この世界に神様がいるのなら(2)
みらい
第1話 最強の魔法使い
魔王が討伐されて83年目の冬。
冷えきった冷気が室内にいてもしんしんと伝わってくる。
ずっと新聞を読んでいたアイネは、やれやれと町に出かける決心をした。
これ以上、雪が積もると歩けなってしまう。運動の意味も込めて、こまめに買い物に出ていたが、明日からは厳しそうだった。
気分が乗らずにもうお昼はとっくに過ぎていたけれど、それならそれで夜は飲んで帰るかとポジティブなアイネだった。
サクッと準備を済まして出掛けようとすると、ドアの向こうからガサッと何かが倒れる音がした。
……。やっぱりか。
「はぁ。」
嫌なことほど当たる気がする。
彼女が今日なかなか外を出たくなかったのも、今日は面倒事が起こる、そんな気がしたからだった。
ドアを開けて見てみると、すぐ近くに見覚えがある男が丸くなって倒れていた。
出血しているらしく彼の倒れた周りには、黒い血が伝播している。
「おいおい…。」
彼の名前は、シエン。
前国王の秘密部隊のトップだった人だ。
元からの頭脳の良さに加え、訓練された身体能力と魔法スキルの強さを兼ね備えた彼には、私でも手こずるだろう。
ましてや、その胸に抱えた1人の赤ん坊を護るという条件さえなければ、誰でも傷をつけることが出来なかっただろう。
歩き寄ってシエンの上体を動かそうしたその瞬間、アイネは遠くから魔力探知が迫ってくるのを感じた。
指を振ってその探知を切ると、シエンのおぼろげな意識がアイネに向いた。
そして腕を震わせながら、赤子をアイネに弱弱しく押しつけると、全身を脱力させ、そのまま息を引き取った。
呪いか…。シエンの最期に抜けていった黒い光は呪いにより体を蝕まれていたことを示すものだった。
相手もバカじゃないから、私に攻撃を仕掛けてくることは無いだろう。
問題は、残された赤子だった。
シエンの加護も切れた赤子は、糸がぷつんと切れたように泣き出し、泣き止んで貰うまでに10分もかかった。
この世界に神様がいるのなら(2) みらい @nagino66
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