取り憑き転生

@aaaaaaaaa123456

第1話 狂気と混沌の渦中で目覚めた

狂気と混沌の渦中で目覚め

すぐに気が付いた。


これは別の入れ物であって、

自分が本来入るべきではない器なのだと。


閉じた瞼を開けた先。

ガラスの壁で遮られた向こう側には怪しげな仮面を被る人の群れが映る。

身長体重体格当はバラバラに、被る仮面も仮面というよりは少し帽子のよう。


彼らは誰なのだろうか。

ここはどこなのだろうか。


何も分からないが、

飾られる壁画のように見世物にされているようで気分は悪い。


ガラスの壁が反射して自身の姿を映し出す。


《女だ》


裸の身体に

腰まで伸びた真っ黒な髪と、

血のような真っ赤な瞳が揺れる。

幼稚に見えるような柔らかな顔つきとまともに洗っていないのかぼさぼさにべたつく髪質。

持ち合わせた2つの胸の小さな膨らみ。


《これは女の体だ》


年はさほどとっていない。

若い女。まだ10代ほどであろう。


――――憎い。


「ぐっ…」


頭を抑えた。


なんだ…?今のは…?


頭痛とともに頭の中に何かが割り込んだ。

それはコトバのような、思念のような。

でもすこしそれらとは違うような。


この感覚はそう。

余りにも歪んだ感情、


――――”憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い”

”憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い””憎い”

”憎い””憎い”


言葉という区切りに無理やり押し込むのならば『憎悪』だった。


(…何が憎い?)


聞いてみた。

聞けるのかどうか、

この身体にまだ彼女が残っているかすら分からなかったが。

半分ダメ元のようなもので。

でもなんだかできる気がした。


――――殺す。



やった!返事が返ってきたよ!

ダメ元でもやっぱやってみるべきだね何事も!


(殺す?)



―――あいつら全員殺さないと。殺される。

みんな殺された。

私以外はみんな死んだ。

父も母も弟もみんな殺された、

残された、私だけ生き残った。

一人残らず殺さないといけない。

死にたくない。

死ぬのは嫌だ、消えるのは嫌だ、殺さないといけない。殺す、殺された、殺して、残るのは嫌だ、一人は嫌だ、死ぬのは嫌だ、辛い助けて、いや殺して、辛い苦しい、もう嫌だ嫌だ、死にたくない、何も残してない生きたい、殺さないと、違うっ違うっ違うっ違うっ本当は私が殺した、私が死ねばよかった、死にたくなかった、許して許してそんな顔で見ないでお願いお願い嫌だやめて引っ張らないで嫌だ、そっちにいきたくない…

いきたくない、いきたくない、いきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいきたくないいいい。



身体がガタガタと震えた。

吐き気もひどい。

理由は裸による寒さのせいじゃない、いや寒くないわけではないが確実に別のもの。

この身体は、彼女は怯えている、

怖がっている。

何に対しそこまで怖がっているのかは俺には分からないけど。

ただ可哀想に思った。

できることなら助けてあげたい。

ただ単純にそう思ってしまった。


(ああ…分かった)


胸に手を当てて答える。

少しずつだが、身体の震えが収まってゆく。


やがて完全に震えが止まったようだ。

彼女は眠ったのだろう。


「ふぅ…」


なるほど…。

なるほど。なるほど。

ざっくりだが把握した。


どうやらこの体にはもう一人、自分とは違う誰かがいるらしい。

いや、元々いたというべきだろう。

自分の方が彼女の身体に勝手に入り込んだというのが、表す一番の最適な気がするな。


ガラスの壁に手を当てる。

力を込め、パリンと音を立ててガラスはバラバラに崩れ落ちた。

割れた細かな破片が腕に刺さってちょっと痛い、けど我慢我慢。


『おおっ…』

と、

そんなこの姿を見て、仮面の人間達の感嘆の声があがる。


「お待ちしておりました。我らが主よ」


その中でも一番位の高そうな、真っ白な装束に仮面も一際立派な男が俺の目の前で膝を立て首を垂れ跪く。それに続くように後ろに並ぶ人間たちも次々と頭を下げていった。


んーなんだ…?

何が起こっている?


状況がよく飲み込めない。


彼らは次々とその仮面を脱が初め

ボトリ、ボトリと硬い床に落ちていく。


なんだ…?


老若男女様々な人間。

その全てが泣いていた。

中にはひきじゃくるように泣く者、涙をこえる者、

最後に先程話しかけてきた、おそらくこの場のリーダー格であろう白の男が仮面を脱ぐ。


脱いだ先に見えたのは初老の男の顔だった。

彼も涙を浮かべていた。

何かを言いたげに、それでも口を手で塞ぎながら。目尻が伸び、頬に流れる涙、激しくなる瞬き。


なんなんだ…?これは…?

この光景は?

まるで自分が彼らにとっての神様のような、

崇め奉られてるかのような。


…分からない。


分からなかった。

記憶も何もかもが曖昧ではっきりとしない。

靄がかかったかのように思い出せない。


俺は…なんだ…?

何者だ?


…。


やっぱり分からない。


どちらかというと男だったはずだ。

…うん、そうだよな男だった。

……ちゃんと男だった。

でもどうしてだろうか…。


両手で胸を揉んでみる。

二つのふくらみ。

何も感じない、何の興奮も覚えない、それは、下半身に生えるべきものがないからか?


たとえるならば…

自分の尻を揉む感覚に近い。

自分の尻を揉んでる時の何してんだ……って感じだな。

って、今はそんなことどうでもいいか…。

この状況をどうするか決めないと。


ん~。

はてさて……。

…そうだな。


分からないから。

取り敢えず心に忠実に、身体に正直に。

腹が減ったら飯を食べるように、

眠くなったら寝るように。

あくびが出たら屁も一緒に出るように。


皆殺しにすることにした。


だって…。

その方が君と話しやすいだろう?


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