オチャメな妹分と百貨店

フィステリアタナカ

オチャメな妹分と百貨店

「タンヤオ。タンヤオ。起きて」

「むにゃむにゃ。チョコサンデー二十五杯も食べられな――むにゃむにゃ」


 来月、タンヤオがエリート養成魔族小学校に入学する為、今日僕は彼女と一緒にバベルの百貨店へ行く予定だ。筆記用具とランドセルあたりでも見ようと思う。


「タンヤオ、プリン無くなっちゃうよ」


 そう言うと彼女はガバっと布団から飛び出し、周りをキョロキョロと見る。


「兄者! 南国北極トロピカルオーロラプリンは何処にあるのじゃぁ!」


(えーっと、ただのプリンなんだけれど)


「プリンを食べる前に、朝食を食べよう。いつものパンじゃないけど」

「ん? 兄者、パンが無いのか? パンが無ければプリンを食べれば問題ないのじゃ!」

(どこかでそのセリフを聞いたような。人間のお姫様が言っていたヤツかな)


「はいはい。ドリアがあるからそれを食べよう」

「ドリフ?」

(朝食ではなく、それだとコントが始まるよ)


「はいはい。テーブルに座って。今、ハツカネズミとトカゲの尻尾を混ぜたお茶持ってくるから」

「兄者、飲み物は甘い物が良いのじゃ」

「はぁ。後でケーキ買うから今は我慢してくれ」

「ホントか! わらわは我慢するのじゃ! 兄者、ココアを持ってくるのじゃ!」

(全然我慢していない)


 結局、彼女はドリアを少ししか食べず、引き出しの中にあったチョコレートをたくさん食べていた。


 ◆


「タンヤオ。ここで買い物をするからね」

「ケーキ♪ ケーキ♪」

(地下一階に行くのは最後だな)


 バベルの百貨店に着いて、タンヤオは小躍りしている。彼女は躍りながら魔法陣を描いたのは、彼女が天才だということのあかしだろう。


「じゃあ、初めに屋上に行こうか」

「わかったのじゃ、兄者」


 ◆


「兄者! 兄者! あの電車に乗るのじゃ!」


 屋上に着くと子供向けの遊具が有り、中でもレールの上を走る電車に彼女は興味を持ったようだ。


「兄者も乗るのじゃ!」

(一周銅貨一枚か)


「いいよ。僕はここで待っているから」

「わかったのじゃ」


 彼女はご機嫌で電車の上にまたがる。電車はレールの上を走り、タンヤオは僕に手を振っている。


「ん? 動かなくなったのじゃ」


 電車が一周したので停まった。彼女は不服そうに僕に言う。


「兄者! もっと遊びたいのじゃ!」

「はいはい。わかったよタンヤオ」


 僕は銅貨一枚を投入し、また電車を走らせた。


 ◆


「兄者! もう一回なのじゃ!」


 ◆


「兄者! もう一回なのじゃ!」

「タンヤオ。もういいでしょ」

「お願いなのじゃ、最後にするから」

(はぁ。まったく)


 ◆


「兄者! もう一回なのじゃ!」

「はぁ。タンヤオ、最後だって言っていたでしょ?」

「お願いなのじゃ、ラストにするから」


 ◆


「兄者! もう一回なのじゃ!」

「はぁ。もう終わりね、タンヤオ」

「お願いなのじゃ、フィナーレにするから」


 ◆


 結局、六周して彼女は満足したのか、満面の笑みで僕に言ってくる。


「兄者。喉が渇いたのじゃ」


 屋上の隅に自動販売機があったので、僕は飲み物を買うことにした。


「タンヤオはどれがいい?」

「甘いの――あっ、兄者、このノンシュガーが入っているヤツがいいのじゃ」

(ノンシュガーって無糖ってことだよ? 甘くないよ?)


「これ甘くないよ」

「ん? そうなのか? じゃあ兄者に任せるのじゃ」


 僕は大量の練乳が入ったコーヒーを二つ買い、タンヤオと飲んだ。


(これ、コーヒーと言っていいのかな……)


 ◆


 屋内に入り各階を回る。サイコロ代わりになる六角形の鉛筆を買ったり、勇者戦隊消しゴムを大人買いしたり、彼女が納得できる物を二人で選んだ。


「ここは悪魔の羽シリーズのランドセルコーナーだよ」

「おお。凄いのじゃ」


 彼女は目を輝かせてランドセルを手に取りよく見ている。


「兄者。わらわはこの、果汁したたるパパイヤのルビー色のランドセルにするのじゃ」

(良かったね、気に入った色が見つかって)


『お会計は二万ペソになります』

(何故ここのコーナーだけ通貨が違う)


 僕は疑問に思いながら銀貨六枚を支払った。


 ◆


「おお。兄者! ケーキは何処じゃ!」


 僕らは地下一階の食品コーナーに来ている。ちょこちょこと彼女は走り、今にもコケそうだ。


(おお、あめ細工があるじゃん)


「タンヤオ、あそこに飴細工があるから見てみない?」


 僕は彼女を連れて、飴を取り扱っている店へ行く。まるでガラスのような飴細工はとても綺麗で芸術的だ。


「兄者。これ本当に食べられるのか?」

「うん。飴だから食べられるよ」

「わらわは甘い物が食べたいぞよ。兄者、それよりケーキ――兄者! 兄者! 水飴があるのじゃ!」

「あっ、本当だ」

「わらわは水飴が食べたいのじゃ」

「えっ、これ買うの?」

「お祭りで水飴煎餅せんべいが食べられなかったのじゃ」

「わかったよ。いくつ買えばいい?」

「一斗缶四つでいいのじゃ」

(一斗缶って、プロレスタッグマッチでもやるのか?)


 僕が一斗缶を四つ買うとタンヤオはニコニコして、


「早く帰るのじゃ。水飴が食べたいのじゃ!」

(ケーキはいいの? タンヤオ)


 こうして無事にタンヤオの入学準備ができたのであった。

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