飛び出し注意

@wizard-T

飛び出し注意の看板のお話

 地域環境と子どもの未来を守るのに熱心な皆様。

 本日はよくお集まりいただきました。

 って言うか随分と目が輝いていらっしゃいますね。まあ落ち着いて下さい。


 さて時に、この看板をご覧ください。




 この看板があるのは、車など通れっこない、ある地方都市の外れの山道。


 まあ山道と言っても標高は100メートルもない、ほんの小さな丘への道です。

 いわゆる目抜き通りからはほんの二、三分歩けば行けるような丘。

 逆側に十分歩けばそこは小学校、そんな場所です。


 そこに立てられている、一枚の看板。

 そう、いかにも陸上選手のようなフォームをした、男の子。



 いわゆる飛び出し注意の看板です。




 ああ皆さん、何をそんなに熱くなっているのですか?


 え?こんなとこに置くな?

 意味がない?


 まあパッと見そう思えますよね、自動車なんか通れそうにないのにそんな看板作るだなんてって。


 え?いやそうじゃなくて?

 


 なんでこの坊やは服を着ていないのかですって?



 しかも全裸なだけじゃなく、なぜわざわざ乳首やおちんちんまで描いているのかって?



 ハハハ、まあ落ち着いてくださいよ。


 皆さんが実に地域の安全に熱心なのかはよくわかります。

 そのためにこの飛び出し注意の看板を、お求めに参ったのですよね。


 まあ、実際かなりお安くなっております。

 一枚ざっと……

 

 はあ。あまりにも安すぎるのではないかと?

 確かにそうです。金属板だとしても、あまりにも安いですからね。

 しかもこれ、いくら錆びても塗装が剥げ落ちても、悲惨な交通事故を思い知らせることができるって訳で都合がいいですからね。耐用年数って言う点で行けばそれこそ相当長持ちするでしょう。


 でもですね、そんなに安いのはなぜか?そう思われるでしょう。


 実は、今見せた看板のおかげなんですよ。




 この「裸の飛び出し坊や君」、まあそう言われておりますが、当然と言うべきか唯一無二の代物です。

 え、どこかが悪ふざけで作ったけどこれじゃドライバーがびっくりして視線が定まらずお蔵入りになった……?

 ああなるほど、そうですね、確かにその通りです。その通りかもしれません。


 まあと言う訳でね、こんな山道に置き去りにされたのですよ。それはざっと十年ほど前の事でしょうかね。


 そしていつの間にか、この「裸の飛び出し坊や君」の存在は広まって行ったのです。まあきっかけはどこぞの無軌道な青年が、ちょいといいね稼ぎのネタとばかりに撮影したんですがね。



 そしてそれからですよ、飛び出し注意の看板が沢山増えたのは。




 ほおらごらんなさい、皆さんのお隣を。



 あるでしょ、飛び出し坊やの看板が。


 いたんですよ。この誰にも注目されず朽ち果てるのが運命だった存在を、わざわざ寿命が尽きる前に殺そうとしたのが。

 まあ十年も経っていますからそれ相応に錆び付いており、おちんちんさえもうっすらとしか見えなくなっています。

 

 それなのに。

 何ですかね、資源の無駄とか。

 それはまあそうですけど、さっきも言ったようにこういうのは錆び付いていても価値がありますから。何なら山から出してそこら辺の道路に置いてもいいと思いますよ?


 だと言うのに皆さん、看板の存在が気に入らないからと、スコップとか持って移設とかする訳でもなく、金属でも壊せそうなほどのチェーンソーや金ノコ、あるいはペンキを持って押し掛けるんですからね。


 そしてそうした皆さんは、みんな揃って彼の代わりになったのです。


 確実に、子どもたちのためになる、役目をね。


 まあ昨今は高齢者ドライバーの問題も多いですから、より人目を引くように……


 そう言えば、最近の飛び出し坊やって、やけに明るい色をしていると思いません?







 ほら、その隣にいる皆様のように……ねえ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

飛び出し注意 @wizard-T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