第2話 いちごの試練

賢治の日常に突然、試練が訪れる。松原さんが急用で店を空けることになり、賢治にショートケーキの全ての準備を任せることになったのだ。今まで彼が担当していたのは、いちごを乗せる工程のみ。生地を焼くこと、クリームを作ること、それら全てが未知の領域であった。


店の裏にある小さなキッチンで、賢治はレシピを手に取る。手順通りに進めれば問題ないはずだが、焼き上がりの色やクリームの硬さがいつもと違う。不安が彼を包み込む中、開店の時間が迫る。


「大丈夫かな…」自問自答しながら、彼は一つずつケーキを組み立てていく。そして、いつものようにいちごを丁寧に乗せる。この一部分だけは彼にも自信があった。


店の扉が開く音とともに、いつもの常連客が顔をのぞかせる。賢治は恐る恐る彼らに自作のケーキを出す。最初の一口を見守る瞬間、彼の心臓は高鳴る。


「これ、おいしいね!いつもとちょっと違うけど、新鮮でいい感じだよ」と一人のお客さんが言う。その言葉に、賢治はホッと胸を撫で下ろす。他の客からも好評で、賢治は少しずつ自信を取り戻す。


その日の閉店後、賢治は一人でキッチンに立ち、今日のことを振り返る。松原さんの不在中に多くのミスを犯したが、それでも彼は諦めずに最後まで仕事を完遂した。そして、何よりも客の笑顔が彼に大きな勇気を与えた。


賢治は理解する。完璧でなくても、自分なりの努力と工夫で、人々に喜びを届けることができるのだと。そして、もし次にまた同じことが起きたとしても、彼はもう怖がらない。賢治の中で、新たな一歩を踏み出す勇気が芽生えていた。

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