第1話『給料泥棒って人を給料扱いするんじゃねーっての!』

 ギルドの掲示板の前で、疲れた顔をした小太り中年ハゲが大きな荷物を下ろし、僕に声をかけた。


「薬草採取終わりました!」


 僕は目も合わせずに次の依頼書を手渡す。


「お疲れ様です…次、コレお願いします」


 ハゲが依頼書をめくりながら愚痴をこぼした。


「なになに…ってまた薬草採取かよ! しかもコレさっきのところで採れるやつじゃんか! もっと早く言ってくれよ!」


「文句言わないでくださいよ」


「いや、遠いんだぞ…ココ!」


 ハゲはズボンのポケットから地図を取り出し、指をさす。


「片道30分掛かるんだぞ」


「いいから早く行ってきてくださいよ」


「その言い方も良くないぞ」


 ハゲは不満を露にした。


「早く行けよ」


「はい、やる気無くなりました。他の依頼に変更してください」


「は? じゃあ、ドラゴン討伐行くか?」


僕が提案すると、冒険者はすぐに態度を変えた。


「…薬草取りに行ってきます!」


 急いで返事をし、すぐに出発しようとした。


「おい、待てよ」


 とニコラが声をかける。


「?」


 ハゲが振り返った。


「こいつの時給っていくら?」


「最低賃金の810イリスです」


 と僕が答えた。


「少なッ!」


 ハゲは額をしかめる。


「で、この薬草の報酬は?」


 続けてニコラが尋ねた。


「500イリスです」


「さっき分掛かった?」


 ニコラはさらに詳細を求めた。


「ざっくり3時間くらいかな」 


「赤字じゃねーか」


「大丈夫です。バカみたいに保険かけてます」 


「よし、逝ってらっしゃい」


 とニコラがひょうきんに言う。


「なんだ? 今のいってらっしゃいって! 逝ってらっしゃいって聞こえたぞ!」


「気のせい」


「気のせいじゃねーよッ! そう聞こえてきたんだよ!」


「早く逝ってこいよ!」 


 ニコラがハゲのケツをおもっきり蹴っ飛ばす。


「イテェなッ! 蹴るなよ」


「もう時間もないですしね」


「あー! deathと死ねって言った!」 


「いや、コレ違いますよ!」


「死なねぇからな…どんな大怪我しても一生生き続けてやるッ!」


 と啖呵を切り、その場を後にした。


「保険って死亡保険?」


 ニコラが真面目な顔で問いかけてきた。


「医療保険の方ですね」


 僕がにっこり笑いながら答えた。


「がっぽりだな」

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