「親密な手紙」大江健三郎
雑誌「図書」に連載されていた、一話完結、著者の記憶というか、記録的なものです。物語だ! と思って図書館で借りてきた私はびっくりしたのですが、読んでみると、大江健三郎氏の安定した人柄を垣間見ることができました。
著名人の誰それに怒られた話や、自分の作品が受けた批評、謝罪した話なども収録されているのですが、不思議なことに情緒が一定というか、我を失うことがないというか、物事から一歩引いて、俯瞰して見ているような書き方なんです。
もしかしたらそうではないのかも。情熱をぶつけて書いたのかもしれませんが、私にとってはどこか、そんな冷静な印象が強いのです。
一方で、息子さんとの思い出や自然環境についての描写は、声や雪の表面が太陽に輝く様子まで目に浮かぶような生彩で描かれているように思います。それでも、もちろん「俯瞰」の範疇なのですが。
恨みとか、妬みとか、そういった感情は文中に見当たりませんでした。たった少しの劣等感だけが載っていましたが、全く同意できませんでした。
あれだけたくさんの賞をもらって認められて、もっと傲慢になってもおかしくないと思うのですが……。
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ネタバレなしの読書感想 谷 亜里砂 @TaniArisa
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