火鯨
銀野 沙波/ギンノ イサナ(旧:鯨伏来夢
01__/ Under the whale’s grave
――――ひたり、
深い、深い、微睡みの中。暗闇の霧中でさまよう小鳥のような、泥水の中に迷い込んだ魚のような。そんな曖昧な私の意識に――額に、ひとつ、ハッキリとしたものが落ちたのだった。ふぅっ、と意識の霧が晴れてゆく感覚が私を包む。あぁ、なんて、なんて心地良い…。
そうやって私はふわふわと浮かんでいたのだが、するり、と。何かが上に逃げていった。ひゅるりひゅるりら、ひゅるりひゅるりら。周りの情景は上へ上へ。
あ、私、落ちてるのか。
ふと、下を見やるとすでに地面はそこにあった。
―――私は、飛び起きた。
耳には心臓の音と風の残響が残り、頬には一筋の冷や汗が伝った。あぁ…どうやら、悪い夢だったらしい…。にしても、ひどく気分が悪い。
青臭いコケの匂いが、しけった空気とともに私の肺に満ちる。あたりは暗くてよくわからないが、水滴の響きから、何かしらの広い空間であることがうかがえる。ぼんやりと明るく光る、不思議な花だけが、唯一その空間の中でハッキリとしていた。
私は、体を再び横たえた。薄く水が張っているようだが、どうも気にならない。むしろ滑らかな
…そういえば、なんでここにいるんだろう。私って何してたんだっけ…。でもなんか、どうでもいいかな…。そんなことを頭でぼやきながら寝返りをうつ。ふと、あの不思議な花が目に入った。あの花、なんて名前なんだろ。きれいだなぁ…。名前なんだろ…、花の名前。名前…名前…?あれ?そういえば…私の、「名前」って…。
ぼうっと、そんな事を思案していると、ふと、何か物音が聞こえた。だいぶ奥の方だろうか?何かが反響したのだ。水の音とは違う、何かが地を打つ音。
なんだろ。寝かせていた体を起こすと、その薄水の張った、岩の寝台から降りた。そばにあった花、唯一の光源。摘み取っても光ってるなら、道を見出してくれるかな。でも、もし光が消えたら…。そう思っている最中、私はその花を摘み取っていた。幸い、花の光は健在で、高くに掲げれば、その一室を微かな薄明かりで照らしてくれた。そこは中央に、先程の寝台が置かれた、石造の部屋だった。壁や床には所々に苔が生え、滴る水は、幾つもの水溜まりを成している。実に不思議な場所だ。
此処はどうやら、行き止まりのような場所らしく、奥へ奥へと、道は続いている。私は、一輪の花を掲げながら、ごくりと唾を飲んだ。
火鯨 銀野 沙波/ギンノ イサナ(旧:鯨伏来夢 @suraimudao
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