封印されし聖剣 一

次の日、俺は目が覚めると、何かに乗られている感覚に襲われた。

ずっしりと何かが俺の体の上に乗っかり「ふふ」と小さく笑っているのだ。


「……なにしてるんですか?」


俺は目を開け、体の上に乗っかっているティアに向け睨みつつ話しかけた。

ティアの姿は薄手のワンピースに寝起きだからだろうか寝癖がついたボサボサの長い髪だ。

彼女の表情を見る限り寝ぼけては無さそうだ。口に手を添え小さく「ふふ」っと目を怪しく光らせ笑っていたが俺が目覚めたのがわかると「あっ……」と目の声を漏らし目の光を消し大げさに目線を逸らしながら冷や汗をかいている。


「そ……その、お、おはようこじゃいましゅ」


「おはようございます。それで、ここで何してたんですか?」


「待って、違うんだよ。何もしていない!ただ君の寝顔を見て微笑んでいただけなんだよ!」


つまりは寝顔を見に来たということだろうか?でもそれなら体の上に乗っからなくてもいいはずだが……

ティアは焦ったように体から降りてカーテンをバッと勢いよく開いた。


「さあさあ!今日もいい天気だよかけるくん!」


日の光が部屋に差し込まれ薄暗い部屋が一瞬で明るくなった。

ティアは相変わらず笑顔を絶やさす俺の寝ていたベッドへと座り込みこちらをじっと見つめている。


「……?どうしました?」


「いや?何でも無いよ、ていうかさカケルくんその、敬語やめない?あたしは別にタメ口で構わないからさ、楽にいこ?」


「まぁ、そう言うなら……」


「よし!じゃあ距離も少し縮んだし朝ごはん食べに行こうか」


そう言うとティアは部屋の扉をこちらも力いっぱい開いた。

バン!っと叩きつけられた音と共にくるっとこちらを振り向き「早く行こ!」と俺の手をそっと掴み食堂へと続く廊下を引っ張られる形で走った。


△△△


俺達は食堂がある一階に向かう為階段を降りすぐにある廊下を進んだ一番奥にある分厚い白色の扉の先にある。

食堂に入ると既に食事を済ませて食器を片付けている魔王とフォルテの姿がありティアが二人に向け元気よく「おはよう!」っと叫ぶと二人は少し体をビクッと震わせこちらの方を振り向くとティアは手を大きく振って満面の笑顔を二人に見せた。


「おはよう二人共、ティアは相変わらず元気だね」


「まあね!」


ティアは魔王に向け満面の笑みでVサインをして「ご飯まだ残ってる?」と魔王に問うと少し疲れたように無言で頷いた。


「よし!カケルくん、どっちが早く食べ終われるか競争だ!」


「えっ……まじ?」


「ルールは出された料理を早く食べた方の勝ちね!」

突如として始まった朝ごはん早食い対決。お互い向き合うように席につき出された料理を早く食べた者が勝利の簡単なルールだが俺は昔からこの手の勝負事が苦手で小学生の時も給食をどちらが早く食べれるかを空と競った事があるのだが結果は惨敗、そしてこの勝負ももちろん負けた。

今日は白米に味噌汁に似たスープ、そして魚を焼いた物、そして玉子焼きだ。これならいけると思ったのだがティアの食べるスピードがとてつもなく早く俺が白米を口に入れている時にはもうほとんどをティアは完食していた。


「はぁ!美味しかったね!」


ティアは満面の笑みを浮かべ早食い対決は終了した。そしてティアはさっきの量では物足りないと言いおかわりを三回した。俺は勢いよく詰め込みすぎたせいで味もわからずお腹いっぱいになってしまった。そして誓った。もうこの手の勝負はしないと。


「よくそんなに食べれるね」


「まあね!あたしは大食いも得意なんだよ!」


ティアが食べ終わり皿が回収された後だった。ティアは立ち上がり俺の隣に座り。


「そういえばさ、カケルくんは今日は何して過ごすの?」


そんな事を聞いてきた。俺は腕を組み考えた。そういえば考えていなかったな、俺はこの世界に来て一日、ティアに尋問されて、依頼を受けてそして魔王城に来て……

あれ?俺って一度も異世界的な事してないぞ?魔王城には来たけど異世界ならではの魔法とかバトルとか何もしていないぞ?

