第6話 魔王、ゲスなことを考える





 魔王城が人間界と繋がった。


 俺はシャウラとのエッッッッッを済ませ、彼女を連れて魔物たちが集まる王座の間へと向かう。



「魔王様ッ!! ご命令をッ!!」


「人間共を滅ぼす許可をッ!!」


「人間を殺せッ!! 人間を殺せッ!!」



 王座に座ると同時に魔物たちから盛大な「人間殺せ」コールが始まる。



「静まれ」


「「「……」」」



 俺の一言で魔物たちが静まり返り、次の言葉を黙って待つ。


 本当は人間と戦争とか凄く嫌だ。


 しかし、ここでチキンを発揮したら俺は魔物たちに袋叩きにされるだろう。

 せっかく配下に加わったシャウラだって反逆してくるかも知れない。


 本当に申し訳ない。申し訳ないが、俺はやる。



「お前たちに命令することはただ一つ。人間を殺せ。徹底的に、完膚なきまでに、人類を抹殺しろ」


「「「……う」」」



 魔物たちが叫ぶ。



「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!! 殺せ、人間を殺せッ!!!!」」」」」


「……」



 怖い。こいつら本当に怖い。


 どんだけ人間を殺したいんだよ。魔物って人間に何か恨みでもあんの?


 ただの魔物の本能とか言わないよな?


 どちらにしても怖いけど。可能ならこの場から早く逃げ出したい。


 あ、そうだ。



「……シャウラ」


「なんだ?」


「お前に魔王軍を任せる。自由に使っていい。人間を滅ぼしてみろ」


「!?」



 我ながら名案だ。


 シャウラは魔王だったわけだし、怖い奴らを押し付けるのにちょうど良い。


 ……いや、待て。


 今のは少し軽率だったかも知れない。仮にも魔王が配下に全てを任せるのは押し付けがすぎるような気がする。


 何か適当な言い訳を考えねば……。


 と思ったら、何やらシャウラは俺に都合よく解釈してくれたらしい。



「フッ、なるほど。余の個としての力はともかく、将としての力を見たいと、そういうことか」


「え? あ、そ、そうだ!! よく分かっているじゃないか」


「良いだろう。そなたの、いや、魔王様の信頼に応えられるよう全力を尽くそうではないか」



 そう言って、シャウラが頭を垂れる。



「手始めに最寄りの国を滅ぼしてみせよう。吉報をお待ちいただきたい、魔王様」


「あ、ああ、期待しているぞ」



 ごめん。最寄りの国の人、本当に超ごめん。


 シャウラは魔物たちを引き連れ、最寄りの国を目指して出撃した。


 と、そこで俺はあることに気付いた。



「……シャウラの奴、魔王城を守る奴らまで連れて行ったのか?」



 たしかに魔王軍を任せるとは言ったけど。


 でもまさか全軍を引き連れて出撃するとは思わないじゃない。



「警備が全く無いのは不安だな……」



 勇者はいつ来てもおかしくない。


 流石に今すぐ魔王城に来たりすることは無いだろうが、やはり不安だ。


 うーむ、どうしたものか。



「また魔王を蘇生するのは少しなあ……」



 一回目は何故かシャウラが色仕掛けをしてきて、男の本能に従ったら上手く行ったが、二回目も上手く行くとは限らない。


 シャウラにあれだけ強者アピールをしておいて次に復活させた魔王に負けたら一大事だしな。



「ま、いきなり魔王城が襲撃でもされない限りは大丈夫だよな。ははは」



 ……おっと。

 あらかじめ言っておくが、今のは断じてフラグではない。


 そもそも『魔王城観光ガイド』によると、魔王城の転移先は完全なランダム。


 規則性は無く、転移先を読まれる心配は無い。


 仮に人間界に転移した初日に魔王城へ侵入してくる者がいたら、近くに偶然居合わせた者だけだろう。


 故に襲撃者の心配は絶対に無い。


 そう思いたかったのだが、何者かが駆け足で俺のいる王座の間に一直線に向かってきている。



「たのもー!! ここが魔王のいる部屋か!!」



 いや、早いって!! フラグ回収が早いって!!


