花火観賞の中で【本編完結】
夏祭りを楽しんでいたら、花火が打ち上がる二十分前になっていた。
「そろそろ花火だね。よく見える場所に移動しようか」
「あっ、それなんだけど、ちょっと良い場所があるんだ。付いてきて」
美空に手を引かれて、夏祭りの会場から移動していく。人混みから離れていく方向だ。つまり、花火の会場から離れる方向になる。
「離れちゃったら、花火を間近で見られないよ?」
「良いの良いの。ちょっと階段上がるよ」
「階段? もしかして、あの小さい公園?」
「おっ、正解。会場からそこそこ近くて、全く人がいない場所だから穴場だと思うんだよね」
「まぁ、確かに……」
美空が言っている公園は、私もよく知っている公園だった。二人で遊ぶ時に何度か行っているけど、そこに人がいた事は一度も無い。美空の言う通り穴場と言える場所だ。
その公園までは、ちょっと長い階段を上がる必要がある。美空は余裕だけど、私は息切れしてしまう長さだ。
「ふぅ……」
「お疲れ様。ほら、やっぱり人はいないし、会場も見える。良い場所でしょ?」
「本当だ。よく気付いたね」
「人混みが嫌なだけだよ。ほら、あそこにうってつけのベンチもあるし。ベンチで汚れないように小さいレジャーシートも持ってきたから」
巾着に入れていたのは、レジャーシートだったらしい。用意周到で、ちょっとびっくりした。
「ほら、座って」
美空が敷いてくれたレジャーシートに座る。二人でギリギリの大きさなので、必然的にかなり近い距離になる。肩と肩が完全に触れあっている状態だ。
「後一分で始まるよ」
「楽しみだね」
二人で並んで待っていると、花火が打ち上がり始めた。色とりどりの花が夜空で弾けて周囲を照らしていた。ちょっと離れた場所に移動したけど、私達の場所でも十分大きく見える。
「おぉ……」
「迫力あるね」
「何?」
「迫力あるね!」
「ああ……ね! 良い場所だったでしょ!」
「うん!」
花火の音に声がかき消されてしまうので、ちょっと大声で話す。少し花火に見入っていると、美空が巾着の中から棒が付いた飴を取り出した。
「はい」
「ありがとう」
コーラ味の飴を舐めながら、二人で花火を見る。その中で、ちらっと横にいる美空を見た。花火で照らされている美空は、いつも通り可愛い。よく見てみると、ほんの少しお化粧をしているのが分かった。ほんの些細な違いだけど、間近でジッと見たら、ちゃんと分かる。最初に見た時は、浴衣を着ているから可愛いのかと思ったけど、別の努力もしていたみたい。多分、おばさんがやってくれたのかな。
美空の新しい魅力に気付く事が出来た。それは嬉しい事だけど、それに真っ先に気付けなかった事が悔しかった。
でも、改めて、美空の事を好きだと思った。一生傍にいたい。一生傍にいてほしい。傍にいると安心する。癒される。何もない時間すらも幸せに感じる。もっと触れたい。触れて欲しい。
そんな気持ちが胸の内から溢れ出してくる。花火を見ている特別な時間だからかな。いつも以上に美空への気持ちが抑えられない感じがした。
「好きだよ」
ついその想いが口に出てしまった。花火の音と同じタイミングで、しかも小声だったから美空に聞こえてはいないはず。
そう思っていたのだけど、美空はこっちを見て、ほんの少し顔を赤くさせていた。そんなところも可愛い。
いや、そんな事よりも気にするところがあった。美空に私の言葉が聞こえていた事だ。何か言い訳をしたいところだったけど、上手い言い訳が思い付かなかった。
私が内心焦っていると、美空が私の耳に口を近づけた。
「私も好きだよ。星那の事」
「!?」
予想外の答えと望んでいた答えに感情がぐちゃぐちゃになる。私があわあわとしていると、美空は首を傾げていた。
「えっ、もしかして、私の事じゃなかった?」
美空は恥ずかしそうにそう言った。自分の勘違いかもしれないと思わせたみたいだ。
「あ、ううん。美空の事だよ。美空の事が好き。大好き」
「なら、良かった。私の一方通行なのかと思ったから」
「私も嬉しい」
美空が同じ気持ちでいてくれた。それが、どれだけ嬉しい事か。
私達は互いに微笑み合い、互いに寄り掛かる。肩と腕から伝わってくる美空の重み。自然の絡めた手と指から伝わる体温。そして、互いに伝え合った気持ちから来る安心感と多幸感。
これまでの人生で、一番の幸せな時間が過ぎていく。でも、これから先、もっと幸せな時間が続いていくのだと思うと、寂しさはない。美空と一緒なら、いつまでも紡いでいけるものだと思うから。
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