俺はさらに考え、そして思いついた。


「そうだな、どうせなら面白そうなクエストがあったらそれを受けに行くかな」


そうだ、クエストだ。異世界といったらクエスト、依頼だ。せっかくの異世界だ。モンスターとのバトルが無くてもダンジョンの探索とかぐらいはあるだろう。


「それならいいクエストがあるよ!」


ティアは目を輝かせテーブルにバンッと何かを押し付けた。それは古い紙で何やら文字がズラッと並んでいるが霞んでいて何が書いてあるかがわからなかった。


「これは?」


「これは冒険者ギルドに古くから張り出されている依頼書なんだよ!依頼内容はこの王都の奥地にある遺跡の調査の依頼!でね、この遺跡にはなんと!あるらしいんだよ!」


あるらしいとは一体何なんだろうか?お宝でもあるのだろうか?


「何があるんだ?」


「ふふふ!聞いて驚かないでね。伝説の聖剣だよ!聖剣!」


聖剣、それは異世界物とかファンタジー出でてくる属性を宿した剣の事だ。俺の知っているやつではエクスカリバーとかが有名だ。


「ねえねえ、カケルくんさえ良ければさ、一緒に行かない?聖剣探し!今日あたしガーディアンの仕事おやすみだからさ!」


ティアは目を輝かせなが手を胸に組み目を輝かせながら俺に頼み込んだ。

聖剣探し、正直興味はある。しかし、考えすぎではあると思うがそう簡単に見つかるものだろうか?

俺が悩んでいると後ろから優しい声が俺の後ろから聞こえた。


「行ってくればいいじゃないか、宝探しみたいで面白そうだよ?」


声の主は魔王で俺の背中を強く叩きニコッと笑った。

そうだな、見つからなくても遺跡には興味がある。


「まあ、興味あるし、行くか!聖剣探し!」


「よーし!そうと決まれば早速行こう!」


ティアは探索の準備をするといい一度自身の部屋へと戻っていった。

そして食堂に取り残された俺はというと


「こちら、救急箱です。そしてお弁当と水筒と虫除けと後帽子も入りますね。」


フォルテにめちゃくちゃに準備を手伝ってもらっていた。

俺が聖剣探しに行くと言ったらどこからか大きめのバッグを持ってきてそこに弁当やら色々詰め込み始めたのだ。


「そ、そんなに入るかな?」


俺が心配しているとフォルテはその倍心配した様子で俺の顔を見た。


「大丈夫です!入ります!」


「いやでも、ただの聖剣探しですよ?そこまで心配しなくても」


「心配です!それに……何か嫌な予感がします」


△△△


王都の一番奥に存在する巨大な空洞、そこには遺跡と呼ばれる所に繋がる道が広がっていた。

辺りは薄暗く明かりは壁に付けられている松明のみだ。その為非常に視界が悪く俺も何度か転びそうになった。


「ねぇティア、なんかこう、魔法とかで明るくならないの?」


それは遺跡に繋がる道の中間地点で思ったことだ。この世界には魔法がある。となれば辺りを明るくする魔法もあるはずだ。ティアは「それだ!」と納得したように手を叩きそしてその叩いた手をそっと前に突き出し目を瞑る。


「聖なる光よ、我の辺りを照らしたまえ!ライト!」


目を開け強く睨みつけるとティアの手の平から野球ボールぐらいの光の球体が形成されそれはまばゆくそして美しい光を放ちながら辺りを照らした。


「お、おおおお!これが魔法!」


俺は感動の余り涙を目に浮かべた。


「え、ちょっと、何でこんな初級魔法に感動してるのさ? 」


俺はすぐにハッと我に返り涙を拭いた。この世界では一応魔法は当たり前のもの。そしてティアはさっきこれを初級魔法と言った。と言うことは俺は初級魔法に感動するおかしな奴だと思われたれたはずだ。


