第8話オーサンは王都に着く

「やっと着いたよ。もうしばらくは馬車の列に並びたくはないなァ」

 オーサンと従者のヒコニ、それと少女を乗せた馬車はミシガ大橋を渡り切って王都の西正門前手続きを済ませて城壁の中に入り、西正門前広場に降り立っていた。

「あのっ。ここまで乗せていただいて、ほんとうに助かりました。ありがとうございます」

 と少女は直角に近いほどのお辞儀をする。

「いいよ、いいよ。ちょうどいい話し相手がいて、飽きなかったってのもあるし……て、いまさらながら名前を聞いてなかったね。オレはオーサン・ヤッス。ヤッス家の次男になる。察しているとおもうけれど、パアルコに在籍するために王都に来た。気軽にオーサンと呼んでくれればいいよ」

「あ、そうですね。わたしはユーリエです。トゥガ村のユーリエです」

「トゥガ村ってヒオウネ領だったけ?」

 オーサンは従者に視線を向けた。

「オーサン様。違いますよ。トゥガ村はヒオウネ領に隣接するイヌゥガ領のはずれにある農村になります」

「ヒコニさん。そうです。イヌゥガのはずれにあるすごく田舎の村なんです。知らない人がおおいのに、よくわかりましたね」

「いえいえ『』至らない所を補佐するのも従者の務めですので」とヒコニはことさら「主の」を強調したうえで視線も投げかけた。

「ヒコニ……。その、ちょくちょく刺してくるの、やめない」

「なるほど。ヒコニの記憶を遡りますと、オーサン様にお教えした過去が存在しているのですが、それについてどうお考えなのかを、ぜひお聞かせ願えますか」

「……やぶを触るんじゃなかった。ごめんなさい」

「オーサン様。なにかと揚げ足を取り合うのは貴族社会のつねです。ですので、くれぐれも相対した者を慮った行動をして頂けると幸いです」

「待って。すこしはおもんぱかってるよっ!?」

「もちろん存じておりますとも」とヒコニはにっこり。

「はァ もういいや。ユーリエはこのまま魔学術院の寄宿舎にむかうんだっけ」

「そうです、オーサンは……あっ、オーサン様は王都にお屋敷がおありなんですか」

「いまさらだし、オレに『様』はいらないよ。いち貴族として、あって損はないと思うんだけど、親父は倹約家なもんで貴族寮住まいだよ」

 寄宿舎はパアルコ魔学術院に在籍する平民に向けた共同の生活施設のことでありあり、貴族寮は王都内に屋敷がない貴族の子弟が宿泊する施設のことである。

「じゃあオーサンとはここでお別れだね。今日はほんとうにありがとう。ヒコニさんもありがとうございました。また縁があったら、そのときはよろしくね」

「うんうん。それじゃあいくわ。まったね~」

 オレは馬車に乗り込み扉越しに手ふた。

「はい。またね」と手をふるユーリエと別れた。

「ヒコニ。ユーリエはやっぱりアレかな」

「オーサン様の家名にぴんとこないご様子でしたから、村の教会からの推挙。見習い聖女でしょうね。ただの村人にとってみずからが暮らす村の生活に関わりのない貴族家の名前など知っていてもしかたがありませんから、当然でしょう」

「うちはまさに辺境だからなァ。とはいえ、性格も良いし聖女として優秀なら辺境までご招待したいよね」

「そこはユーリエ様の成長に期待いたしましょう」


そうして馬車は王都の中心部にむかう大通りを走った。


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辺境伯家の――な怠け者 ~獣人な従者が有能すぎる件~ むくろぼーん @mukurobone

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