初デート【おまけ】

 今日は、恋人になってから初めてのデートの日だ。言ってしまえば、いつも通り遊びに行くだけとも言えるのだけど、恋人になったという事もあって、ちょっとだけ緊張していた。


「ふぅ……」


 深呼吸をしてから、鑑を取り出して髪を確認する。今日は、いつもと違って編み込みとかもしているから、乱れていないか気になってしまう。


「星那」

「あっ、美空。おはよう」

「おはよう。髪、編み込んだんだ。可愛いね」

「あ、ありがとう」


 ストレートな褒め言葉と柔らかい微笑みに、ドキッと心臓が跳ねる。前から同じような事をしてくれる事はあったけど、恋人になったからか、いつもよりも心が反応しちゃう。


「それじゃ、行こうか。カードにお金入ってる?」

「あ、うん。さっきチャージしたよ」

「それなら良かった」


 二人で改札を抜けると、美空が手を繋いでくれる。本当に自然な感じで繋いでくれる。しかも、恋人繋ぎで。ほんの少しの違いだけど、改めて恋人なんだなと感じる。

 そのまま目的地である水族館に着いた。その間の道では、改札を通る時以外、ずっと手を繋いだままだった。少しひんやりとする美空の手は、もう私の体温と同じになっている。


「意外と人が多い」

「まぁ、夏休みだしね。まだ平日だから、少ない方にはなると思うけど」


 美空の言う通り、水族館の前には結構人がいる。券売機に列が出来ているので、その列に並ぶ。十分くらい待って、ようやく券売機で入場券を買うことが出来て、水族館の中に入ることが出来た。


「ふぅ……中は涼しくて良いね」

「そうだね」


 さっきまで猛暑の中にいたからか、水族館の中が、かなり涼しい。滲んでいた汗が一気に引いていくのが分かる。おかげで、汗を気にしないで済む。

 美空と手を繋ぎながら水槽を回っていく。


「わぁ……魚がいっぱいだね」

「まぁ、水族館だしね。星那は、水族館に来た事ないんだっけ?」

「小さい頃にあったみたいだけど、私自身は、全然覚えてないんだ」

「そうなんだ。じゃあ、今日は楽しまなきゃ」

「うん!」


 美空と一緒に水族館を回っていく。見たことの無い魚やクラゲ、カニなどを見ていたけど、どうしても私の視線は横で水槽を見ている美空に向いてしまう。

 水族館は、少し薄暗い所もあったりして、仄かな光に照らされる美空の横顔が綺麗で可愛くて、つい見つめたくなってしまうからだ。つまり、美空が可愛いのが悪い。


「星那」

「何?」

「私じゃなくて、魚を見たら? せっかく水族館に来てるわけだし」

「……バレてた?」


 美空の視線は完全に水槽に向いていたのに、私が見ていた事を知っていたらしい。


「そりゃあ、恋人が私を見ている事くらい見なくても分かるし」


 そんな事を言われてしまって、私の方が赤面してしまう。でも、恥ずかしいという訳では無く嬉しい事だったので、頬は緩む。


「まぁ、星那の方は気付かなかったみたいだけど」

「えっ!? 嘘!?」

「本当本当。水槽の反射越しにね」

「えっ……」


 直に見られていたら気付いたかもしれないけど、水槽の反射で見られていたのは、さすがに気付けない。私は、反射よりも直に見たい派だし。


「見るならちゃんと見て欲しいなぁ」

「ふ~ん、じゃあ……」


 美空に引っ張られて、向かった先は近くにあるベンチソファだった。そこに並んで座る。そして、美空が私の事をジッと見つめてくる。美空の綺麗で可愛い顔がすぐにそこにあり、尚且つ私の事を食い入るように見つめてくるので、心臓の鼓動がどんどんと速くなっていく。


「満足?」

「うん。やっぱり、美空は可愛いね」

「ありがとう」


 そう言った美空が軽いキスをしてきた。見つめられた時とは逆に、今度は心臓が止まるかと思った。


「いきなりはズルい……」

「私をジッと見るのが悪い。ほら、せっかく一緒に見てるんだから、一緒の思い出を作ろ」

「うん!」


 美空との初デートは、良い思い出ばかりだった。これから先もこんな思い出を積み重ねていけたら良いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空があって星が輝く 月輪林檎 @tukinowa3208

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