第12話
「おはよ~」
アーサーがいつも通り布団から上半身を起こす。
「おはよ」
俺はいつも通り返した。今日はクリスマス。俺やアーサーのところにはクリスマスプレゼントなんて来るわけない。
樹はというと大量のクリスマスプレゼントを隠そうとしている。
「……樹…全部見えてるからな」
「あ、えーと」
「違うよ祐樹、プレゼントがもらえない僕たちを養護してるんだよ」
「アーサー……フォローになってない……」
樹がうなだれたところで、俺たちは、リュックから小包みを取り出した。
「せーの「「クリスマス、おめでとー‼樹‼」」
「え⁉俺に⁉」
「そっ。俺たちで選んだんだ」
「開けてみて」
樹が包装紙を破る。
中に入っていたのは万年筆だった。樹からもらうお小遣いをためて買ったのだ。
「……ありがとう!大切にするよ」
別に俺がおぜん立てしたわけじゃない。アーサーが「樹にプレゼントをあげたい」って言いだしたんだ。
「ところでっ二人とも」
樹は小包みを二つ差し出していた。
「えーと」
「俺たちにってこと?」
「そうだよ。一つもないのはかわいそうだからね」
「ありがと」
「樹!ありがと」
俺は丁寧に包装紙を破る。
中には腕時計が入っていた。別にブランド品ではないがどこか懐かしさがあった。
俺が黙っていると樹が話し始めた。
「その時計、俺が初めて君にあげたプレゼントなんだ。学校で壊されたみたいだけどね」
そうだった。一人の男子が悪ふざけで時計をカナヅチで割っちゃったんだ。
腕にはめてみる。測ったこともないのにサイズがぴったりだった。アーサーはつけ方がわからないようで、俺がつけてあげた。アーサーはつぶらな瞳で腕時計をじっと眺めている。
「樹、ありがと。今度は絶対に壊さないから」
「絶対だぞ?」
「あぁ絶対」
樹はカバンから腕時計を取り出した。それも新品で樹自身の大きさに合わせてあった。
樹はアーサーと目が合うように少しかがむと―――
「佑樹、アーサーこれでお揃いだ!俺たちは最高の親友だ。まぁアーサー君、君は佑樹と恋人だけど」
アーサーの顔が真っ赤に染まった。そして思いっきり樹をアーサーはビンタしたのだった。
佑樹がトイレに行っている好きにアーサーはもう一つ包を俺に差し出していた。
「どうした?」
アーサーは顔を赤らめたまま紗季の口調で懇願してきた。
「これさ、佑樹が死ななかったら渡そうと思っていたの。アーサーとしてでなく紗季として受け取って欲しいの。私が初めて渡す恋人へのクリスマスプレゼント。こうして男の子になっちゃったけどこれだけは渡さなきゃってずっと思ってたの」
俺はその包を受け取るべきか悩んでいた。素直に受け取ればいいのかもしれないが、紗季とは年齢も違えば性別も違う。そんな子に恋人としてクリスマスプレゼントを渡されてもどう喜んでいいのかわからなかった。もちろんアーサーが紗季であることは忘れていない。
しばらく考えたあと、俺は包を受け取った。理由は単純だった。女の子、元女の子かもしれないが、その子の尊厳やプレゼントを踏みにじる勇気は俺にはなかった。
中身はペンダントだった。しかもちょっと特殊なやつで二枚の写真が入れられるやつだ。アーサーじゃないアーサー姿の紗季はこれまで見せたことのない真っ赤な顔で写真を二枚わたしてくれた。
……恥ずかしい気持ちはわからんでもない。写真は樹と紗季の写真だった。どちらも転生する前の写真で高校の制服を着ていた。
「…………」
「……もしかして転生後の方が良かった?紗季じゃなくてアーサーの方がいいとか」
「そういうことじゃない」
単純に嬉しすぎて言葉を失っていた。
「もしかして佑樹ってこういうのあんまり好きじゃないのかな?」
「いや、こういうのは嫌いじゃないし、むしろ二人も大切な人とずっと一緒にいられるのはめっちゃ嬉しい」
「私が……大切な人?」
「そうだよ。僕たち恋人じゃない。付き合ってるじゃん。もちろん樹もだけど」
紗季は俺の方に近づいてきた。俺は目を合わせようと少しかがんだ。でもさっきの樹の二の舞にはなりたくないので少し距離を置いた。
紗季は両手で俺の顔をがっしりとつかみ自分の顔へと近づけていった。アーサーの整った顔の唇がとんがっている。 俺は自然とアーサーの背中へ手を回していた。ハグするような体勢になる。
俺と紗季の唇が触れ合った。紗季はどうすることもなくしばらくキスの状態でいてくれた。
やっと離れてくてた紗季は全身真っ赤だった。口調はいつの間にかアーサーに戻っていた。
「きょ、今日だけだからな!」
「……ありがとう」
もう一回ぐらい…………男の欲望が出たきがする。アーサーは俺の心を読んだかのように大股で近づいてくると、思いっきりビンタした。
「もう二度としてやんねー」
アーサーはきっぱりと言うと樹にもらった腕時計を眺めた。
扉の外で樹が二人がキスをするところを眺めている。
「二人が巡り会えて良かった」
そのこころはどこか二人の父親のようで自分の口から出た言葉を恥ずかしさで消し去りたいぐらいだった。
心中する。そして奴隷になった。 若林七海斗 @KinYou3124
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