 俺は若干の焦りを感じ、まさか勇者がもう来たのかと不安になる。


 しかし、侵入者は勇者ではなかった。


 勇者の容姿は知っているからな。間違えることは無い。



「……ふむ」



 でも、俺はその侵入者に見覚えがあった。


 長い黒髪をポニーテールにした、日本人っぽい顔立ちの少女。

 和服で侍のような出で立ちをしており、その手には刀を握っている。


 たしかにどこかで見た気が……。



「あっ、そうだ」



 『ファンタジーブレイブ』のパッケージに勇者と一緒に写ってた子だ。


 ということは主人公の仲間、だよな。


 しかし、サムライガールの他に人の姿は無く、単騎で突入してきた様子。

 もしかしてまだ勇者の仲間ではなかったりするのだろうか。


 何であれ、大人しく首を差し出すわけにはいかない。


 俺だって死にたくないからな。



「拙者の名はカエデ!! 魔王、貴殿と手合わせ願いたい!!」


「……良いだろう」


「いざ尋常に――」



 カエデと名乗った少女が刀を構える前に、俺は自らの尻尾を振り回した。


 鱗が飛び、カエデの頬や腕を掠める。



「くっ、いきなりとは卑怯な!!」



 殺し合いに卑怯も何も無い。


 戦いで何よりも優先すべき大切なことは、生き残ることだ。


 人は何度でもやり直せる。


 命がある限り、生きている限り、死んでいないなら何度でもリスタートできる。


 いやまあ、今の俺は人間じゃないけど。


 カエデが刀を構え直し、俺に一撃を与えようと一歩を踏み出した、その時だった。



「っ、か、身体が……う、動かない!?」



 カエデは俺の鱗を躱すことができず、少なからずダメージを負った。


 俺の飛ばした鱗を食らった者は、例外無く何らかの状態異常を引き起こす。


 カエデは身体が麻痺してしまったらしい。



「勝負あり、だな」


「くっ、殺せ!!」



 お、おお、生のくっころか。


 ここはエロいことをするのが紳士の嗜みのような気はするが……。


 たしかに殺した方が良いかも知れない。


 カエデは間違いなく主人公の仲間か、あるいはそれに近しい立場になる重要なキャラクターだろうからな。


 勇者の戦力になるなら、早めに始末しておくべきだろう。

 俺はカエデにトドメを刺そうと、身動きの取れない彼女に近づいた。


 と、そこであることに気付いてしまう。


 カエデが目に涙を浮かべながら、肩を小さく震わせていることに。


 ……ごくり。


 いや、待て待て。

 たしかにくっころは一度やってみたいシチュエーションだ。


 嫌がる女の子を無理矢理組み敷いて快楽堕ちとかさせてみたいと思ったこともある。


 しかし、カエデは始末せねばならない。


 彼女が生きていることは必ず俺の今後に悪い影響があるからな。


 と、その時だった。



「な、なんだ? か、身体が熱い……♡」



 何やらカエデの様子がおかしい。


 頬は熱を帯びて、呼吸が荒く、俺をうっとりした表情で見つめている。


 そう言えば、アーデウスの状態異常に魅了とかそういうのもあった気がする。


 え、もしかしてそういうの?



「はあ♡ はあ♡ はあ♡」



 ……ごくり。


 いやいや、駄目だよな。それは駄目。俺は理性の無い獣ではない。


 でも……。


 シャウラの時は生存本能が働いて全力でやらかしてしまったが、こうして目の前で美少女が苦しそうにしているのはどうなのだろうか。


 据え膳食わぬは男の恥、という言葉もある。


 美少女が俺を見つめて物欲しそうにしている様を見て何も思わないわけがない。



「……ふむ」



 と、ここで俺はゲスなことを考えた。


 どうせ始末するなら、少しくらい良い思いをしても良いのでは、と。


 俺は我慢をやめてカエデを抱くのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「これはギルティ」


ア「異議あ――」



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