その弐っ! アンタが狼でアタシがウサギ?!

 アタシと子分の蛇蟲は師匠から新しい討伐の指示を受けて近江の国に来ていた。

宿場の宿に現れ、ヒトを動物に変えてしまうという怪異らしい。

 ただ、誰かが傷ついたとか命を失ったとか、そういう話は伝わっていない。

不思議な依頼だ。


日の本で一番大きな湖があるのだがそれを海だと勘違いしていた大昔の人が大海の国と呼んでいたことが由来らしい。


 大海…おおうみ…おぉうみ…おうみ…近江…

街道をクスクスと笑いながら歩いていると蛇蟲が、

「ぼーっと考えながら歩いてるとつまづくよ」

と冷たい目線で言ってくる。


 どうせアンタに言ったってつまらなそうに「はいはい」って返してくるだけだから言わないけどさ…


 そしたら蛇蟲が、

「お茶屋のお姉さんが教えてくれたんだけど、近江の国って大きな湖を海って勘違いした人がおおうみって呼んでいたことが語源なんだって!知ってた?

おおうみ…おぉうみ…おうみ…可笑しいよね!」

と、アタシが考えていたことをそのまんま話しかけてきた。


「あぁ、そうだね。ハハハ」

愛想笑いするしかない。

 なんでアタシと同じこと考えてアンタは笑ってるのよ!

白けるかと思って言おうか言うまいか悩んでいたアタシが間抜けじゃない。


「あれ?童、面白くなかった?」

「いや、そんなことないけど」

「もしかしてさっき童がクスクス笑ってたのってこの事だったとか?」


 え?なんでわかるの?アンタの新しい能力?

「そ…そんな訳ないじゃない!なんでアンタと同じこと思いつかなきゃいけないのよ!」

「そっかぁ…残念」

「なんで?!」あからさまにジト目なアタシ


「童と同じことを考えてたら…うれしいかな、って」


え?…そんなこと平然と言う?恥ずかしいんだけど。

「で…でもさ!アンタ、そのさっきのお茶屋のお姉さんと仲良く話してたじゃない!

!アンタの事だからあのお姉さんこのお姉さんにも同じこと言ってるんでしょ?!」


 ムキになって言い返してる自分が恥ずかしい!


「そりゃぁ向こうはお仕事だもの、気をよくしてお団子でも頼んでくれたら儲かるじゃない」


 はぁ~、そう言う事は気がつくんだねぇアンタは。

だったらアタシが恥ずかしがってるとかそういうことも気づきなさいよっての!


「もしかして…僕が童と同じことを同じことを考えてると、迷惑?」


 だめだ…アタシを揶揄からかって楽しんでる。間違いない。

「迷惑じゃないけど…人前でそう言う事を言われるのは、恥ずかしいよ」

「そっか…ごめんね。」

「謝ることじゃないし」

「でも、童が僕と同じことを同じ時に考えてくれてると嬉しいな」


 だぁぁぁぁッ!アンタのそういうとこだよ!なんで平然とそう言う事言えるの?!

顔から火を吹きそうだよタヒね!それかアタシが殺してやろうか!


「大丈夫?顔が赤いけど、熱でもある?」

 いやいやいや、アンタのせいだから!ちょっと黙っててくれるかな!


