「貧しき人々」ドストエフスキー(光文社)安岡治子訳


「貧しき人々」ドストエフスキー(光文社)安岡治子訳


 まず、安岡さんの訳が瑞々しくてよかったです。手紙のやりとりだけで綴られる物語から、当時の社会の在りようが描き出されていました。なんだか秘密を盗み見ているような、博物館に展示されているものを眺めているような、そんな感じがしました。


 こちらはドストエフスキーの処女作ですが、推敲に推敲を重ねた作品といわれています。なるほど、綿密に組み立てられ、計算された構造が見て取れました。

 無駄がなく、強調したい部分は前面に浮き出ています。手紙のやりとりなので、人物による主観的な綴りは現実の人間の叫びに近く、およそ150年前のものとは思えないくらいです。

 舞台はやはりロシアなので、日本と留学先だったフィリピンの風しか知らない私には、どこか異世界ファンタジーのような感触もありました。


 私は社会情勢などを物語に入れて書くことが苦手なのですが(これは単に知識不足の問題でもあります)、書くとしたなら、どのような点に気を付けて構成すれば良いかを学べる一冊でもあります。


 物語の終わりが気になって、また、どんな事件が起こるかを知りたくて、ついページをめくってしまう作品でした。


 お、も、し、ろ、か、っ、た、です。おすすめ!!

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