プロローグ

英雄にはなれない君と僕とか、ハンバーグカレーの作り方とか、旅とか

 僕は魔王の落とし物と旅をする理由を何に喩えようか考えていた。


「レモンの輪切りが入ったコーラと、具のない……いや、ハンバーグが乗ったカレーライスを」

「かしこまりました」

 

 僕は、魔王が生み出した無限の魔法書庫と旅をしている。彼女の事を、僕は魔法書庫を女性として認識して語る。だって、まんまその辺にいる女の子なんだもん。その辺にいるというのは、その辺の女の子にも魔法書庫である彼女にも失礼だから訂正しよう。

 その辺にはいない女の子だ。

 

「お待たせしました! ハンバーグカレーと、コーラです」

「ありがとう」

 

 ここのカレーはシャバシャバのカレーだ。僕が作るとトロットロのカレーになるから割とこのタイプを食べるのは珍しい。ちなみに彼女が作るカレーは焦げついてカレーになりたかった何かなわけで、食べられたものじゃない。

 

「おぉ! 具材の味が溶け込んで、こりゃんまいや!」

 

 カレーは魔法の全ての基礎が詰まっている。これは僕の持論だ。白飯は美味い、カレーもうまい。掛け合わせると最強だ。普通に作ってもアレンジしてもうまい。ちゃんとした作り方の手順を踏めば、誰だって美味しいカレーが作れるのだ。これは基礎魔法にも言える。魔法理論をちゃんと理解して、術式をちゃんと行えば、誰だってどんな属性のどんな魔法だって習得できる。

 術者はカレー鍋、スパイスは術者の生まれ持つ魔力、具材は魔石や杖などの補助アイテム。僕は具のないカレーを好む、自分自身だけで行使できる範囲の魔法でいい。道具に頼るともしもの時に焦がしちゃうからね。

 

 僕はカレーと同じくスパイスが効いたコーラを一口飲むと、羽ペンを論文を書く用紙に滑らせる。怠惰な学生がやらかす"おいしいカレーの作り方"を書いてるわけじゃない。免除期間の課題提出に彼女と二人で調べた洞窟が未発見のダンジョンだった事が分かり、それを纏めてる。軽く内部を調べただけでも新種の魔物に新種の鉱石が見つかった。僕らはこの洞窟を調べる事を一旦やめて、魔導士協会と冒険者ギルドに報告、新規ダンジョン申請をかけたのだ。独り占めしたい気持ちはもちろんあったけど、専門家を連れて調べた方がこのダンジョンの調査が捗ると思ったからね。

 

 普段は難色を示す魔法書庫である彼女が率先して情報提供した理由は新種の魔物がいたという事。魔物とは、魔王の所有物、それで通称魔物。突然変異や進化という可能性もあるけど、基本は魔王に生み出される物。このダンジョンがいつ頃できた物なのか、時代が分かれば僕と彼女の目的が一つ達成されるかもしれない。

 そう、魔王が生存していたり、歴史が変わるかもしれない。

 

「お客様、お連れ様がいらっしゃいました」

「もう話つけて来たんだ。通してあげて」

「かしこまりました」

 

 彼女は、一つダンジョン調査において申請をしに魔導士協会と冒険者ギルドに直談判しに行っていた。

 

「シエル! 調査の同行。許可がおりましたよ! おや? 珍しいですね。具のないカレーじゃないです」

「まぁ、座って冷たい物でも頼みなよ」

「そうですね。すみません。ストロベリーパフェをお願いします。あとホットの緑茶を」

「かしこまりました」

 

 魔王が生み出した無限の魔法書庫。


 トリオン・エクス・マギアと僕は旅をする。きっと僕と彼女の時間は彼女からしたら息を吸って吐く程度かもしれない。だけど身体が動く内は彼女の隣は他には譲れない。


 何故なら、何故なら緩んだ顔で、小さい子が好んで食べそうな巨大なパフェを嗜んでいるトリオンの事が僕はこの世界の歴史よりも狂おしい程気に入っているんだ。彼女と、僕は歴史に名を残した勇者様と魔王を追う、その旅の果て歴史が伝わった通りでも全く違う歴史が証明されようと、それはいつか僕らが眠る時、世界を大きく変えた英雄じゃなくても、いい人生だったと思って目を瞑れると思うんだ。


 人間と魔王の落とし物の旅ってさ、結局のところ平和なんじゃね? 

 って思うんだよね。


 カレーとハンバーグは子供の人気料理。

 人気料理同士の共演が美味しくないわけがない! という論文を書いたら再提出の通知が来たよ。


 そりゃ信じないか。

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魔法学園、休学のシエルと魔法書庫のトリオンは並んで歩く アヌビス兄さん @sesyato

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