その目で見るのは、希望か。未来か。ペンギンか。

 思い込み、というよりは自己暗示に近いものがあるようなノゾミ。文字通り、それが「望み」であるかのようで。むしろいっそ自己暗示なら、周りに笑われたところで、なんでもない平気な顔をしていられるのでしょうけれど。
 ノゾミがペンギン舎に入ると、まさかのペンギンが喋る! ジーラと名前が付けられたそのペンギンには特殊能力はあれど、人語を話すことなどできない……ん? 人語は話せずとも、特殊能力がある? ……これは、俄然目が離せなくなってきました。人語だけに、言葉の上でもジーラそのものからも。なるほど……天気図を見せると、前線の動きや台風の進路の予想をくちばしで示してくれると……十分どころではない特殊能力ですね。まだ読み始めて十分も経過していないのですが、この先の展開に対しての期待値は十分どころでは無く、十二分に高まってきました。それこそ、ペンギン=宇宙人説を証明せんとする、ノゾミのように。
 それからしばらくして、超巨大台風というとてつもない脅威にさらされるニュージーランド。その対策としてリアムの提案は、確かに理に適っていて。ただ、それはあくまでも常識の範囲内の台風の話であり、超巨大台風にそれが敵うのかといえば、いわば机上の空論(教科書で習うレベルだけに)。それでも何もしないよりはマシと動き始める面々。自信満々のリアム。……と思ったらさすがに、リアムも冷や汗がたらりと。
 凍り付くような絶望的な事態に、わずかな希望を見出し、ペンギン舎へと急ぐリアム。神頼みならぬ、ペンギン頼み。いや、ノゾミ的に言えば、宇宙人頼みですね。
 ジーラの口から語られる過去の災害。第2のシェランを求めて、地球へとやってきたジーラの祖先。住めば都 とは少し違いますが、それでも環境的には限りなくマッチした都だったにもかかわらず、その都もだんだんと侵食されていき、本末転倒な結果に。
 こてん、とかわいい音では済まない状況に、どれだけ戦慄していたのか、想像に難くありません。シェランと同じ未来を辿る……技術が悪用され、軍事利用され惑星ごと壊滅する未来に、だれが生きていられるというのか。否、誰も生きてなどいられません。しかし、皮肉なことにその惑星の首を絞めているのは、そこに生きる人々という何とも歯がゆい構造に、何とかこの運命の歯車に歯止め……いや、潤滑油を差せないものかと逡巡するものの、そもそもたかだか一人の人間が考えつくことなんてたかが知れていますし、たとえどれだけ人が集まろうとも「超巨大台風」に対して、物理的に押しのけるような真似はできないでしょうし。詰まるところ、人の無力さを痛感することに……。
 それでもジーラの提案する方法には一縷の望みがありました。これなら……これならいけそう、とわずかでも希望の光が差し込んできたような、そんな気がしました。少なくとも教科書で習うレベルよりは(オイ 現実的な案でしょうし。……っと言うよりは、それでは圧倒的に足りないことが判明して。なるほど、参考書や辞書やマニュアルや、とにかくそんなサブウェポンが必要なのですね。しかし、そのありかはジーラの口の中に閉ざされたままで……。少しだけ見えた希望の光は、再び厚い雲に覆われてしまいました……。
 そんな中迎えた、作戦決行日。超巨大台風に突っ込む2人と一羽。予期せぬ、良きせぬトラブルによって、散布装置が散布できないアクシデントが発生。台風の中にあっては、否、ただでさえ台風の中に突っ込んでいるというのに、さらに外に出るというのは自殺行為に外ならず、散布装置で散布するどころか、自身の命を散らしてしまう結果になりかねない。それでも、ノゾミの決意は固く。まるでジーラから命のバトンを受け取るように、果敢にも外へ出ていこうとするその姿に胸を打たれました。
 しかし、事態はより深刻さを増していき、ジーラまでも痛手を……。そこから流れる血? は、青白く……。
 ペンギンの起源を辿れば、脈々と受け継がれてきた歴史の中に答えはあって、その脈に血を流すように、血脈にするようにしてジーラへと受け継がれたマイクロマシン。
 ジーラが何を考えていたのか。何を言わずともその表情だけで答えになっていて、覚悟を決めたジーラは一人、暴風雨の中へ。ノゾミとの思い出の日々を「覚」えていたからこそ、今こそ身を挺して彼女らを救う時と「悟」りを開いていたのかもしれません。その雄姿に惜しみない拍手を。
 そして、その「覚悟」に呼応するかのように次々と出現するペンギンたち。「ペンギンが空を飛ぶなどありえない」という常識は埒外……超巨大台風の外側へと放り投げるかのように、ペンギンたちの活躍によって、此度の超巨大台風は鳴りを潜める結果に。まるで、ペンギンが海にでも潜るかのように。いや、そんなスマートではなかったかもしれないけれど、少なくとも地球の脅威を取り去ったという意味においては、誰も眉をひそめたりはしないでしょう。
 先の一件をきっかけにペンギン=宇宙人説を信じるようになったリアム。あんな光景を目の当たりにしては、さすがに信じざるを得なかったことでしょう。何事も「知らない」から「知っている」へは一方通行なのですよ。
 そんな中、不意に現れた新しいペンギン……。
 ほうほう。君が惑星シェランへの道案内をしてくれるのですね。恩はきちんと返させていただきますよ。ジーラは地球の命を救ったんですから。今度は惑星シェランを救う位でないと釣り合いが取れませんものね。
「今度は俺たちを助けてくれる番なんだろ。早く来いよ、置いてくぞ」みたいな、そのかわいい容姿には何とも不釣り合いな言葉をノゾミと交わしたりするのかな、なんて想像をしてみたりしながら。ノゾミが惑星シェランの「希望」となることを願いつつ、この度の物語のレビューに、ペンギンのようにくりくりとしたかわいいお目目のような、読点を打って〆とさせてください。