第8話 sideルベール





 魔王城の地下にある墓地。


 アーデウスの力で蘇ったルベールは、表情にこそ出していないが、非常に焦っていた。



(わ、私の魅了が通じない!?)



 ルベールは対象を意のままに操れるようになる魅了の魔眼を持っている。


 かつてはその力で大国の王を洗脳し、自らに都合の良い世界を作る手前まで行った。


 彼女を倒すために立ち上がった勇者が男であったなら、ルベールは見事に世界征服を果たしていただろう。


 その力は強大であり、男ならばほぼ確実にルベールの虜になってしまう。


 そして、欠片でもルベールに好意を抱いてしまったら女であっても彼女に剣を向けることができなくなる。


 一度でも術中に嵌まったら逃げられない。


 まるで蜘蛛の巣に絡まった蝶のように端から全てを貪り尽くされる。


 ――はずだったのだ。


 ルベールを蘇らせたアーデウスには、その力が通じなかったのである。



(あ、有り得ない。私の魅了は少し精神が強いだけじゃはね除けられない。格上の実力者でも簡単に操れるはず!! なのに、なのにどうして通用しないの!?)



 今朝、空っぽになるまでカエデという人間の少女とエッチしたから、という事実を知る術はルベールには無い。


 今のアーデウスは賢者状態なのだ。


 ちょっとやそっとの誘惑や魅了で理性を失った獣にはなったりしない。


 ……否。少し獣になりかけてはいたが……。


 あと少し、ほんの数時間だけでも後にルベールが復活していたら結果はまた違っていただろう。



(有り得るのは、この男が私なんて簡単に捻り潰せるような怪物である可能性!!)



 ルベールの魅了は隔絶した実力を有する相手には通用しない。


 しかし、ルベールは冷静な女だ。


 早計な判断で決めつけず、自らの力が通用しない他の理由に検討をつける。



(でも待って。この男が私と出会う直前に別の女を抱いていた可能性もある!!)



 当然、過去にもルベールの魅了の力を警戒し、戦う前に女を抱いて賢者状態で挑んできた者も少なからずいる。


 そういう相手の場合、ルベールは決まって同じ対処を行ってきた。



「あのぉ、もし良かったら貴方のお名前を教えてくれませんか?」


「……俺はアーデウス。魔王だ」


「アーデウス様っ、素敵なお名前ですね!! 私、名前を聞いただけでドキドキしちゃいますっ」



 それは、賢者状態を貫通するほどの可愛らしさとエロさで徹底的に誘惑するというもの。


 必要も無いのにわざと跳び跳ねて大きなおっぱいを揺らし、腕に抱きついたりして、とにかくアピールしまくる。


 無論、魅了の力も使いながら、である。


 しかし、ルベールの予想に反してアーデウスの反応は冷たいものだった。



「そうか」


「アーデウス様、とってもカッコイイですっ」


(っ、ま、まずい。これだけ積極的に誘惑しても靡かないということは、確実に私よりも格上の存在!!)



 ちなみに、実際はアーデウスの賢者状態はとっくに貫通されている。


 ルベールの過剰なまでの誘惑に心臓がドキドキしており、興奮のし過ぎで緊張して息子が起立していないだけだった。


 それを知らないルベールは、アーデウスを魅了が通じない遥か格上の相手と勘違いしてしまった。


 ルベールは更に焦る。


 そんなルベールを更に焦らせることを、アーデウスは口にした。



「……やめろ」


「っ!?」


(この男、私が魅了の力を使っていることに気付いている!?)



 当然、アーデウスは気付いていない。


 少し「何かされてるかな?」という感覚こそあるが、ルベールの魅了の力には欠片も気付いていなかった。


 ではアーデウスは何をやめろと言ったのか。


 それはルベールの過剰なまでのスキンシップのことだった。

 魔王っぽさを出して言ったため、短すぎて意味が通じず、勘違いを加速させる。



(くっ、これ以上魅了の力を使うのは危険かも知れない……)



 意外とそうでもない。


 アーデウスはルベールをただエッチな格好をして男を誘惑する、性格の悪そうな女の子としか思っていない。


 しかし、ルベールはアーデウスの強さを勘違いしたまま対処法を必死に考える。


 魅了が通じない相手には実力行使をしてきたルベールだったが、アーデウスと戦えば負けると冷静に判断した。


 ルベールは直接的な戦闘は苦手だ。


 人間一人の頭を握り潰す程度なら可能だが、格上の魔王を相手に勝てると思えるほど奢ってはいない。


 ちなみに、実際に二人の間には天と地ほどの差がある。


 ルベールの方がアーデウスより数段強いのだ。


 シャウラとアーデウスのような隔絶した実力差ではないが、戦えばアーデウスが確実に負けるくらいには強い。


 それに気付かないルベールは、知略によってこの場を乗り切ろうと考える。


 謀略や駆け引きという点でルベールの右に並ぶ者はいない。

 しかし、その彼女を以ってしても思いついたのは自らの容姿を最大限に利用して命乞いをすることくらいだった。



「あのぉ、アーデウス様ぁ? ルベール、アーデウス様のことを好きになってしまいましたぁ」


(屈辱だわ!! 数々の男を虜にしてきた私が、無様に命乞いすることしかできないなんて!!)



 猫なで声でアーデウスに媚びるルベール。


 しかし、その屈辱とは裏腹に興奮しているルベールがいた。


 初めてだったのだ。


 魅了を使っても、全力で誘惑しても落ちなかった男と出会ったのは。



「アーデウス様ぁ。私のこと、可愛がってくれませんか?」



 そのストレートな言葉に反応し、アーデウスがルベールを見つめる。


 その何を考えているのか分からない視線に、ルベールはビクッと身体を震わせた。



「……本気か?」


「はいっ!!」


(ふ、ふん。やっぱり男なんてこの程度ね。少し誘惑したらその気になるんだから!!)



 どれだけ強い男であっても、自らの美しさの前では発情期の猿も同然。

 ルベールはプライドを取り戻し、アーデウスを誘った。


 それが間違いだったと理解したのは、アーデウスに腕を引かれて寝室に向かった時だった。



「え? で、でっか……」



 暴走したアーデウスの魔剣を見たルベールは絶句した。


 そのままベッドに押し倒されて、身体の隅々まで可愛がられるルベール。


 ルベールはベッドの上では百戦錬磨だった。


 しかし、アーデウスはFDVRにて圧縮された時間の中で何十、何百という女を抱いてきた、いわばプロフェッショナル。


 勝てるはずが、無かったのだ。



(あ、やば……♡ 負けりゅっ♡)



 ルベールは完敗した。


 そして、アーデウスという魔王に愛と忠誠を捧げるのであった。


 





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は自分から誘惑してきた美少女が堕ちるシチュエーションに興奮する侍」


ア「分かる」


作者「あ、しばらく休載します。捨てられ王子の方は投稿を続けますので、よろしければそちらも読んでみてください」


ア「!?」



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歴代魔王を蘇生したら最強美少女ばかりだった件。 ナガワ ヒイロ @igana0510

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