第2話 二心一体
夜中に高カロリースナックを食べるくらいの気楽さとちっぽけな罪悪感を抱え、俺はこの場にいる人間を皆殺しにした。
殺せば殺すほどに身体に残るもう一人の自分の真っ黒な感情だけが穏やかに、
小さくなっているのを感じる。
どうやら俺はそれなりに強いらしく、彼らを殺すのは簡単なことだった。
先ずは目先の初老の男の胸を手で貫き心臓を抉り潰した。
不意を突くのは卑怯だとも思ったが、この後の展開を思えば次第にどうでもよくなった。
次に一人一人丁寧に首をへし折っていった。
中には抵抗する者もいたし、俺に殺されるのを喜ぶ頭のおかしなやつもいた。
足元に散らばる死体の群れを見て一つ思うこと。
コレで良かったのだろうか?
本当にこれでよかったのか?
殺してすこしは君の心は晴れたのだろうか。
これだけやれば満足したのだろうか。
それともまだ殺し足りないのか。
なら殺すけど。
その前に、意見を聞きたいんだ。
…。
なぁ、答えてくれよ。
もうとっくに起きてるんだろ?
待っても、彼女からの返事はなかった。
「まぁ…、答えないならいいや。
返事がないならさこの身体。
俺の好きにつかちゃっていいってことだよな?」
彼女はまだ答えない。
俺は無視を決め込まれていた。
「この身体使って、あんなことやこんなこと…。しちゃうかもしれないけど?
それでもいいよな??」
…。
「あー楽しみだなー。
年頃の女の体使ってあんなことこんなことすんのーーー。
この際あんなところやこんなところまじまじと堪能しおうかなぁー」
明らかに芝居じみている。
けど仕方ないことだった。
俺は演技派じゃないから。
ポリポリと後ろ頭を掻いた。
「はぁ…、とりあえず。
ここから出るか、出ましょうか」
返り血でべとべとな身体を洗いたいし、
いつまでも裸一丁じゃいられない。
いちおー、年頃の女ですしね。
外側はね。
「それに…
まだ生き残りがいたら殺さないといけない」
・・・
「んはぁー!!きんもちーーー!!!!」
シャワーを浴びて濡れた髪のまま、手を腰に当て風呂上がりの一杯(水)を喉に流し込んだ。
「やっぱ、水!
水がこの世で一番美味い!」
長い間水分を取っていなかったのだろう。
その水は格別な美味しさだった。多分もう一生これを超えるもの飲み物は現れないだろう。
そう思えるくらいの感激。
俺はそこら辺の階段の段差に腰をかけて身体の余熱を取る。
「再誕の使徒…ね」
目覚めたここは地下に作られた居住施設だった。いくらかの人が集まり暮らし、そして営む適度に広い地下空間。多少金のかかるホテルとかを想像すると大きさの規模は分かりやすいだろう。
そこでたまたま見つけたシャワーを借りてこうして涼んでいた。
探索して色々と分かった事がある。
俺が殺した彼らはどうやら『再誕の使徒』という組織らしい。
それが何を意味しているのかとかは全く微塵も見当はつかないが随所にこう、再誕の使徒とでかでか天使の翼2枚がクロスするように描かれたシンボルでアピールされれば嫌でも目に付く。
壁にはもちろん、さっき使っていたシャワーの側面とかにもう本当にどんだけ書かれてんだよ…再誕の使徒大好きかよ!
