想い出の断捨離は出来ない

西しまこ

時計の想い出

 物を捨てるのが得意じゃないのですが、何かのタイミングでスイッチが入ると、断捨離をするのです。結構捨てます。すっきりします。

 だけどね、どうしても捨てられないものって、やっぱりあるんです。

 

 例えば、時計。

 ずっと前の時計で、もう動いていません。しかも、複数個あります。

 だけど、捨てられないの。

 ひっそりと、箱の隅に「美女と野獣」の缶に入ってしまわれています。

 ほとんど、見ることもない。


 そもそも、わたし、時計しないの。

 アレルギー体質で、基本的に腕に何かあるのが苦手だから。アレルギーが出るわけじゃないけれど、でも、気になってしまうのです。だから時計はしない。

 

 なのになぜ時計があるのか。

 それはプレゼントでもらったからです。

 一番好きだった人に。




 わたし、ずっと少女漫画ってあんまり好きじゃなかったの。

 きゅんきゅんするっていう意味が分からなかった。

 わたしの中の恋って、きゅんきゅんじゃない。

 もっと熱くて深くて、或いはどろどろとしていて、甘く心音が止まりそうな息が出来なくなるような、そういうもの。

 そもそも、少女漫画によく描かれている片想いの意味も分からない。

 片想いは恋愛じゃない。

 あれは、アイドルを好きになるのと似ている。

 虚像を作り上げて妄想しているだけって思ってしまう。


 だけど、片想いを知らないかというと、そうでもない。

 片想いはつきあった後に訪れる。或いは別れた後に。

 永久に手が届かない、どうしようもない感情。


 その意味で、もしかしてわたしは今でも片想いをしてるのかもしれない。

 そういう諸々の気持ちを封印して生きていく。大人だから。




 つまり、時計はその人からもらったものです。

 忘れられない恋に忘れられない人。

 日常的に時計はしないし、動かない時計を見ることもありません。


 だけど、隅にずっとある。

 心の隅にその人の居場所があるのと同じように。


 想い出の断捨離は出来ないなあ。

 間違えて失くしてしまったものはあるけれど。

 でも、物は失くしたとしても、気持ちは失くならない。




 そういう、断捨離出来ない気持ちの積み重ねで、わたしが出来ている。

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