 でも…ちょっと体が熱っぽい気がする。暑さのせいかな…

遠くからアイツが何か言ってるみたいけどよく聞こえないや。

あ…ヤバいかも…

そしてアタシは気を失った。

----------

 気がついたのはその日の夕方。

蛇蟲が背負って宿まで運んでくれたらしい。

重かったんじゃないかな、あとでお礼言っておかないと。


 部屋の中なのにもやがかかってる感じがすごく気になる。


 …ってなんか大きな目がアタシの頭上にいるんだけど。

耳は上にとんがってるし口も大きい。どう考えても『狼』だ。

襲ってくる様子はないけど…一応聞いておくか。

「ねぇ、アンタ蛇蟲だよね?」

「うん、そうだよ。童」


 聞き覚えのあるいつもアタシに甘えてくるアイツの声だ。

「そういえばさ、アンタの目がいつもよりすごく大きいんだけど…なんで?」

「それはさ…童の顔をよーく見えるようにだよ」


 ふざけてんのかコイツ?こんな時でさえアタシを揶揄うのかよ。

怒らせないようにもう少し聞いてみよう。

「じゃぁさ、アンタ耳が尖がってすごく大きくなってるんだけど気がついてる?」

「それはね、童の声がよく聞こえるようにだよ」

 うん、そう来るよね、分かってたよ。


じゃぁ最後の質問しておくか。

「あのさ…念のために聞くんだけど、アンタの口がすごく大きいんだよ。分かってる?」


 さぁ来い!お前を喰っちまうからだって言ってみろ!ぶん殴ってやるから。

「それはね、童…」

 いや、引っ張るなよ!さっさと言っちまえ!握りこぶしに力が入る。


 狼の顔をした蛇蟲がアタシに顔を近づけてくる。

「『大好き』って言うためだよ。かわいいウサギさん」


 何がウサギだアホかぁぁぁぁぁぁっ!なんでそうなるの!バッカじゃないの!

狼の顔してその言葉がよく出てくるな!

アタシはバカな子分を思いきりぶん殴っていた。

首から下はアイツのままの顔だけ狼野郎は、殴られた衝撃で部屋の柱に頭をぶつけて

気を失った。


「アホ間抜け!そう言うことはもうちょっとまともな顔の時に言えぇッ!」


 つい口走った言葉にアタシは自分で恥ずかしくなった。

蛇蟲の側に近寄って顔を引っ張ってみる。伸びる。

うーん、よくできた被りものかと思ったんだけどそうじゃなさそう。

首のあたりの大髪の毛の生え際辺りを触ってみるけど本物の毛だ。


 まただ、部屋中に靄がかかってる。


 顔を触っていると、蛇蟲が目を覚ました。びっくりしてアタシは身を引いた。

蛇蟲は不思議そうな顔をしてアタシに話しかけた。


「童、だよね…」

「そうだよ、狼の顔になったら親分の顔も忘れたか?」

「いや、かわいい声といい匂いは童なんだけど…」


 決めた、今回の一件が終わったらコイツの尻子玉抜く。絶対抜く!


「なんで顔だけウサギさんなの?」

----------

 へ?…

 蛇蟲に言われて初めて自分の顔を触ってみる。

け、毛深い!

毛深いというかふさふさしているというか、人間の肌じゃない!

明るいところに出て水桶に自分の顔を映してみると、


あ、ウサギだ…これは狼に喰われるウサギだ。


 長い耳、白い毛におおわれた顔、真っ赤な目…

ウサギが狼を子分にしてるなんて笑えるよね…

いや、笑える状態じゃない!


ダメもとで水に映った自分の顔をもう一回のぞき込む。

どう見てもウサギだぁぁぁぁぁぁッ!


 振り向いて狼、いや、蛇蟲に話しかけるアタシ。ふたりとも間抜けな格好をしてる。


「何?!急に来られるとびっくりするんだけど!」

「びっくりさせてごめんね、だって…ウサギになっちゃった童が可愛くて…」


 背筋がゾワ~っとした。この顔を褒められてもさぁ、

どう考えたってコイツ、今アタイの事を肉としか見てねぇだろ!


「いつものアタシとウサギになったアタシとどっちがかわいい?」


 は?誰だよそんなアホなこと言ってるのは?!

アタシか?…


「うーん、どっちだろうねぇ?」

 蛇蟲はグイグイ近寄ってくる。

おい、やめないか!カッコつけてるつもりだろうけど顔は狼だぞ、出直せ!