「い、いやその、何でも無い、さ!進もう」


ティアは少し疑問に持ったらしいが気にせずに前を向いた。

そしてティアが発動した魔法のおかげでスラスラと道を進む事ができそしてついに遺跡の入口へと到着した。

巨人が通るのかと思うぐらいの巨大な門がありその扉を力いっぱい押すと扉は重い音を立てながら開いた。


「気おつけてね。遺跡の中はもっと暗いからね。」


聖剣が眠ると噂の遺跡、俺はここに来る前にフォルテからあらかじめ情報を聞いていた。その情報とは遺跡にはアンデットがウロウロしているとのことだ。

その話を聞いている時に俺は疑問に思った。アンデットのスケルトンが一日目の時に屋台のおばちゃんと楽しそうに話しているのを観ていたからだ。しかしこの遺跡のアンデットにはどうやら自我が無く人の気配を感じるとどこ等ともなく襲ってくるらしい。その為遺跡の探索には必ず二人以上で入らないといけないというルールがある。


進むこと数分、遺跡の中は入り組んでいてまるで迷路のようだった。進めば分かれ道の連続で相当運が良くないと聖剣が眠る所にたどり着けないと思うほどだ。

そして更に数分、ここまでアンデットにも遭遇しないで気づけば遺跡の中心地点まで来ていた。中心地点は広い空洞になっていてさっきまでの暗い道人は違いこの空洞には明かりがあった。その光を放っているのは薄緑色の鉱石だ。あちこちに生えている鉱石は空洞全体に光を灯しその光はまるで蛍の光に似ていると思った。


「ちょっと休憩しようか」


ティアは空洞の壁側に座り込み深い息を吐いた。そしてその後ぐうううと腹の虫が空洞全体へと響き渡った。

ティアは顔を赤らめお腹を押さえながら呟いた。


「その……お弁当なんて持ってたり?」


「あるよ」


「そうだよね、無いよね……って、あるの!?」


「フォルテさんが持たせてくれたんだ。多分ティアが中間地点でお腹を空かせるからって」


俺はフォルテから持たされたカバンからふろしきに包まれた弁当箱を二つ地面に置いた。

きっちりと包装されているお弁当箱を見てティアは驚いていた。


「美味しそう、ねえずっと気になってたんだけどカケルくんとフォルテって恋人?」


「え、え?ち、違うよ!俺のフォルテさんはあってまだ一日だよ?まあ、何故か過保護ではあるけど恋人とかではないよ?」


今度は俺が顔を赤らめた。


「なんと言うか何で俺とフォルテさんが恋人だと思ったんだよ?」


「いや、フォルテって普段は無口で人のこと興味ないっていうか、そのカバンやあたしたちの為にお弁当箱をもたせる時点で変なんだよね。でも君が来てから表情が豊かなってさ」


ティアはふろしきを解きお弁当箱の中に入っていたおにぎりを食べながら続けた。


「普段なんかね、話しかけても無視か話をすぐに終わらせようとするんだよ」


ティアはおにぎりを食べ終わるとニコッと優しい笑顔を浮かべた。


「でも、良かった。フォルテにもやっと友達が出来て、ねえカケルくん、これからもフォルテと仲良くしてね」


軽く昼食を取り俺達は再び遺跡探索に戻った。

深く潜るほどに視界が悪くなっていく遺跡、最初はフォルテのライト充分な視界が確保できていたが今はまるで何者かが視界を阻んでいるかのように暗い、


「おかしいな、前来た時にはこんなに暗くなかったんだけどな?」


ティアが首を傾げて不思議そうに辺りを見渡した。そして何か思いついたのか発動していたライトを消し再び目を閉じて詠唱を始めた。


「我の全てを、世界を照らしたまえ!サンライト!」


詠唱を終えるとティアの手からはあのライトの様な球体ではなくバランスボールサイズの光輝く球体が出現した。しかしその光は通常のライトとは比較にならないほどの明るさでむしろその光で視界が遮られるほどの明るさだ。


