夏休み(夏祭り編)

 夏祭りの日。私は、お母さんに浴衣の着方を教わっていた。新調した浴衣で、星柄の濃い青色をした浴衣だ。せっかくだから、自分の名前にちなんでみた。


「はい。これでオッケー。ちゃんと覚えた?」

「うん」


 お母さんに見てもらいながら、自分で浴衣を着る。


「完璧」

「やった」


 これで帯が崩れても直せるし、美空のも直してあげられる。まぁ、そんな事が起こらないに越した事はないのだけど。


「そろそろ約束の時間じゃない?」

「あっ、本当だ!」


 時計を確認したら、約束の時間の二十分前だった。待ち合わせ場所は、そこまで遠くないのだけど、美空を待たせたくないので、急いで玄関まで向かう。


「巾着は持った?」

「うん」

「花火が終わったら、すぐに帰るのよ?」

「うん」

「後、無駄遣いはしない事。お金には限りがあるんだから」

「分かってるって。行ってきます」

「はい。いってらっしゃい」


 お母さんに見送られて、私は待ち合わせ場所の駅前まで向かった。待ち合わせ時間の十分前に着いた私は、軽く髪を整えながら美空を待つ。

 五分くらい待っていると、美空がやってきた。美空の浴衣は水色の朝顔の柄をしていた。明るい色だけど、美空にはよく似合っている。何だかいつもよりも可愛く見える。

 それにしても、私のよりも大きめの巾着を持っているけど、一体何を持ってきたんだろう。


「ごめん、待った?」

「ううん。そんなに待ってないよ。浴衣似合ってるね」

「そう? ありがとう。星那も似合ってるよ。いつもとは違った可愛さがあるね」

「かわっ……」


 唐突な褒め言葉に、少しだけ顔が熱くなる。そんな私にお構いなしに、美空が空いている方の私の手を取った。


「迷子にならないでよ?」

「子供じゃないんだから、迷子になっても大丈夫だよ。携帯もあるし」

「私が心配するからだよ。こういう意味では、白子と変わらないかもね」


 白子は、妹ちゃん達と夏祭りに行くと言っていた。つまり、美空も私のお守りをするみたいなものって言いたいみたい。


「私は妹じゃないけど」

「まぁ、似たようなもんでしょ。ほら、行くよ」

「むぅ……は~い」


 美空と手を繋いで、一緒に夏祭り会場へと向かう。会場は、海の近くにある大きな公園だ。花火会場も同じ公園だから、夏祭りを楽しんだ後は、そのまま花火を見る事が出来る。

 会場は、屋台が並んでおり、沢山の人で賑わっていた。


「ほら、手を繋いでいて正解だったでしょ?」

「まだ迷子になるって決まったわけじゃないし」

「はいはい。さてと、何から食べる?」

「う~ん、たこ焼き! 分けっこしよ」

「んじゃ、行こう」


 美空と一緒にたこ焼きの屋台に行って、六個入りを一つ買う。私がお金を払って、美空が受け取る。そのまま歩きながら食べるのは難しいので、道の端っこの方に行き、人の邪魔にならない場所で食べる。


「はい。あ~ん」


 美空が、爪楊枝に刺したたこ焼きを差し出してくる。前にもやったので、このくらいでは照れない。いや、嘘です。多分、ちょっとだけ頬が赤くなってると思う。

 ただ、すぐにそんな事を考えていられなくなる。


「熱っ!?」


 たこ焼きを噛んだ瞬間、熱いとろっとした中身が飛びだしてきた。口の中が火傷するかと思った。


「あははは、やっぱ、熱いか」

「分かっててやったでしょ!?」

「まぁね。熱っ!?」


 私を笑いながら、たこ焼きを食べた美空も熱さで涙目になっていた。熱いって分かっているのに、何故食べたんだろう。


「自分に返ってきた……」

「全く、私をからかうからだよ」

「たこ焼きの醍醐味みたいなものじゃん。ほら、あ~ん」


 さっきので大分慣れたので、今回はそこまで悶えない。美空も同じだ。そんな風にたこ焼きを食べていたら、少し離れたところに白子がいるのを発見した。


「白子だ」

「ん? 本当だ。妹ちゃん達と一緒だね」


 美空も見つけたみたい。白子は、バラバラに動こうとした妹ちゃんの片方を抱き上げて、もう片方を追いながら叫んでいた。動き回る事を想定していたためか、浴衣では無く私服を着ている。


「大変そうだね」

「本当にね。それじゃあ、次はどこに行く?」

「う~んっと……美空は何が食べたい?」

「え~……ベビーカステラ」

「じゃあ、そこ行こう」

「オッケー」


 私達は、また手を繋いで一緒に屋台を回っていった。ベビーカステラ、焼きそば、わたがし、かき氷と二人で分け合いながら食べて歩いていった。一つを二人で分け合えば、それだけ色々な種類を楽しめる。

 二人で一緒に夏祭りを楽しんでいった。

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