第3話 バトルタイプの機械人形
薄暗い樹海の中を彷徨っていた。
再誕の使徒とかいうわけのわからない人喰い集団の地下拠点から這い出てみたら、何と目の前に広がったのは広大な一面の森。
まさに樹海、森の海。
結構まずい状態に陥っているということは自分自身理解していた。
ここがどこなのかはもちろん。
目標。
自分がどこへと向かうべきなのかも、何をするべきなのかもしたいのかも、イマイチよく分かっていない。
ひとまず人間らしく生きること、生きのこることを目標とするのならば、こんな森の中で無知無謀なサバイバルなんてできる限りしたくはないわけで、一縷の望みをかけ誰かに助けを求めるようとしても、まず知り合わなきゃ話にならないし、ただ受け身に突っ立っていても拉致が開かない。
歩かなきゃいけないなーという浅はかな考えのもと。俺はおおよそ体内時計換算3時間もの間この森の中をぐるぐると彷徨っていた。
つまり、遭難です。
ええ、そうなんです。
「おーい。
お前、本当は自由に喋れんだろ?
黙ってないで何とか言えって」
…。
俺はそう口に出してもう一人の自分に呼びかける。
もう慣れたものだけど、俺はいわば二重人格ってやつなようだ。
身体の中にはもう一人別の人格がいる。
ソイツはこの女の身体の元々の持ち主であって、俺なんてものは身体に入り込んだだけの形ない異分子なのだけど、なぜだかそんな俺が彼女の身体をこうして主導的にイソイソと動かしていた。
「なに?」
何度目かの呼びかけでやっと答えてくれた彼女。
口を二人分さわしなく動かしてるからか、側から見たら一人芝居しているように見えるだろう。
「さすがにさ、ちとヤバくない?
このままじゃ俺ら死ぬぜ?
空腹とか、脱水とかで死ぬ」
空腹はまだ我慢できるが、問題なのは脱水の方だった。森は蒸し暑く、無慈悲にも身体から水分を奪っていく。
おかげで喉がカラカラ。
頭はクラクラ。
「死ぬなら死ぬでいい」
「何だよさっきは死にたくないとか言ってたのにさ」
「…それは、忘れて」
いやわすれましぇーん。
あの長文激病みコメントは忘れたくてもなかなか忘れられませーん。
怖すぎて夢に出てきまーす。
もう助けてくださーい。
「…もういい、死ぬから」
彼女は突然強い思念力で身体の主導権を奪うと、首を締め始めた。
俺の手で、俺の首をこうガシッと。
「ちょっ!?ちょちょちょ!!」
共同の身体である。
死なれたらまずいので身体の主導権バトルを制しなんとか首から手を離す。
「げぽっげほっ…!
…おまっバカ!
マジで死ぬ奴があるか!!
アホ!バカ!マヌケ!」
ちょっと揶揄っただけじゃないか!
そんなんで死のうとすんな!
ガラスのハートすぎんだろ!
もっと自分の命を大事にしなさい!
「次、揶揄ったらほんとうに死ぬから…」
「わ、わかった、わかったよ、ごめんって。
君が死んだら俺も死ぬんだからやめて。
ね、仲良くしよ?
仲直りしよ?
言っとけど俺は死にたくはないからね?」
この女ならマジで死にかねん。
今回はなんとか止められたけど次は止められるかもわからん。
はは。
ははは、やれやれ、
とんでもねえ病み系女子の身体に取り憑いちまったようだ。
・・・・
それから少しの後刻のことだった。
ある日森の中、
くまさんに、出会った。
「ぎゃぁああああああああああッ!!!」
轟く、くまさん。
会い対するのは呆然とする俺。
なぜこうなったのだろう。
10秒くらい前の記憶を思い出す。
俺が水場を求めて依然つらつらと木々の間を縫うように歩いていれば、何かふわふわなものにかつんと打ち当たる。
あー、前見てなかったなー、何かなーと見上げてみれば、あらくまさんこんにちは。
全長3メートルはあるであろう巨大なくまさんもといバケモンがそこにはいた。
くまさんは二足で立ち上がり、両手をあげ威嚇の構えをとると、右手を俺に向けて振り翳した。
野生じこみの右ストレートである。
もちろん俺の華奢な身体でくまさんの右ストレートなんて食らったものなら即肉爆散。
間違いなく死ねる。
hpバー10回分くらいは死ねる。
と思った矢先の事だった。
血飛沫が上がり、くまさんの右手がボトリと地に落ちた。
いや、もちろん俺のせいじゃない。
熊から攻撃を受けた際にどう避けるか、どう自衛するかくらいは薄ら脳の片隅で考えてはいたけど、実際にはやってない。
じゃあ誰がこの熊の手を?
