第5話 魔王、魔王を従える





 どうしてこうなった!?



「さ、先に言っておくが、別にそなたに屈したわけではないぞ」


「そ、そうか」



 口では屈したわけではないと言いつつも、最初の殺気が嘘のように感じられないシャウラ。


 むしろ俺をちらちら見ては頬を赤らめている。


 どうしていきなりシャウラとエロいことをする羽目になったのか、思い出せない。


 ただシャウラの圧倒的な力を前に死を感じ、子孫を残そうと全力を出している息子を彼女に撫でられた。


 息子は恐怖の対象であるシャウラを女として認識して、俺の理性は消滅。


 気が付いたらシャウラとやらかしていた。


 うん、やっぱり分からない。しかし、当初の計画とは異なるが、シャウラは俺の配下になったと思って良いのだろうか。


 ここは魔王っぽい言葉で聞いてみよう。



「シャウラ、俺のもの配下になれ。異論はあるか?」


「っ♡」



 一度身体を重ねたからか、シャウラからは俺に対する敵意や殺意をまるで感じない。


 だから少し強気な言葉で言ってみる。


 すると、シャウラは顔を耳まで赤くして小さく頷いた。



「う、うむ♡ 余はそなたのものになろう♡ あ、く、屈するわけではないぞっ♡」



 よっしゃあァ!!


 半ば無理矢理迫ったようなものだし、当初の計画とは少し異なるが、俺に従う強力な配下が手に入ったことに変わりはない。


 これなら勇者とその仲間たちが襲ってきても何とかなるだろう。


 っと、いかんいかん。慢心はダメだ。


 俺は様々なゲームをプレイしてきたが、大抵のラスボスはそうやって破滅している。


 今の俺はラスボス。油断は禁物だ。



「その、アーデウスよ。そなたに一つ、言っておきたいことがある」


「なんだ?」



 シャウラが視線を逸らしながら、申し訳なさそうに頭を下げた。



「すまなかった。そなたをいきなり攻撃したこと、心から謝罪する。言い訳になるが、状況を飲み込めずに困惑していたのだ」


「あ、ああ、そんなことか。気にするな」



 あれは直撃してたら死んでたかもな……。


 まあ、当たらなかったわけだし、せっかく配下になったのにそのことを追求して機嫌を損ねるのは得策ではない。


 ここは水に流して気にしないことにするのが一番だろう。


 と思ったら、何やらシャウラが勘違いする。



「フッ。やはりあの程度の攻撃は食らった程度では問題にならぬ、と。そういうことか?」


「え? あ、ああ、そうだ」



 なんか壮大な勘違いしてるけど、下手に否定したら怖いし、頷いておこう。



「ならばアーデウス、一つ頼みがある」


「な、なんだ?」


「余と全力で戦って欲しい。余はそなたのものになったが、魔王としての力はどちらが上か確かめたい」


「ん゛!?」


「ど、どうした? 何かまずいことでもあるのか?」



 予想外のお願いに俺は思わず咳き込む。


 まずいことも何も、戦ったら俺が秒で死んじゃうよぉ!!


 ど、どどどうしよう。どう誤魔化そう!?


 ……仕方ない。こうなったら、あれをやるしかない!!



「……無理だな」


「な、何故だ!? まさか逃げる気か!?」


「違う。そうじゃない」



 俺はシャウラの目を見つめながら、真剣な面持ちで言う。



「俺が本気を出せば、シャウラは肉片すら残らずこの世から消滅してしまう」


「!? そ、そこまで、余とそなたには隔絶した差があるのか?」


「ああ、そうだ。俺は指一本、瞬き一つせずにお前を魂もろとも消滅させることができる。仮に1%未満の力で戦ってもお前を死なせてしまう。俺はお前を失いたくない」


「そう、なのか……」



 臭いものには蓋を、嘘を嘘で塗り固める。


 我ながら面倒事の先延ばしだと思うが、今はこれしかない!!



