鳴かなくなった小鳥

水都suito5656

泣く前に 色々と準備を始める

パラパラ ガラスを打つ音

これ聞いていると眠くなる。耳に心地よいからかな。

眠気を誘ってた。

今朝はそんな音から始まった。


(カミナリ鳴らない?)


私は少しだけ開いたカーテンの隙間から窓の外を見る。


(なんや、こう朝から辛気臭い)


今の時期の朝はとても寒く、風邪引きそうやった。


私が暮らしているマンションは日当たりが悪くて、午前中は明かりを付けないと薄暗い。


ほんに気が滅入る。



もう少し早めに入れたら、もっと日当たりの良い部屋にも入れたんかな。


そんな事を何となく考え、頭の中が半分だけ起きてきた。


半分だけ開いた眼で、幽霊のように手を伸ばして枕元を探る。


まあ、本当に幽霊に手があるか知らんけど。

伸ばした手で体温計を探した。


あれ・・・ない?

どこに・・・

あれ無いと困るだけと・・ あった。

なんでこんな所に?


探していた場所になくて、どういう訳か机の足元に転がってた。


最後に使った時、どうやってたっけ。


*


結構降ってきた。


体温計をくわえながら、ぼんやりと窓の外を見る。


ほんによく振るなぁ


不意にカーテンが光って、瞬間息が止まる。

それからあわてて、布団に潜り



両耳をきつく抑え、心のなかで数を数えた。


いーち

にーい

さーん。

カミナリ鳴った。


3秒か・・・結構近い


今はそれよりも、大温計探さんと

頭が痛いのはきっとこの天気のせい。


*


布団にくるまり目を閉じていると、誰かが階段を登ってくる足音が聞こえた。


トン トン トン

軽やかに階段をかけ昇る。

お姉ちゃん、今帰ってきた。

大学生は不良だ。

優等生の姉はどこに行ったんだろう。


*


「37.5度・・・微妙かな」

これじゃわかんない


寝ぼけながらノートに書き込む。

外はゴロゴロとパラパラだ。


このまま寝ていたい。

そんな事言えないけど、考えたら本当にそうなる気がする。


次第に騒がしくなる雷鳴に頭痛が重なって、私の中も騒々しくなってやっぱり落ち着かない。

(こないな日は通話や)


いつものように机の上からスマホを取って、着信履歴からボタンを押す。


頼みます!出て・・・・・・・

でた。


「あ、先生おはようございます」


「ん、おはよう。なんだ大山か」


はい大山です。あなたの可愛い元生徒です。


私は毎朝電話をかける。


多分この声を聞かないと落ち着かない病気だ。


「ごめん、先生そろそろ朝練の時間なんだ」


はい、もちろん知ってます。

3月まで一緒だったのですから。


もう行けないけど、忘れることは出来ない。

あの頃は、この時間が永遠に続くと思ってた。


「寝坊もいいけど必ず毎日練習は欠かさないようにな」


「はい、頑張ります」



それから一言話しをして、電話は切られた。切るのは必ず先生だ。


私には自分から切る勇気なんてない。


*


頑張ってますよ

先生が見ていなくても。

もう私だけの先生じゃなくても。


*


「こーら、いい加減に起きろ」


鬼が来た。

同じ大学になんてするんじゃなかった。

姉は肩まで伸ばした髪を雑にまとめ、私がさっきまで寝ていた布団を占拠した。


「・・・お姉ちゃん臭い」


「臭い言うな!」


私の枕を奪って宝物のように抱いて。 

彼女は幸せそうな顔をして。


あれはどこだろ・・・あった。

ノートが見つかった。


枕の下に隠れてた。



えーっと、


「さんじゅう ななてん ご・・・と」


毎度字が汚くて自分でもうんざりした。


これで私のルーチンワークはすべて終了。

ようやく私は、布団から開放される。


ふと目についた壁にはセーラー服。制服をクリーニングに出さなきゃと先週から考えてる。


「明日にしよう」


どうせもう着れないんだし。



*


そんな自堕落生活に突然終りが来た。


「あ。・・・定演があったんだ」


明日から定期演奏会のために練習が始まる。

大事なことはすぐ忘れる。

やっぱりポンコツや。


「また怒られる」


ため息を付いて、ハンガーから外した制服を着てみた。


「・・・まだいけるかも。本物の女子高生みたい」


2週間前まではそうだったけど、今は違う。


今更恥ずかしげもなくこれを着るのはおかしい。


それでも


「先生に会える口実だ。ちゃーんと着けよ」


もう一度脱いで、

丁寧に畳み紙袋にしまう。

それから、ご近所にあるクリーニング店に出かけるのだった。


そうだ、リード買わなきゃ

そんこんなで、あっという間にお昼になった。


(あ、パジャマのままやったわ)

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