第8話 不安


「ただいまー」

「おかえりー」


 家に帰るとキッチンから母さん、渡香苗かなえから声が返ってくる。ファミレスで食事をしてから帰ってくることを連絡していたし、すでに食事を済ませたのだろう、食器を洗っているところだった。

 そこでふと、僕が白高のダンジョン部ではなくニャン高のダンジョン部に入ることになった話を伝え忘れていたことを思い出した。


「母さん、ダンジョン部のことなんだけど、、」

「仲良さそうで良いわねー。シュンも結果出せばお姉ちゃんみたいにいい大学いけるんだから、仲間は大事にするのよ?あの子もしょっちゅう会ってるみたいだし、そういうのは一生の友達になるんだからね」


 食器を洗いながらの何気ない母の一言に、僕は思わず口をつぐんだ。

 そう、僕は進学のためにダンジョン部に入った。母もそれを勧めたし、友達もそういう子が多かった。

 けれどファミレスでの一幕を思い出す。皆、やりたいことがあってダンジョンに挑んでいた。こんな打算的だったのは僕だけだった。


 ニャン高の一員としてダンジョンに潜ることに踏ん切りはつけた。でも、ダンジョンの中では僕がパーティーの軸なのに、外に出ると覚える少しの疎外感。同じ目標を立てているのに、一人だけ違う方向を向いているような感覚。白高にもニャン高にも居場所がないのではないかという荒唐無稽な不安。

 大袈裟に考えすぎているのは自分でも理解できている。けれど自分の気持ちが見つからなくて、解決することができないでいる。


「あ、でも熱中しすぎてもだめよ?お隣の垣田さんの息子さん、大学に行かずに探索者になっちゃって奥さんも困ってるって、、、シュン?どうかした?」

「あ、いや、、疲れてるし、お風呂は明日の朝入るよ」

「そう?寝すぎて遅刻しないようにね?」

「うん、おやすみ」


 母さんにはそう言ってごまかすと、僕はさっさと着替えて布団にくるまった。

 

 嫌なことばかり考えこんでしまうのはよくあることだ。中学入試の前日とか、友達と喧嘩したときもそうだったじゃないか。明日になればきっと忘れてる。だから、早く寝よう。

 そう自分に言い聞かせて目をつぶる。

 思い出すのは初めて倒したゴブリンのこと。

 そうだ。明日になれば、、、



######



 

「ほんっとにごめん!」

「許してくれ!」


 翌朝、中等からの友達である佐久間大河と望月武の2人に教室の前の廊下で謝り倒されていた。一緒にダンジョン部に入ってパーティーを組もうと約束していたのに、約束を反故にしたうえに僕のことを忘れていたことを悪く思っていたのだろう。

 いつもより早く出たのに、それより早く来て待っていたのだ。


「いいって、こっちのパーティーでも上手くやれてるし。それより噂の途中入学してきた子について聞かせてよ」


 もちろん僕だけ面倒な事態に陥っていることに不満はあるが、それを言って解決するわけではないし、それよりも2人との仲を保つことや、白高ダンジョン部の情報を知ることの方が重要だった。

 2人はまだ遠慮がちにしていたが、僕が「座って話そう」と場所を教室の中移すと、やっとダンジョン部と「鳳凰の焔」のメンバーの子どもだという同級生について話し始めた。


「1年は聞いてる通り40人で、ほとんど思ってた通りの奴らが入ってたな。でも野球部の小池とか、図書委員の新沼さんとかも入ってたんだよ」

「小池と新沼さん?」


 大河の説明に首を傾げた。

 小池は確か去年野球部でキャッチャーで4番をやってた上手いやつ。新沼さんはダンジョン部には似つかない物静かな子だったはずだ。


「んで、その新沼さんと友達だってのが睦月淳史の娘の睦月ほむら

「、、、ちょっとアレじゃない?娘にパーティー名と同じ名前をつけるの」

「本人も恥ずかしいらしいから苗字で呼んでくれってさ」


 先に聞いててよかった。


「ネットで知り合ったらしくて、それで睦月さんはわざわざうちに入ったってわけ」

「へー、付き合い長いのかな?」

「小学校の頃からやり取りしてたらしいぞ」


 となると僕らよりもずっと昔から友達だったってことか。


「じゃあ伊達翼の子どもは実は小池の知合いだったり?」

「いや、それはない」


 大河に変わって武が答える。

 まあそんな出来すぎた話はないか。


「伊達幹夫みきおっていうんだけど、幼馴染だからって親に同じとこ入るよう言われたんだってさ」


 進路に口出ししてくるのは有名探索者でも同じなのか。伊達翼はたしかに教育ママって感じのきつめの性格してそうではある。


「それじゃあ睦月さんと新沼さんと伊達君と、、あと誰がパーティー組んだの?」

「いや、それがさ、幹夫は睦月さんと組む気がなかったらしくて、、それで」


 ここで武が急に煮え切らない口調でもごもごとし始める。

 でもお前「幹夫」って呼び捨てにしてたら言ってるようなもんだぞ。


「2人とパーティー組んだんだ?」

「そう、あと松永と夏目も入った」


 松永と夏目は確かオタク気質な二人組だ。あまり話したことはないけれど、ダンジョン部での活動に向けて運動しているという話を体育の時間で会ったときに聞いたことがある。

 幹夫君がどんな人かはまだ分からないが、頭の中ではガタイの良い男子5人のパーティーが浮かんでいる。なかなか良いパーティーなんじゃないか?


「そういうシュンのパーティーはどうなんだ?」

「ニャン高って女子多いんだろ?」


 そう問われて、僕は頭の中の男子5人組パーティーの隣に、僕たち5人組を並べてみる。

 ダンジョン狂の女子3人に、背が低いチアキと線の細い僕。うん、強そうには見えない。


「まあ、こっちのことは秘密にしとくよ」

「なんだそりゃ」

「やっぱり気ぃ使ってる?」

「いや、楽しいのはホントだよ」


 ダンジョンに潜っているなら、間違いなく。

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我らダンジョン部! 天才戻気 @tensaimodoki103

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