って突っ込みたくなるほど。
そして、俺はこのマークが苦手らしい。
視界に入れただけで嫌でも身体が反応してしまう。
身体が突如、ブルブルと震えだす。
と、まぁ、この身体の異常性に触れるとキリがないので置いといて。
ここはそんな彼らが暮らしていた施設だったんだろう。
シャワー室とか水、食料などの生活に必要なモノ、ベット机などなど、この場所で生活していたであろう痕跡が随所に見られた。
個室も完備。数はさほど多くなかった、15にも満たない。
俺が殺した人数とさほど変わらないところを考えるとここに暮らしていたのはあれで全員だったのだろう。
地下にあるからか施設のどこにも窓はついておらず、微量な魔力を感じて上を見上げると何やら小さな球体が白色の明かりを灯している。おかげさまで暗さは感じていない。
あ、それともう一つ。
さらに地下へと続く怪しげな階段を見つけた。
そこから先には暗がりでどうにも見えなかった。
何があるのか気になって先に進もうとしたら、身体が今まで以上に酷く震え、何も食べてないのに吐瀉、失禁までしはじめたのでちょっとやめとくことにした。
本当はすごく気になるけど…仕方がないよね。
身体が持ちそうにないからね。
あとはそうだな。
髪が長すぎて邪魔だったので、食堂で見つけたナイフで髪を切ろうと思った。
またこれが不思議なことなのだけどその時だけ俺の意思に関係なく身体が勝手に動いた。
彼女は何も言わなかったが、まぁつまるところ「髪は私に切らせろ」ってことなのだろう。
自分で切るのは自信なかったし、最近の流行も知らないからそのまま身体の操作を任せることにした。
っというより、もともとは彼女の身体なんだけど…ね。
どうして俺が動かしてたんだか。
しばらくしたら身体の操縦権が戻ってきた。
終わったらしい。
鏡の前、双眸に映ったのは短すぎず長すぎず、の、美しさよりは可愛らしいさのベクトルの女。
ふむ、俺、結構…かわいいもんだな。
自分で言うのもなんだけど、よく出来てる。
陰鬱そうだったボサボサ髪からいっぺん、群衆の中でも目を引く黒髪美人さんに。
女というのは髪型一つでこんなにも印象が変わるものなのかと感心したほどだった。
と、それまでがこれまで。
「そしてこれからは、
そうだな、ひとまず服を探すか…。
裸で外には出られないよな」
手当たり次第に施設を探っていく。
見つけた衣服には殆どに大きく再誕の使徒のマークが印字されていた。
もう探すのもめんどうだしそれでもいいかと着ようとしたのだけど拒否反応がすごくて着れない。
どうやら『再誕の使徒』は彼女的にNGらしい。
ったく…。
とんだわがままボディだぜ。
文句言うなら自分で探せばいいのに。
「お…?いいじゃん!これ!」
他の部屋を一つずつ調べていくと、いいものを見つけた。
厚い生地の服に皮で作られたベスト。
フードのついたマントに靴と外出するのにこれ以上何がいると言わんばかりのハッピーセットが揃っている。隅々まで調べ『再誕の使徒』が書かれていないかを確認する。
「よし…これなら大丈夫そう…?かな?」
あっ…。
ブーツの裏側に小さく『再誕の使徒』が主張する。
急ぎ魔法で溶かし消した。
セーフ!
書いてない!もう書いてないよ!
どう?…セーフ?
…無意識に頭がコクリと頷いた。
「ほーピッタリじゃん!」
そういえば殺した顔ぶれの中に俺と同じくらいの背丈の女がいたな。
この衣服は多分その人のものだろう。
ありがたく使わせてもらおう。
殺しといてなんだけどね。
ホント。
「さて…と、
これで外に出る準備はできたけど」
――ぐぅぅぅ。
突然、腹が鳴った。
水を飲んだからだろう、
胃が刺激されて激しい空腹に襲われる。
「飯を食べてから行かないか?
ほら…腹が減っては何とやらっていうし」
ブンブンと頭が横に揺れる。
だめらしい。
「もう一刻も早く、ここから出たいのか?」
コクコクと頷く。
なるほど。
「でもさ、身体を共有してるんだからたまには俺のいうことも聞いてくれよ。
この先まともに食べれるか分かんないし、空腹だってお互い共通してる、俺が腹空いているってことはお前も空いてるだろ?
ここはさ、
もう少しだけ我慢しないか?」
俺のそんな意見に少し時間を置いた後、口が勝手に開いた。
「彼等は人の肉しか食べない」
おう…。
「噓だと思うなら保存庫でも開けて見ればいい。
食べやすく加工されているから」
おふ…。
「私は…
もう二度とあんなもの食いたくない」
…。
「よっしゃ!出ようか!」
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