「童、もうわかってるだろ?僕の気持ち…」

「蛇蟲…ちゃんと言葉で言ってもらわないとアタシ、わからないよ」


 だぁぁぁぁ!この状況で何言ってんだアタシ?!こんな事言うつもりぜんぜんないのにウサギの口が勝手にしゃべるんだよぉ!

蛇蟲が思い切り勘違いするじゃないかぁ!

いや、完全に勘違いしてる!

 蛇蟲が近すぎて、というか狼の鼻が近すぎてアタシは既にのけぞっている。

これ以上近寄られるとアタシは水桶にドボンだ。


 もう喰われるしかないかな、万事休すだよ、と覚悟を決めた時だ。

蛇蟲がアタシを思いっきり抱きしめてきた。


へ?…痛い痛い!力強すぎ!もっと優しく抱いて…じゃないって!


「蛇蟲…もうアンタしか見えない!」

ふざけるなウサギ顔のアタシ!あたり前だろ顔が近すぎるんだから、もうちょっと気の利いた事言えっての!いやそうじゃないって!

「童…もう離さないよ…」

 ぐぉぉぉぉぉ!なんかすごく恥ずかしいこと言われてる気がするのに締め付けられて反応できねぇ!


 でも、足は動く。体は離れようとしてるってことは自由に動かせるはず…

アタシは思い切り蛇蟲めがけて頭をぶつけてやった。

蛇蟲のあごに当たったみたいでよろめきながら後ずさりする狼の頭が見えた。


 蛇蟲はまた部屋の柱に頭をぶつけて気を失ったみたいだ。

「バ…バッカじゃないの?!」

 あれ?蛇蟲が離れたせいなのか自由にしゃべることができる。

自分の顔を触ってみる。

あ!フサフサしない!アタシの顔に戻ってる!

 そして気絶したままの蛇蟲にありったけの罵声を浴びせるアタシ。


「あのね!そういうことを言うときって、雰囲気ってもんがあるでしょ!」

 …いや、自由に言えるのはいいけど、そうじゃなくてさ。

恥ずかしい!もう帰りたい!


「そうだよ、動物に変えられてるってことは、この近くに探してる怪異がいるって事じゃないの?…例えば、後ろ?!」

 振り向いてみたけどいない。そう簡単に見つかるわけがない。

目線を蛇蟲の方に戻してみる。前方に怪異の気配はない。


 うーん、でもなんかピリピリするものを感じるんだよねえ…


 もう一回素早く振り向く!いない。

前を向く!いない!


 そしたら再びアタシの周りに靄がかかってきた…


すこし間を開けて…振り向く!


 あ…


 その時なにかと目が合った!


「誰?アンタ」


 目の前にいたのはお姫様みたいな小さい女の子。

怪異?と思ったけどそういう感じじゃない。

なんというか…「護ってあげたい!」って気にさせるか弱そうな


「ク…ククリ」


 女の子は自分の事をククリと言った。

アタシが見た感じでは怪異とは明らかに異なっている。

そう言う臭いがしない。

というかむしろいい匂いがする。


敵意を感じないのでアタシはこの子と話をしてみることにする。


「ねぇククリ、アンタはどこから来たの?お父とかお母はいないの?」

「父様と母様はね…」

 そういってククリは腕を伸ばして指を空に向けていた。

「そうか、亡くなったのか…ひとりぼっちなんだね」

 アタイもお父とお母を亡くしてるからな、さみしいよね。

 と思ったら高く上げていた指をゆーっくりおろしてアタシを指さした。

「うーん、アンタのお母さんがアタシに似てるのかなぁ?」

「そうじゃなくてね、…お姉ちゃんたちが…あれなの!」


は?…あれなのってどうなの??

わけわかんないんだけど。

「今は秘密なんだけど…とにかく『あれ』なの!」

 なんかこれ以上関わるの嫌な予感しかしないんだけど、一応聞いてみることにする。


「えーと、ククリちゃんはぁ、どこから来たのかなぁ?お願いだから『タ』で始まって『ラ』で終わるところだけはやめてねぇ」

「タカマガハラ!」


 ほらね!即答だよやっぱりそうだよお空の上だよ神様の国じゃんかよ!どうすんの神様が迷子か神隠しって洒落にもなんないよ!アタシたちつかまっちゃうよ!