「……分かった。そういうことなら、諦めよう」


「物分かりが良くて助かる。……ん? 今は、って言った?」


「うむ。余は己を鍛え直す。そなたに相応しくありたい」



 これ以上強くなったら本格的にどうすんだよ。


 でもまあ、よく分からないが、シャウラが強くなる分には勇者を倒せるかも知れないし、良いこと尽くめだよな?



「ああ、そうするといい。上で待っているぞ」


「うむ。必ずそなたに相応しい女になってみせよう♡」


「ん? あ、ああ」



 何やら会話に違和感があったが、深くは気にしないようにしよう。


 それと、一つ分かったことがある。


 この世界は改造データを用いた『ファンタジーブレイブ』の中ではない。

 『ファンタジーブレイブ』とよく似た、現実の世界である。


 何故そう判断したのか。簡単な話である。


 シャウラを抱いた時の気持ち良さはFDVRでは再現できないものだったからだ。


 俺とて女に飢えている独身社会人。


 FDVRの技術を応用したアダルトゲームは幾つかプレイしてきたが、そのどれと比べても遥かに気持ち良かった。


 ここはゲームの中ではない。現実だ。



「おい、アーデウス♡」


「ん?」


「その、だな♡ そなたももの足りぬであろう? 良かったら余を使って欲しい♡」



 そう言って俺にむちむちの太ももや大きなおっぱいを押し付けてくるシャウラ。


 ここまで密着されると生命の危機を感じる。


 ライオンのような肉食動物に懐かれるというのはこういう感覚なのだろうか。


 中身を出し切ってへなへなになってしまった俺の息子は恐怖で奮い立ち、女を孕ませようとパワーを充填してしまう。


 正直に言うなら、俺はシャウラが怖い。


 実は強くないことがバレたら秒で殺されてしまいそうだから。


 しかし、それはそれとして。



「ああ、可愛がってやる」


「う、うむ♡」



 エッッッッッッッなのでオッケーです!!


 俺の興奮はシャウラへの恐怖を上回り、一振りの魔剣が彼女を貫く。


 後ろからシャウラのおっぱいを揉みしだいたりもして、とにかく内に宿る性欲を発散した。


 その時である。



「むっ」



 魔王城を激しい揺れが襲った。


 今までの比ではなく、窓の外を見ると景色が変わっている。


 さっきまで魔王城があった異次元の空は、全ての色の絵の具をぶちまけたようなぐちゃぐちゃなものだった。


 しかし、曇ってはいるものの、今では俺の知る空になっている。



「人間界と繋がったのか……?」



 だとしたら、こうしちゃいられない。


 急いで魔物たちを率いて勇者の抹殺に赴かねばならない。


 詳しい時期までは把握していないが、アーデウスが登場するのは物語の中盤。

 つまり、この時点なら勇者のアーデウス対策装備が整っておらず、倒せる可能性が高い。


 そう思ったのだが、俺は動けなかった。



「アーデウスっ♡」



 猫なで声でおねだりしてくるシャウラ。


 このまま彼女を無視して勇者を始末しに行くべきなのだが、断れない。


 一度冷静になって考えてみよう。


 勇者を始末することは大事だが、シャウラとの仲を深めておくのもいずれは勇者を倒す上で役に立つはず。


 つまり、どちらを取っても間違いではない。


 俺は即座に決断する。どちらも正しいなら、より楽しい方を選ぶ。


 むしろそっちの方がモチベーションが上がる!!



「アーデウスっ♡ アーデウスっ♡」



 明日から。明日から本気で勇者を倒すために動くから!!

 決してエロい女の子とエロいことがしたいわけではない!!


 俺はシャウラとの仲を深めることを優先した。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「この嘘つき!」


ア「……否定できない」



「エッなのでオッケーです」「シャウラ可愛い」「バレたらどうなるのか」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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