前世ルーレットの罠
平 遊
前世ルーレットの罠
「すごい当たるんだ! あたしも占って貰ったの! それで3,000円って、安いでしょ? だいたい占いって5,000円くらいするし。だから、
大学のサークルで一緒になり、たまに連絡を取るようになった
ほぼ、珠路に引きずられて行ったような感じだ。
仕方ないんだ、俺は珠路に惚れているから。まだ気持ちは伝えてないけど。
「
怪しげな黒幕をくぐった向こうには、これまた怪しげな占い師の姿。フードを目深に被り、ローブで全身を覆っている。もはや全身真っ黒だ。
テーブルの上に置いてあったのは、よくある水晶玉ではなくて、なぜかタブレットがひとつ。
「ありがとうございます」
占い師は立ち上がると、指先までローブに覆われた手を珠路へと差し出す。
「珠路さん、お手を」
「え? あ、はい」
おずおずと珠路が占い師へ右手を差し出すと、その手は占い師のローブの中にすいこまれるように隠された。どうやら握手をしているようだ。
「あなたの未来に祝福を。そしてあなた、真鍋さんですね?」
そう言って、珠路の手を離した占い師は俺へと顔を向ける。フードに隠された顔は、口元しか見えない。
「あ……はい」
「それでは、さっそく」
ふと見れば、既に珠路の姿はない。
仕方なく、俺はテーブルを挟んで占い師の前に置かれた椅子に腰掛けた。
「こちらをご覧ください」
いつの間にか、タブレットの画面には
『スタート』
『ストップ』
のボタンと、ルーレットの盤面が表示されている。
「今からあなたの前世を、こちらのルーレットで占います」
「……前世?」
「はい」
今どきの占いはタブレット使用かよ。
と思っていたら、その斜め上を行く前世占いとは。こんな占いなら、Web上に五万とあるぞ。
バカらしくなって席を立とうとすると、占い師が言った。
「わたしの名前は、
突然フルネームを呼ばれてギョッとした。珠路から聞いていたのかもしれないけど、なんだか怖い。
「前世を侮ってはなりません。あなたの前世を占う事により、前世での罪を現世でどのように昇華すべきかがわかるのです。さぁ」
言いながら、千里と名乗った占い師は、俺の前に平たいプレートを差し出す。
よく、会計の時に使われる、あのプレートだ。
プレートには『3,000円』と書かれた紙が貼られている。
要は、早く金を払って占わせろ、ということだろう。
ここで席を立ったら、なんだか悪い事が起こるかも。
そんな気がして、俺は仕方なくプレートの上に3,000円を乗せた。
「では、どうぞ」
千里に促されて、差し出されたタブレットの『スタート』ボタンを押す。
すると、ルーレットの盤面に書かれている文字がチカチカと慌ただしく変化しながら、回り始める。
「お好きな所で止めてください」
言われて俺はすぐに『ストップ』ボタンを押した。
結果は――
「あなたの前世は【略奪の限りを尽くした盗賊】です」
「……えっ?」
思いも寄らない結果に呆然としていると、千里が淡々と告げる。
「真鍋さん、あなたは前世で罪もない人々から略奪の限りを尽くしたようです。ですので、現世ではその罪を償わなければなりません」
「はぁ」
「でも、心配はいりません。わたしには、あなたの明るい未来が視えています」
「あの、俺はどうすれば」
知らない内に体が前のめりになり、俺は千里の言葉を待っていた。
すると、千里は言った。
「人助けをなされば宜しいかと」
「人助け?」
「えぇ。例えば……あぁ、この先は別料金です」
再び目の前に出されるプレート。今度は『5,000円』と書かれた紙が貼られている。
さすがに躊躇していると、千里は言った。
「そうそう、わたしに新規のお客様をご紹介くださる、というのも人助けになります。その場合は謝礼として、3,000円、お支払いいたします」
その言葉につい、俺はプレートの上に5,000円を置いてしまった。
だって、誰か他の奴を連れてくれば、3,000円キャッシュバックしてくれるのだから、実質2,000円で教えてくれるということじゃないか。
「では、あなたの明るい未来に向けた助言を――――」
千里から助言を貰うと、俺はすぐさまキャンパスに戻り、適当な奴を見繕って声を掛けた。
「すごい当たるんだよ! 俺も占って貰ったんだ! それで3,000円って、安くね? だいたい占いって5,000円くらいするし。だから、お前も行こうぜ」
もちろん、その後俺は千里から3,000円キャッシュバックしてもらった。
お礼の握手と共に。
しかし、あの前世ルーレットって、ほんとなのかな。
なんだかんだ、悪い前世ばっかり出るようになってるんじゃ?
しかも、よく考えたら結局、5,000円取られてるし。
新規顧客まで紹介させられて。
な~んか、罠に嵌ったような気がしないでもないけど……ま、いっか。
【終】
前世ルーレットの罠 平 遊 @taira_yuu
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