 ククリがアタシの服の袖を引っ張ってくる。

「お姉ちゃん」

「な…何かな?」

 ロクなことがなさそうなんだけど相手してあげないとかわいそうだから聞いてあげるけどね。


「お姉ちゃんはこのお兄ちゃんのこと好きじゃないの?」


 アタシの刻が止まった。なんか周りの空気がピキピキって凍り付いてる音がするのは気のせいだろうか。


「ア、アハハハハハ…どうしたぁ?お、おませさんだなぁそんな事なんで聞くのかなぁ?」

自分でも顔が引きつってるのがよくわかる。


「だってね、動物の顔ってお互いのことをどう思ってるか、で決まるってズゥがね…」


 いや、いきなり情報量が多すぎて頭がついていかないんだけど!

お互いの事ってさ、狼とウサギってどういうことよ?

アタイがアイツの事を事なの?


 まてまて、蝦蟇蟲がお下劣な話をしてる時に喰うとか喰われるとか言ってたよな…


そういうことなのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!

喰うってそういう意味なのかぁ???!


 待て、落ち着け。それはこのアホ間抜けが目を覚ましてから問い詰めればいいことだ。それよりも…


「えーと、ズゥって今言ったけど、何それ?」

「これ!」

 ククリは後ろに隠していた何か丸いものをアタシに見せた。


 丸い、というか豚?うーん…綿を詰めた丸いものに目鼻を縫い付けたなんというか、

不細工!


 そしたらその不細工がアタシ目がけて白い息を吹きやがった。

そっか、さっきの靄はコイツのせいだったんだ!コイツ、絶対に怪しい!

急いでククリの無事を確認しようとしたその時…


「お姉ちゃん、虎…」

 え、虎?…アタシが??

ククリが懐から丸い鏡を取り出した。懐から出してくるモノにしてはかなりでかーい!てか、ククリの手の中で元の倍くらいの大きさになっている。

鏡の後ろ側はゴツゴツとした装飾が施されていていかにも重たそう。

小さいククリがこれまた重そうにしているのを私が受け取った。


 鏡の中のアタシ…確かに

「うーんおかしいなぁ。僕には童がウサギにしか見えないんだけど」

 鏡に映るアタシの背後に例の「顔だけ狼」になってる蛇蟲がひょっこり顔を出している。


「な、なんなの蛇蟲!その顔でいきなり声かけないでくれる?!」

「いや、かわいいウサギさんだもの、声かけちゃうよぉ」


 この状況でよくそんなヘラヘラしたことを恥ずかしげもなく…


「お姉ちゃん、ウサギなの?…」

「どういうことよ?!」

 ククリの方を向いて聞いてみると、


「やっぱり虎…」

 鏡の中のアタシの顔は虎になってる。


「どうなってるのよぉぉぉぉ!」

アタシは蛇蟲に助けを求めた。


「ウサギだね。童、もう一回この子の方を向いてみて」

 いわれるままにククリの方を向く。

「虎!」

ククリ喜んでるし!

「じゃぁもう一回僕の方を向いて」

と言うのでもう勘弁してと思いながら振り向くと

「うん、やっぱりウサギだね」


 ん?やっぱり??蛇蟲、謎が解けたの?

「ねぇ、どういうことか説明してもらえるかな?アタシだけノケモノにされてるきぶんなんですけどぉ?」

「うーん、じゃぁ僕がこの子と向き合ってみようか」


 そう言って蛇蟲はククリと向き合った。

「ククリちゃん、今お兄ちゃんの顔はどう見える?」


どう見えるって狼だろアタシにはテメーのことはさっきから狼にしか見えてないっての。

 ククリが放った言葉はアタシの予想とは全く違うものだった。

「龍!かっこいい龍!」

ククリは嬉しそうに蛇蟲に抱きついた!


