第7話 魔王、リセマラする





 俺は一発やらかして、ふと冷静になる。


 賢者タイムという奴だろう。目の前で気絶しているカエデを見て、罪悪感に苛まれる。



「や、やっちまった」



 いくら始末するつもりとは言え、やってることがゲスすぎる。


 シャウラとのエッチで少なからずそういう欲求が爆発したのかも知れない。

 俺、彼女いない歴イコール年齢の童貞だったからなあ。


 VRで体験したことは何度もあるが、生身での経験はシャウラが初めてだ。


 認めたくはないが、猿のように盛っていた。


 次からは自制心を持って、間違っても下半身に脳を支配されないようにしなければ。



「……あとはカエデを始末するだけだが……」



 俺は尻尾でカエデにトドメを刺そうとして、出来なかった。


 いや、普通に無理だわ。


 一回でも抱いちゃったら情も湧くし、傍に置いておきたいとすら思っている。


 でも人間を殺さないで傍に置くというのは配下たちに示しが付かないだろうし、俺もカエデも命が危険になる。


 ……仕方ない。



「目覚める前に安全なところまで運ぶか」



 俺はカエデを抱えて、魔王城を出る。


 最寄りの国はシャウラが魔物たちに滅ぼさせようとしてるし、出来るだけ遠い方が良いよな。


 俺は空を飛翔する。


 え? 羽も無いのにどうやって飛んでるのか、だって?


 それは俺も分からん。やろうと思ったらできただけである。



「……お? 街見っけ」



 草原の真ん中に大きな街があった。


 俺が街の前に着陸すると、急停止したことで大きな土ぼこりが舞う。


 こちらに気付いた兵士が大勢駆け寄ってきた。


 姿を見られないよう、カエデを地面に優しく寝かせたら撤退も素早く行う。



「な、なんだ!?」


「魔物か!?」


「いや、待て!! 人間の少女だ!!」



 兵士たちはカエデに駆け寄り、状態を確認して街の中まで搬送する。


 あれなら心配はないだろう。


 俺は再び宙を舞い、魔王城まで全速力で帰還する。

 魔王城には誰もいないが、もし誰かが帰ってきて魔王が不在だとバレたらまずいだろうからな。


 寄り道はしないで真っ直ぐ帰る。



「ふぅ、つ、疲れたな……」



 空を飛ぶのは気持ちが良いけど、少し風圧がしんどい。


 本気を出せば今の倍以上、音速を軽く越えることが出来そうだが、風圧で死にそうなのでやめておこう。



「しかし、まさかこうも簡単に侵入されるとは」



 いくら魔物たちが全て出払っているとは言え、やはりこの警備の薄さは問題か。


 シャウラに魔物たちを任せて出撃させたのは失敗だったかも知れない。


 次に襲撃してきたのが勇者だったら俺は為す術が無いわけだからな。



「……やるしかない、か」



 俺は再び過去の魔王たちが眠る墓場がある、魔王城の地下を訪れた。


 無数に立ち並ぶ十字架の中から適当に選び、その墓に眠る魔王を蘇生する。



「――蘇れ」



 シャウラを蘇生した時と同様、魔王城の地下に光が満ちる。


 その光の中から姿を現したのは、通常よりも少し大きなゴブリンだった。

 ゴブリンは目をギョロギョロと辺りを見回している。


 な、なんだ?


