第4話 sideシャウラ






 魔王城の地下。


 アーデウスの力によって復活した魔王、シャウラは感嘆していた。



(この男……。わざと外した上に手加減していたとは言え、余の力の一端を見て瞬き一つしないとは)



 目の前の男の胆力を、シャウラは素直に称賛する。


 まあ、実際は――



(ハッ!? あ、あまりの恐怖で目を開けたまま気絶してしまった!!)



 アーデウスは突然のビームに目を開けたまま一瞬気絶していただけである。


 しかし、シャウラにそれを知る術は無い。


 シャウラはアーデウスの様子を見て、更にあることに気付いた。



(あまりにも無防備すぎる……)



 シャウラから見たアーデウスは、一切の警戒をしていなかった。


 隙だらけ。殺すのは容易い。そう、あまりにも容易すぎる程だった。



(余を前に何故ここまで無警戒でいられる? まさか余のことを知らない? いや、知らないなら知らないとしても、余の強さくらいは分かるはず)



 ほんの一瞬の時間。


 しかしながら、シャウラはその一瞬のうちにあらゆる可能性を見出だした。


 そして、それはあまりにも的外れだった。



(まさか、余の実力を知った上で警戒する必要が無いと判断したのか?)



 普通なら有り得ない。


 目を合わせて秒で攻撃してくるような者を相手に警戒する必要が無いと判断する。


 それ即ち、いつでも叩き潰せると断じたということに他ならない。


 シャウラは己のプライドを刺激され、よりいっそうアーデウスに殺気を向ける。



(……いや、冷静になれ。もしかすると、余の思っている以上にこの男が弱く、こちらの実力を正確に把握していない挙げ句危機感が無いだけの可能性も……)



 シャウラが自力で答えに辿り着こうとした時、彼女の視界にあるものが映った。


 それは、アーデウスの剣。


 あるいは息子とも言う男の証が、大きくなっていたのだ。



(っ、いや、違う。まさかこの男、余を女として見ているのか!?)



 シャウラは驚愕する。


 それはシャウラにとって、あまりにも異常すぎる事態だったから。



(た、たしかに余の見目は整っている方、だと思うが。それでも魔王たる余を女として見る者など今までいなかった)



 シャウラは自分の容姿を自覚している。


 かつて彼女の前に立ちはだかった者たちは揃ってシャウラに見惚れていたからだ。


 しかし、その誰もがシャウラの力を見て恐怖した。

 絶対的な魔王の力を前に絶望するか、あるいは恐怖を克服して立ち向かってくるか。


 少なくとも力を見せつけた後でシャウラを女として見る者はいなかった。


 まあ、実際は違う。


 死を感じ取ったアーデウスの本能が子孫を残そうと息子を起立させただけに過ぎない。



(こ、この男、やはり只者ではない)



 シャウラはこの時点で、アーデウスを同格の相手と認めた。


 いや、あるいは格上かも知れないとも。



(な、何故この男は何も言わないのだ!? 余の身体を舐め回すようにじろじろと見て、何を考えている!?)



 それは正解。


 アーデウスはシャウラに恐怖しながらも、その抜群のスタイルを視姦していた。


 もはや死を悟っているが故の行動だ。


 復活させた相手が従わない場合、本来なら土下座で命乞いし、その傘下に加わってナンバー2の地位に収まろうと考えていたアーデウス。


 しかし、あまりの恐怖に作戦を忘れてしまい、死を覚悟してしまっていた。


 このまま死ぬくらいなら!!


 そう思って、アーデウスは目の前の美女を自らの記憶に焼き付けている。


 ただそれだけなのだが、勘違いは加速する。



(くっ、余の胸をじろじろと!! まさか余が自ら膝を屈し、貴様に媚びを売るのを待っているとでも言うのか!?)



 シャウラは羞恥心のあまり、思わず拳を握り込む。


 かつて人間界の半分を手中に収め、人間共を恐怖の底に追いやったシャウラが膝を屈するなど有り得ない。



(しかし、この男とここで戦っては無事で済まぬだろう。余が敗れるという可能性も十分にある)



 シャウラの勘が戦闘による決着を忌避する。


 実際の実力には天と地ほどの差があるのだが、残念ながらシャウラは気付かない。


 そのまま思考を巡らせるシャウラ。



(この男と戦わず、従わせることができるなら余の力になる。殺し合いをせずに従わせる方法は無いだろうか)



 と、そこでシャウラはあることを思い出す。


 彼女の配下であり、良き相談相手でもあったサキュバスが口癖のように言っていたことだ。



(人も魔物も、男は少し気持ち良くしてやれば盛った猿も同然で言うことを聞くようになる、と奴が言っていたな)



 シャウラは気付いていないが、この時点で目の前のアーデウスを男として意識していた。


 自分と同格以上の強い男が自らを女として見ていることに、ある種の優越感のようなものすら抱いている。


 だから調子に乗り、目の前の男を誘惑してしまった。



「おい、貴様。この硬くしているものはなんだ?」



 シャウラは少し前屈みになりながら、どたぷんっと大きな胸を揺らし、アーデウスの息子を軽く撫でながら言う。


 初めて触る男の証がビクンと跳ね、シャウラは思わず「ひゃっ」悲鳴を上げそうになる。


 が、必死に強がって誤魔化した。



「ふ、ふん。なんだ、こんなもの。大したものではないな」


(な、なんだ、これは? 触ってみると意外と大きいな……。余の腕よりも太くて長いぞ)



 シャウラはズボン越しにアーデウスのアーデウスを撫で回した。

 身動き一つせず、ただ己の息子を痙攣させるだけのアーデウスにシャウラは勝利を確信する。



「ふ、ふん。急に黙り込んでどうした?」


「……」



 そして、それが間違いだったと気付いたのは、次の瞬間だった。


 シャウラは腕を引かれ、魔王城の最上階にあるアーデウスの私室に連れ込まれた挙げ句、ベッドに押し倒され、組み敷かれてしまったのだ。


 ドキッとシャウラの心臓が跳ねる。



(あっ♡ こ、この男、強引な上に力が強い♡)



 実際はシャウラの方が膂力に優れるが、不意を突いたアーデウスの行動により、彼女は力を思うように出せなかった。


 また、アーデウス自身が火事場の馬鹿力を発揮していたということもある。


 アーデウスはもはや何も気にしていない。


 このまま死ぬくらいなら、いっそ良い夢を見てから死のうと本気で思っている。


 それ故の怪力。女を抱くための一時的な力。



「ま、待てっ♡ まだ心の準備がっ♡ あ、ちょ、本当に待っ♡」



 シャウラは抱かれた。


 出会ったばかりの、自分を女として見ている男に身体の隅々まで捧げてしまった。


 人間界の半分を手中に収めた時の達成感を優に上回る優越感で、シャウラの思考が真っ白に染まってしまう。



「き、貴様っ♡ も、もっと優しくしろっ♡」


「俺の名前はアーデウスだ」


「し、知ったことかっ♡」


(アーデウス……♡ アーデウスっ♡ アーデウスっ♡)



 心の中で名前を呼ぶ度にシャウラの頭の中はアーデウスでいっぱいになった。


 まるで命を賭けているかのようなアーデウスの力強い腰遣いに、シャウラは女としての喜びを感じ、惚れてしまう。



(ああ♡ ダメっ♡ アーデウス、好きっ♡)



 二人の時間は翌日まで続いた。


 こうして、シャウラはアーデウス上下関係を分からされてしまうのであった。





 

―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「チョロインで草」



「チョロインか」「でもそれがいい」「うーん、これは変な知識を与えたサキュバスが戦犯」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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