第40話 桜姫城侵入

「カズト君、私達に何か出来ることないかな?」


 雫と別れた後、カエデが重苦しそうな顔で問いかけてくる。


「難しいな......雫は一人で決着をつけたがってる。俺達が下手に介入したら最悪、雫から恨みを買う可能性だってあるかもしれない」


「やっぱりそうだよね......」


「でも京楽ってやつは恐らく城の兵士だろ? 俺達の当面の目的は城の最奥部にある玉鋼だ。玉鋼の入手過程でたまたま京楽の情報を入手したら、ばったり遭遇することもあるかもしれない。たまたまなら雫だって許してくれるかもな」


「確かに私達の目的のためなら仕方ないよね、たまたまなんだもん! よし、そうと決まったら明日から情報収集再開しよ!」


 既に日も暮れ始めている。元気を出したカエデとともに、一旦宿に帰ることに決めた。



 一週間後......



「何も収穫がない!!!! 雫ちゃんとも会えないしどうなってるの~」


「今日も今日とて何の成果も得られませんでした......」


 雫と別れて一週間。情報収集を再開した俺達だったが、めぼしい情報は何も得られなかった。一週間も何もなく走り回った俺達は泥のようにベッドにダイブし、意識を手放した。




 けたたましい鐘の音で叩き起こされる。一気に意識を覚醒させると、カエデも起きたようで二人で宿から飛び出す。宿の外は大混乱に陥っていて、住民は逃げ惑うように走り回っている。


「何があったんですか?」


 近くにいた兵士に状況を確認する。


「急に城に魔物が押し寄せてきたんだ、もう火も回っている。お前たちもできるだけ遠くに避難しろ!」


 それだけ言うと兵士は住民の誘導を再開する。


(魔物ということはモンスターか? 何もないところから急にモンスターが現れることなんてあり得るのか? 確かに今までの国と違いダンジョンがないことは疑問だったが......)


「カズト君、今がチャンスじゃない?」


「ああ、今しかない」


 住民達が危険に晒されている状況の言葉とは思えない人でなしな発言だが、俺達のフラストレーションは溜まりに溜まって我慢の限界だった。何の収穫も見込めない状況に突然降ってきたこの幸運を逃す手はない。俺達は急いで桜姫城へと走り始める。


「桜の木まで……」


 桜姫城に到着した俺達の目に飛び込んできたのは、火の手が上がり始めている城と桜の木だった。皮肉にも、あれだけ美しかった桜の木は炎の赤色とのコンビネーションでより美しく見えた。だが、それも今だけだ。燃え盛る炎はあっという間に美しい桜を喰らい尽くすだろう。


「カエデ、城門が開いている。恐らくモンスターもかなりの数侵入しているだろうが進むしかない。気をつけろよ」


「うん、お互いにね」


 既に全モンスターが城内に侵入しているのだろう。城の周りにはモンスターの姿は一匹も見当たらなかった。

 強引に破られた痕跡のある扉を2人でくぐると、城内にも火の手が回っておりモタモタしている時間が無いことは一目で分かる。


「時間が無い、道中のモンスターは出来るだけ無視しよう。無視出来ない時は一瞬で片付けるぞ」


「りょーかい」


 少し進むとすぐにモンスターと接敵する。右手に刀を持った、二足歩行のトカゲのような見た目。狭い通路に立っているそいつは無視出来そうに無かった。チャンスは後ろを向いている今だ。


【サムライリザードLv.21】


「カエデ、様子見は無しだ」


「もちろん、突っ込むよ」


 いつものように攻撃パターンを見極めている時間は無い。とりあえず二人でサムライリザードに向けて突進を開始する。初お披露目の『チャージスラッシュ』で横凪の二連撃をクリーンヒットさせると、体力ゲージを半分まで減らす。続いてカエデのチャージスタブでさらに半分。


 サムライリザードは少しよろけるが、反撃の体勢を取り刀を振りかぶった。ターゲットにされた俺はスキルを惜しまず『カウンター』を発動。サムライリザードの振り下ろしをいなし、反撃の一太刀を叩き込むとサムライリザードは消滅した。


「よし、上手くいったね!」


「不意を突けたおかげだな、急ごう」


 サムライリザードを倒したことによりレベルアップした音は聞こえていたが、今はそれどころでは無い。ステータス確認は全て済ませてから行うことに決め、走り始める。


 細い通路を抜けると、開けた場所に出る。サムライリザードが数体確認できたが、広い通路のおかげもあり無視して二階へと進む。二階も順調に進み、三階への階段を駆け上がろうとした時。階段の途中でモンスターと遭遇した。


【ジェネラルオークLv.23】


(ジェネラル!?上位種に付くネーミングじゃないか)


 緑色の体に銀色に輝く鎧を纏い、棘の付いた棍棒を握りしめたその風貌は明らかに強者のオーラを放っている。


「ここ以外に上に登る方法は無い、倒すぞ」


「こいつ強いよ、気をつけよう」


 急いでいるとはいえ、死ぬのはゴメンだ。先程のように突っ込むのは控え、少し慎重に立ち回ることに決めてジェネラルオークと向かい合う。

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クロニクル・オブ・ソード ~ゲームに閉じ込められた少年が英雄になるまで~ きい坊 @kiibou2191

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