたお顔をなさっておられる。
「は……はい、どうぞ……」
わたしも心を無にして、殿下にケーキを一口分けた。
「本当だ、美味しいねえ。たぶんうちのウェリントンシェフの新作じゃないかなあ」
「えっ……シェフ一人一人の味を覚えておられるんですか?」
「そりゃあね。味が変わったら、なにかあったんだなってわかるでしょう?」
なるほどと納得しかけて、毒物混入対策だからって簡単に王宮シェフの味を全員分覚えられるわけじゃないってことに気付いた。危ない。あまりにもおっとり言うから納得させられるところだった。
「アリーシャ様、あの……」
「諦めなさいな。殿下はこういうお方ですもの」
「はい」
滅茶苦茶虚無を背負っておられるアリーシャ様を余所に、殿下はわたしから餌付けされては「美味しいねえ」と満足そうにしている。
どうせなら新しいのを食べればいいのにと思いかけたけど、そうか。毒味か。
いくら何でも学園のパーティに毒なんてってド庶民脳のわたしは思っちゃうけど、そのまさかな場面でこそ起きるんだもんね。ていうかさっき起きたもんね。
そういうことなら、あれこれ食べてみよう。そうだ、これはお役目なんだ。
「あ、これ……アリーシャ様、これ召し上がってみませんか?」
「えっ」
ダークベリーのムースをひと匙掬って差し出すと、アリーシャ様はきょとりと目を瞬かせた。どうしたんだろうって思っていたら、暫く固まってから横髪をかき上げ、ぱくりとお口にお迎えしてくれた。
そのお姿のなんとまあ愛らしいこと。心臓が爆発するかと思った。
「……確かに、好きな味ですわね」
「ですよね? アリーシャ様、ダークベリーのデザートお好きそうだなって思って。良かった、あってて」
「ねえねえ、私も私も」
「はい、ただいま」
横から袖をツンツン引きながらねだられ、同じものを殿下にもお分けした。殿下はそれはそれはしあわせそうな顔でもぐもぐしてから「そうかあ、これがアリーシャの好みなんだねえ」と言ってアリーシャ様を照れさせた。強い。
でも、照れて眉を寄せていたけれど、それもすぐにふんわりした微笑に変わって。そうだ、わたしはこのお顔が見たかったんだって思ったら、何だか凄く安心した。
「アリーシャ様」
「なにかしら?」
振り向いたお顔がまだほんのり赤い。可愛い。
「わたし、いますっごくしあわせです!」
アリーシャ様はきょとりと目を丸くしてから、花が咲くような笑みを浮かべた。
あー、今日も推しが尊い!
山猿令嬢の逆襲~最推し令嬢が侮辱されたので使えるものフル活用でざまぁします! 宵宮祀花 @ambrosiaxxx
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