続け様に、また、ぼとり。
今度はくまさんの頭部が落ち絶命する。
近場にいた俺にもその血がもろにシャワー。
ああ、最悪だよ。
さっき体洗ったばかりなのに、隙を見せればすーぐまたこれだ。
俺は顔にかかった返り血を袖で拭きながら、たった今熊の首を切り落としたであろう対象に視線を移す。
肩幅の広い男のシルエットだった。
手に持つのは彼の身体の倍はあるだろう鉄の大剣、それを悠々自適に振り回し背中のストックにガチャリと納刀する何ともどこかで見たことあるような男心をくすぐるカッコいい仕草をしながら
「無事か、少女」
ソイツは俺にそう問いかけた。
無事かと聞かれたなら無事なのだから無事だと答えたいところだったけれど、俺の口はポカーンと開いたまま閉じなかった。
驚いてしまった。
もちろん格好良く助けられたことにじゃない。
彼の見た目に驚いたからだ。
ソイツは『機械』だった。
機械人間だった。
金属の頭に金属の手脚、胴体に至るまで身体の全てが未知なるテクノロジー及び金属で造られた人間のようなけれども人間ではない二足歩行型ロボットがそこにいた。
「…」
あまりの衝撃。
頭を鉄の棒でぶっ叩かれたようなそれに暫く言葉を詰まらせていると、その機械人間はさも人のように頭を描く仕草を見せた。
「まぁ、珍しいだろうな。
『機人』なんてそうそう出会わん。
私自身ですらも私以外の機人と会ったことなんて数回もないのだから」
「機人…?」
今度は俺じゃなく、俺の中の彼女が答えた。
きっと彼女もコイツの姿に驚いた一人なのだろう。
これこそダブルショッキング!
「うむ、私のようなものを機人というんだ。
機人エンドワークス。
それが私の名だ」
エンドワークス。
正体不明のソイツはそう名乗った。
名乗られたら名乗り返したいのが人としてなのだが、あいにくさま俺は名前がわからない。
俺自身の名前も、
俺が取り憑いた彼女の名前も。
仕方ないよね、
記憶がないからね。
(ねぇ…)
ボソリ、俺は心の中で彼女に語りかける。
こういう芸当もできるのだ。
便利だね二重人格。
(ねぇってば…!)
(…なに?)
(名前だよ、名前。
彼に答えてあげて名前)
エンドワークスを見ると無言が辛いのか、どこかそわそわというか、目線に落ち着きがない。
ま、目なんてないんだけど。
目っぽい何かならあるけど。
(…名前?え、私の?)
そりゃそうでしょ。
俺は名前なんか覚えてないんだから。
それにこの身体の本当の持ち主はお前だろうに。
「っ…る…ルイナ」
もう一人の俺…。
いや、
ルイナは少し時間をかけて、目線を足元に逸らしながら初めてそう名乗った。
「ルイナリン・フレンダ…です」
そうか、ルイナリン・フレンダね。
いい機会だし俺もこれからは彼女のことをルイナリンと呼ぶことにしよう。
いや、ルイナでいいか。
ルイナリンって長いし。
「そうか、ルイナリン…か。
こんな森でどうした?
迷ったのか?
ならばせっかくだ仲間のもとへ送ってやろう」
「え、いえ、私に…仲間はもういません」
しかし、こうしてルイナが勝手に話してくれると俺も楽でいい。
身体の操縦するのって案外大変なのよね。
きゅーけーきゅーけー。
「仲間がいない…?
何故だ?どういうことだ?
ここはザリアの森。
君のようなか弱い人間の少女が単独で来るような場所ではない」
エンドワークスの疑念の声に何やらバツが悪くなったのか、ルイナは裏へ隠れてしまった。
つまりは俺が彼と話さなきゃならない。
やれやれだぜ。
ルイナちゃんの尻拭いをすんのはいつも俺だ。
「んあ?
あー。
ああ、それは、えー。
まぁ、あれっすよ、あれ。
そう!
…記憶喪失ってやつです」
なに。
間違ったことは言っていない。
だって半分はそうなのだから。
取り憑き転生 @aaaaaaaaa123456
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