「こらこらククリちゃん、そんなことするとお姉さんに怒られるぞ」

 ククリはジトっとあたしの方を向いて、

「いつも怒るもん!」

 いやいや、アンタに会うの今日が初めてなんですけどぉ?

ねぇ、アタシ怒ってた?さっき喜んでたじゃん!怒ってないよね?優しいお姉さんだったよね?


「童、いま童はどこにいると思う?」


 どこって近江の宿場に決まってるじゃん!何言ってるの殴るぞ。

アタシがどう答えたらいいのか考えあぐねてるのを見かねて蛇蟲が話を続けた。


「童は街道で気を失ったよね?」

「そうだけど?」

「それで目が覚めたらこんなことになっていたと」

「そう!アンタも狼になってるしこの子もいるしブタもいるし!」

「もしも眠ったままだとしたら?」


「は?アタシ起きてるけど?顔はウサギだったり虎だったりするけど。

これがアタシの夢の中とか言うんならなんでアンタはここにいるのよ?」


「僕と童ならほら、ここだよ」

 蛇蟲が指をさしてる方に目をやると、そこにいたのは

眠ってるアタシとその横で手を握ってるコイツ!

なんで握ってるのよ!近いわ離れろ!


「ちょっと待ちなさいよ!あれがアタシだったらこのアタシは何者なのよ?もしかして魂が離れちゃった?アタシタヒぬの?この若さで?いやだぁぁぁぁぁぁ!」


「お姉ちゃん、落ち着いて、ここはお姉ちゃんの夢の中だから」


 んぁ?ククリ、アタシの事揶揄からかってる?

「本当だよ、お姉ちゃんが目を覚まさないからお兄ちゃんがずっと手を握って心配していたの」

「童が気を失った時から変な気配は感じていたんだけど、怪異の姿は見えないし童は起きないしどうしたものかって思ってたら…」

「ククリがお姉ちゃんの夢の中でお話してたの!」


ククリの話では実際に降りてきているわけではないらしい。

体を残してタカマガハラと日の本繋いでるってどんな能力だよ、神様か!

…あ、タカマガハラ在住なら神様だわ。

蛇蟲が師匠と式紙を通じて連絡して、動いてくれたのが日の本の外の事にも詳しいウズメ姉さん。

 ウズメ姉さんが調べた結果、今回の怪異はズゥーという大陸の魔神(悪神ともいう)の仕業。

豚の化け物のような姿、ヒトを動物に変えて食べるタチの悪いやつ。

大陸と交易が盛んになったため船荷に紛れて日の本に入り込んだのではないか、とのことだ。

おおきいズゥーは討伐が進んでいたらしいんだけど今回のみたいに小さかったり見た目が違ったりすると特性が異なることが多いので討伐するのはなかなか難しいんだとか。

 そしてこのズゥーは街道を通っているときに「たまたま」気を失ったアタシに憑りついてしまったんだってさ。

 どうやらコイツは人を動物に変えるけど喰ったりはしない種類ではないか、とのことでウズメ姉さんは

「まぁお二人でがんばってね~」と言って帰っちゃったらしい。


「でもさ、それはわかったんだけど、なんでククリが此処にいるかってことなのよ」

「それはね!」ククリが大きな声を出してアタシに説明しようとしている。

「お姉ちゃんが呼んだから!」

 いや、だから呼んで無いってば。

「お姉ちゃんの声を聞いたらククリ、急に眠たくなって目が覚めたら…」

「童の夢の中にいたってことだね?」

「うん!」いやに嬉しそうにウズメが答えている。

 なんだよそこのふたり、やたら気が合ってそうじゃないか。アタシだけのけ者か?


「そうじゃないの!お姉ちゃんとお兄ちゃんが仲良くしてくれないとククリ帰れないの!」


へ?なんで?