「な、何だコレ!目が開けられないぞ」


そして目を開けると焼けるような痛みに襲われとても目を開けられる状況でもない。


「や、やっぱり強すぎたか、サンライトの他にもハイライトっていう一つ強いいライトがあるんだけど足りないかなと思って強すぎたね。テヘ!」


「テヘ!じゃないんだよ!目を開けれないんだよ!」


「そんな事言われてもサンライトは消すのにも大量の魔力が必要だから簡単には消せないよ!」


じゃあ何でだしたんだよとツッコむが出してしまったものはしょうがない。取りあえずこの光を何とかしなければと思ったその時。


「あ……」


と声をこぼしティアの手からサンライトの球体が落ちて漆黒の暗闇へと転がりそのまま姿を消した。俺はやっと目を開けティアの姿を見ると手をまっすぐ前に伸ばしたまま固まっている。


「落としちゃった。」


ティアは姿勢を変えこちらに視線を変えた。

その時、


「ぎゃあああ!目、目がぁ!目がぁ!!!」


と裏返った甲高い声が漆黒の先から聞こえて来た。そして辺りの暗闇は徐々に形を失い消えていった。まるで幕が下がるように地面へと吸収された暗闇が消えると視界は晴れて道が出現した。


「あれ?さっきまで暗かったのにいきなり明るくなったね」


辺りをキョロキョロと見渡しそして「あ!」とティアは何かを見つけたように出現した道の奥を指さした。


「あんなの前来た時なかったやつだよ!」


奥には古い寂れた門がありティアはそれを見るなり犬のようにジャンプして喜んでいた。しかしそれとは裏腹に門の奥からは悲痛な叫び声と何やらブツブツと暴言が響き渡っている。

門の中に何かがいるのは明らかだ。それはもしかしたら聖剣を守る古代文明のゴーレムかもしれないとティアは妄想を捗らせ「早く行こ!」と俺の服の裾を引っ張り急げ急げと先導しながら出現した門の近くまで移動する。

耳を澄まし聞こえる声を聞いていると


「アアア!目が痛い!くっそ、誰だよ!こんな物騒な玉落としたやつは!」


中の人物は結構お怒りなようだ。門の奥からは殺意混じりの叫びがいくつも響き渡っている。


「ティア、ここは何が起きるかわからない、だから、ここからは慎重に……」


「ドーン!」


俺の言葉を遮るように門を勢いよく開けたティアは剣を構えるもその表情にはウキウキとしたキラキラした眼差しを部屋の中にいた何かに向けそしてしばらくした後に首をかしげる。

俺も中に入るがティアが首を傾げた理由はすぐに分かった。

部屋の中には俺が想像していたお宝を守るボスみたいな存在はいなかったのだ。

中には大きな湖がありそして俺達はその周りを移動した。

すると


「くそがよおおお!」と叫び声が確かに聞こえる。しかしそこには人らしき姿はなくその代わりに奥の方に何かが刺さっている。

祭壇のように石が積み重なった場所にポツンと刺さっている物を見てティアは「あー!」と叫び指を差した。


「どうした?」


「カケルくん!これだよ!聖剣!」


ティアが指差す先には石の段差がありその頂上には湯気のような揺れるオーラを放ち神々しさと見ているだけで魅了されそうな美しい剣がそこに刺さっていた。


「これが伝説の聖剣、この美しさ、伝わる力、間違えないよ!」


俺も確信し頷くとティアは段差に上がり剣のグリップに手を差し伸べようとしたその時、

バチンっと電撃のような衝撃波がティアの手を弾き飛ばしたのだ。ティアは勢いよく吹き飛ばされたが俺がなんとティアの体をキャッチし呆然としていると


「おい!俺のグリップをそんな汚れた禍々しい手で触るな!」


再び聞こえる声、何やら気になることを言っていた。

俺のグリップに触れるな?……まさかだよな?


「なぁティア、もしかしてだけど、さっきから聞こえる声って……」


「うん、今の発言、グリップって……」


俺達は同時に聖剣に視線を向けると


「お、おい!何だよそんなマジマジと、照れるじゃねぇか。」


聖剣のガードがぽっとピンクに染まり確信した。


「け、剣が喋った!?」
















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