推しのガーディアンズ

伊達夏樹

プロローグ

 ギルドの中央でテーブルを囲み、僕たちは重苦しい空気の中、今後の方針について議論を交わしていた。


「借金が膨れ上がり、もはやギルドとしては成り立たなくなります」


 ギルドマスターのジェラードは深刻な面持ちで語った。


 僕は静かに首を横に振る


「まあ、うちには冒険者1人もいませんからね」


 僕はギルドの壁に掛かった武器が埃をかぶっているのを見つめていると、受付をするニコラが口を開いた。


「協会から来る依頼を事務や受付で回してるようじゃあ金なんか入ってくるわけねーもんな」


 ジェラードは意を決したように話し始めた。


「そこで起死回生を図り、うちのギルドでアイドルをプロデュースしようと思う」


「アイドルってなんですか?」


 僕は首をかしげながら尋ねる。


 ばんッ!


 ジェラードは異世界漫画の一冊を机に叩きつけた。


「なんでもこの異世界漫画によるとだな」


 と説明を始めた。


「異世界漫画って、いわゆるファンタジー漫画ですよね」


 僕は言葉を挟む。


 ジェラードは熱く語る。


「そう、魔法が使えない、魔物もいない世界で恋愛、能力バトル、学園ラブコメとかいろいろジャンルがあるんだぞ」


「つまり、アイドルってのはその異世界漫画に出てくるモノなんですか?」


僕が再度確認すると、ジェラードは目を輝かせて答えた。


「そうなんだよ! 歌って踊って、ビジュアル良しですげぇ人気なんだよ」


「漫画だからだろ」


 とニコラは半信半疑で応じた。


「実際やってみないとわからないだろ? やってみたら人気出ましたなんてこといくらでもあるんだから」


「あのなぁ、今まで散々失敗してきたのに何も学んでないじゃんか、そもそもアンタがあんな事しなかったら今頃ウチのギルドは大盛況だったんだからな」


「はぁ? まだそれ掘り返すか?」


 彼の熱意に押される形で、僕もまたギルドの未来を賭けることに同意した。


「まあ、まあ、過去のこといつまでもいっていてもしょうがないじゃないですか?」


「今までは失敗してきたかもしれない…でもなそれは全て成功への過程だったって胸張れる日がくるじゃないのか?」


ジェラードは続ける。ギルド内の空気が少しだけ和やかになった。


「どんな失敗も死ななきゃかすり傷だ! 成功を収めた後に笑い話にすればいい…俺はやるぞ! アイドルをプロデュースし、もう一度このギルドを活気で溢れさせてやる!」


 と彼は力強く宣言した。


 僕も微笑みながら同意した。


「そうですね…やりましょう! 今度こそは成功するかもしれませんしね」


 一抹の不安は残るものの、こうして僕たちの新たな物語が幕を開けた。

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