「いいから仲良くするってククリに約束して!」

 ちぃせぇ癖に強引だなぁ…


「大丈夫だよククリちゃん、お兄ちゃんとお姉ちゃんはこれからもずっと仲良しだからね」

 相変わらず調子いいなぁアンタは。


「本当に?」

「うん。だってお兄ちゃんは童の事しか好きにならないって言う自信があるからね!」


 やめて!そんな恥ずかしい事真顔で言わないで!


「お姉ちゃんは?」

 ククリが半分泣きそうな顔でこっちを見ている。

このガキ…その歳で女の武器使うのかよ!卑怯だろ。


「お…お姉ちゃんも、お、お兄ちゃんのこと、す…好きだから」

 何言ってんだアタシぃぃぃぃぃぃぃッ!仲良しでいいんじゃんなんで好きとか言ってんのよタヒね!


「よかった。これでククリは安心して帰れるの」

「もう帰っちゃうの?」

「うん、お空でお父様とお母様が呼んでるから…」

「そっか」


 なんなんだお前ら。アタシよりすっかり仲良しじゃないのさ!


「そうだ、このズゥーはククリがお空に連れて帰るね」

 それを聞いてズゥーはびくっとしたように見えた。

ガクガク震えてるように見える。


「ククリひとりで大丈夫かな?」

「大丈夫、ククリが抱っこしてるとおとなしくしてるもん。」


 私の聞き間違えでなければククリはそのあとこう言っていた。

「…ズゥーわかってるよねぇ、悪いことしでかしたらお前の事マジで潰すから」


 ズゥーは完全に怯えてる。私も背筋に寒いものを感じていた。


 コイツやべぇガキだったぁぁぁぁッ!


「じゃぁククリは帰るね!」

「うん、元気でね。また会えるかな?」

「うん、まだ先の事だけどお兄ちゃんとお姉ちゃんが仲良くしていたら、きっと会えるよ」


 そう言い残してククリはズゥーを抱いて(いやどう見ても連行して!)アタシの夢の中から消えていった。これで今回の一件は解決のはずだ。


「はっ!」

ようやくアタシは目を覚ました。

 蛇蟲が横でアタシの手を握っている。

「おはよう、童」

蛇蟲は嬉しそうな顔をしてアタシに声をかけてくる。


 本当に嬉しそうだ。

アタシは夢の中であったことを蛇蟲に話した。

蛇蟲の考えではククリと言うのはククリヒメではないか?との事だ。


 縁結びそして水の神『菊理媛』、豊かな水源を司り、豊穣をもたらすことから龍神とも言われる神・・・だと?


 え?ちょっと待って!水の神でしょ?龍神でしょ?アタシが探してる水神龍神そのものじゃない!ちょっと戻ってこ~い!


「童、また会えるって言ってたんでしょ?慌てなくても大丈夫だって」

「だって水神と龍神両方だよ!こんな奇跡二度とないって!

あ~なんでその時言ってくれなかったかなぁアホ間抜けぇ!」

「今童の話を聞いてそうじゃないかな?って気がついただけだから」


 まぁそれなら仕方ないか、ブツブツ…


そして夢の中でコイツに言われたことが気になったのでつい聞いてみたくなった。

「ねぇ…アタシの夢の中で言ってたこと、覚えてる?」

「ん?なんのこと?」

 なんだよ!やっぱりアタシの夢の中だけのことだったんだ!

そりゃそうだよ、蛇蟲がアタシなんかに気があるわけないもんね。

「いや、だったらいい。忘れて!」


すこしだけ期待してた自分がすごく恥ずかしくなって、その場からすぐにでも離れたい!!と思ったアタシは「お風呂に入ってくる」と言ってその場を離れた。

----------

廊下を走っていく童を目で追いながら、蛇蟲は小さな声で自分の想いを口にしていた。

「ちゃんと覚えてるよ、童…」


 二人が次にククリに出会うのはまだ先の事である。


その弐っ! 了

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アタシの子分が距離感近すぎて討伐に集中できない 三日月ノ戯レ @eeyorejp

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