 気配というか、存在感がシャウラと比べたらあまりにも感じられない。


 ゴブリンが俺を見て下品に笑う。



「ぎゃはははは!! お前がオレ様を生き返らせたのか!!」


「あ、ああ、そうだ」


「よーし、褒美にお前を殺して食ってやる!! オレ様の血肉になれてお前も嬉しいだろう!?」



 そう言ってゴブリンの魔王、仮にゴブリンキングと呼ぼうか。


 ゴブリンキングは俺に襲いかかってきた。


 しかし、その動きはあまりにも拙く、オレの目でも追える程に遅い。


 俺は尻尾を振るってゴブリンキングを弾き飛ばしてやった。



「ぎゃあああ!? て、てめー、何しやがる!!」


「いきなり襲ってきたのはそっちだろう」



 ゴブリンキングは何度も向かってくるが、あまりにも弱い。


 ……これは配下にしても使えないな。


 俺はゴブリンキングに鱗を飛ばして毒と麻痺状態にして放置した。

 しばらくしてゴブリンキングが絶命したのを確かめてから、次の魔王を生き返らせる。



「……なんか、魔王ってピンキリなんだな」



 俺よりも遥かに弱い魔王もいれば、シャウラのような超格上の魔王がいることもあるのかも知れない。

 少なくともさっき復活させたゴブリンキングは俺よりも弱かった。


 あまりにも弱い魔王を配下に加えたところで、大して意味は無いからな。


 ゴブリンキング以下の強さの魔王はあの世に送り返すとして、ゴブリンキングよりも格上の魔王を狙って蘇生してみよう。


 そう思ったのだが……。

 


「よ、弱い奴しか来ない!!」



 リセマラ感覚で魔王を片っ端から蘇生してみるが、どいつもこいつもゴブリンキングと同じくらいか少し弱いくらい。


 彼らと比べたら俺はかなり強いのではなかろうか。


 そんな錯覚に陥ってしまうくらいには過去の魔王たちは弱かった。



「もしかしてシャウラが化け物みたいに強いだけで、俺ってそこそこ強い魔王なのか?」



 シャウラとの出会いで少し失っていた自信を取り戻す。

 でもいい加減に俺よりちょっと弱いくらいの強い魔王が来て欲しい。


 そう思いながら、俺は次の魔王を復活させた。



「あら? ここは……」


「っ」



 次に目覚めたのは、シャウラに肩を並べるほどの美貌を持った少女だった。


 年齢は十五、六歳くらいだろうか。


 幼さの残る顔立ちをしており、肩くらいまで伸びた銀色の髪が綺麗に輝いている。


 頭からは羊のような捻れ曲がった二本の角が生えており、腰の辺りからはコウモリのような翼と尻尾が伸びていた。


 何より特筆すべきはその抜群のスタイル。


 少女でありながら、その身体はとんでもないわがままボディーだった。

 胸の大きさに至ってはシャウラ以上かも知れない。


 問題はその格好だった。


 あまりにも露出度が高いボンデージ衣装。

 角や翼、尻尾と相まって、大人の漫画に出てくるようなサキュバスみたいだった。



「なるほど、理解しました。貴方が私を生き返らせてくれたんですね?」


「あ、ああ。そう――」


「ありがとうございますっ!!」



 こちらが言い切る前に、サキュバスっ娘は俺に抱きついてきた。


 柔らかいおっぱいの感触が伝わってくる。



「私はルベールと申します。どうか末永く、よろしくお願いしますね?」



 そう言ったサキュバスっ娘――ルベールの目が怪しく光る。


 可愛いと思った。


 何を捨ててでも、あらゆるものを捧げてでもルベールを手に入れたいと心から思った。


 そして、思わずゾッとする。


 シャウラを復活させた時とは少し違う、圧倒的な強さから来る悪寒ではない。


 もっと、根本的なもの。


 性格というか、人間性というか。そういう部分が違う。


 分かりやすく言うなら、根っからの邪悪。



「……離れろ」



 今朝方カエデをめちゃくちゃ抱いていなかったら、ルベールの誘惑に屈し、彼女の思うままに動く人形にされていたかも知れない。


 危ないところだった。


 俺はルベールを警戒しながら、目の前の魔王との対話に望むのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「えっちだけど性格が悪い女の子っていいよね」


ア「えぇ……」



「生き返ったと思ったら殺されたゴブリンキングで草」「サキュバスっ娘は至高」「分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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