夏休み(プール編)

 高校生活も早三ヶ月が過ぎて、とうとう夏休みがやってきた。テストからも解放された私と美空は、白子に誘われて、近所のプールに来ていた。ウォータースライダーなどはないけど、少し長めの流れるプールがあるので、泳ぐのが苦手な私でも楽しめるといえば楽しめる。

 更衣室に入る前に、券売機で入場券を買う。


「そういえば、もう少し行ったところに大きめのプールもあるのに、何でこっちなの? 向こうは、色々なアトラクションもあるじゃん」


 美空が白子に訊いていた。確かに、もう三駅程進んだところに、大きめのレジャー施設がある。そこのプールには、ウォータースライダーや、こっちのプールの比較にならないくらい大きい流れるプールなど、色々なものがある。より楽しめる方で言えば、向こうのプールになる気がするけど、白子が誘ってきたのは、こっちのプールだった。


「だって、混むじゃん。向こうに流れる分、こっちは空いているからね」

「まぁ、白子が良いなら良いけど」

「良い! そういえば、星那は浮き輪持ってきた?」

「うん。持ってきたけど」


 運動が苦手の私は、勿論水泳も苦手だ。カナヅチじゃないから、全く泳げないわけじゃないけど、浮き輪があった方が安心する。


「そんな星那に、これを貸してあげよう」


 そう言って、白子は浮き輪を取り出して渡してきた。私が持ってきた物よりも倍以上の大きさがある。


「いや、持ってきてるって」

「こっちは、二人で乗れる浮き輪なんだよ。何か、お母さんが懸賞で当てたって貰ったんだけど、私が美空と乗るより、星那が美空と乗った方が、美空も安心でしょ」

「確かに」


 何故か私よりも美空が納得していた。


「こっちの方がひっくり返りにくいかもだし、借りなよ。そっちの浮き輪は白子が使えば良いし」

「そう? じゃあ、借りようかな。てか、白子は浮き輪いるの? 元水泳部でしょ?」

「元水泳部も、たまにはぷかぷか浮いていたいものなんだよ」


 白子は、中学の時に水泳部に所属していた。でも、高校に入ってからは、軽音部に所属している。意外と多才だから、色々とやりたいみたい。白子が用意周到に空気入れを持ってきていたので、水着に着替えてから、ポンプを踏んで、浮き輪に空気を入れていった。

 そんな私の背中に冷たい感覚が襲ってきた。


「ひゃっ!?」

「ジッとしてて。日焼け止め塗ってるんだから。水に強いやつだから」


 そう言って、美空が私に日焼け止めを塗ってくる。日焼け止めがというよりも、美空の手が冷たくてびっくりした感じだ。せっかく塗ってくれているので、なるべく動かないようにしながら空気を入れる。


「ここのプールは、日焼け止めOKだからね。塗っておいた方が良いでしょ。ここ屋外だし」


 場所によっては、日焼け止め禁止の場所もあるので注意が必要だけど、ここは禁止では無い。だから、美空も白子も日焼け止めを塗っている。忘れたのは、私だけだった。美空は、それを見越していたらしい。

 色々な準備を終えて、シャワーを浴びた後、皆でプールに繰り出す。人はいるけど、混み合っているという程ではない。寧ろ、ガラガラと言っても良いかもしれない。


「……空いてるね」

「まぁ、いつも通りでしょ。ほらほら、流れるプールで流れよう。美空も」

「だね」


 皆で流れるプールに行き、浮き輪に乗って流れる。白子は、私の方の浮き輪に腕を突っ込んで、私達から離れないようにしていた。


「そういえば、白子は夏休み何するの? ライブ?」


 美空が脱力しながら訊いていた。流れるプールで癒されているらしい。


「ライブはするねぇ。その時は、チケット買ってね」

「あ~、そういうノルマあるんだっけ。バイト頑張らないと」

「そういえば、星那と美空は、バイトしてるんだっけ? 楽しい?」

「「大変」」


 私と美空は、それぞれ別のお店でバイトをしている。美空は、ハンバーガー屋で、私は小さな本屋だ。飲食店でバイトをしている美空の方が大変そうだけど、私も品出しが大変だった。体力のない私が駄目なんだろうけど。


「私もバイトしようかな。お金欲しいし」

「両立出来るかが問題じゃない?」

「それは出来ると思うけど。妹達がなぁ」

「双子ちゃん?」

「そう。遊び盛りの五歳児達」


 白子には、双子の妹ちゃん達がいる。前に一緒に遊んだことがあるけど、可愛い子達だった。


「そういえば、来週くらいに夏祭りあるけど、白子は一緒に行く?」

「あ~、やめとく。やんちゃ共のお守りしないと」

「別に一緒でも良いよ?」

「いやぁ……駄目駄目。二人で楽しんできな」


 白子を誘ってみたけど、妹ちゃん達のお世話をするからと断られてしまった。本当に一緒でも問題はないのだけど、白子の方が気にするみたい。


「それじゃあ、二人で行こうか」

「りょうか~い」


 美空は、脱力しながら答えた。まるでリゾートにいるかのように脚を伸ばしていた。すっぽりと浮き輪の穴に吸い込まれないか心配になるけど、全くそんな気配は無い。

 三人で遊ぶのは、結構久しぶりだけど、こうしてのんびりとするだけでも楽しい。

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