再開

俺たちが卓に戻ると、豚男は退屈そうに爪をいじっていた。


「やっと戻ったか、逃げたのかと思ったわい」


目を細め、挑発するような視線を俺たちに向けている。


「すみません。お待たせしました。」


ウサギは隣の卓の清掃をしていたようだ。


俺たちに気づくと、その手を止めた。


「さ、再開しますか?」


おどおどと震えた声だ。


ウサギが黒の可能性が高いと踏んでいる今は、ヤツの一挙手一投足が胡散臭く見えてしまう。これは演技なのだろうか?


「ええ、再開しましょう。」


俺がそう言うと、ウサギは席についた。


俺とタカさんも席につく。さっきと同じ席順だ。


豚男の脇では、また少女が俺にジェスチャーを送っていた。


前にも見た動き。片手の人差し指の腹を頬につけ、角度を変えながら何度も鼻を指差す。


少女の表情には必死さが表れている。俺に何としても伝えたいのだろう。


このジェスチャーの意味が今なら分かる。


少女は鼻を指差し、それは豚男の鼻、つまり豚男の嗅覚を主張しているのだと俺は考えていた。


しかしそれは違うようだ。少女が、指の腹を頬につける意味、その指の角度を何度も変える意味。


指を差した方向に意味があるなら、こんな示し方をする必要はない。差した方向ではなく、指そのものがソレを表していたんだ。


つまりソレとはヒゲのこと。


鼻の辺りから角度を変えて何本も伸びたヒゲ。


そんなものが生えているのはこの中に一人しかいない。


少女はウサギが豚男と共謀していることを初めから知っていたのだ。それを伝えるためのジェスチャー。


なんだよ、もっと分かりやすく頼むよ。


俺はニコッと笑顔を返した。


もう大丈夫だ。ここからは俺たちの番。もうヤツらの好きにはさせない。




この店では回り親を採用しているようだ。これもまた、俺たちが元いた世界でよく見る風習。さっきの起家は豚男だったから、この半荘の起家はタカさんだ。


それぞれが山を積み終えると、ウサギはタカさんに賽を渡した。


「今一度確認しておく。レートは1000点200000ゴールド。俺たちが負けた場合はこの懐中時計を支払いに充てる」


タカさんはそう言うと、懐中時計を雑にサイドテーブルに置いた。


「それでも足りない場合は俺たちの店をやる」


豚男はゆっくりと頷いた。


「逆に、俺たちが勝った場合はそこの少女たちをいただく。これでいいな?」


「ああ、それで構わない」


豚男は一拍置いたあと、淡々と続けた。


「貴様らがそんなものを所有しているとは思ってもいなかったわい。さっきの半荘で、負け額と同じ額の借金を背負わせ、奴隷にでもするつもりだったのだがのう」


やっぱりか。はなからそのつもりで勝負を吹っかけていたんだ。人間そのものが商品になるこの世界では、対戦相手が金を持っていなくても問題ないのだ。相手そのものに金に代わる商品価値があるのだから。


「しかし、今やわしは奴隷以上に価値があるものを手中に収められる。フガガガ、ヒョウタンからコマとはまさにこのこと。景気がいいのう!」


豚男は既に勝ちを確信しているようだ。


どこまでも鼻につく野郎だ。


俺はタカさんの方を見る。


タカさんもこちらを見ていた。


互いに頷く。覚悟はできた。始めようじゃないか。俺たちの逆襲劇を。

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俺とオッサンが異世界で雀荘を開くことになるとは @ishinarabe

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