web小説における漢字の使用について【速報版】
とり
第1話 常用漢字の使用頻度について
web小説では「わかりやすさ」や「読みやすさ」といったことが重視されるようです。例えば、漢字をあまり使わないようにする、といったことが推奨されます。
さて、本当に、人に読まれているweb小説では漢字をあまり使わないようにしているのでしょうか。ちょっと比較してみることにしました。
あくまでメモ的なもので、厳密に条件を整えて実施しているわけではありません。しかし、少しだけ創作の参考になるかな、と思い、比較している事柄の一部を出してみることにしました。
特に一般文芸との比較は非常に労力を使います。今後もテキストの比較に際して、厳密さには限界が出てくるかと思います。
これに関連する質問にあらかじめご回答しておきたいと思います。
質問1:なぜ、一般書籍で2位の作品を選んだのか
回答1:電子書籍版の出ていない作品の写経は本当に大変だから
質問2:なぜ、1章分なのか?
回答2:気力・体力・精神力の限界
また、青空文庫の中で、作品の選択について恣意的でないか、という指摘はありうると思います。恣意的です。ラーメンズが好きなんです。
(1)比較の目的
「web小説では本当に漢字をあまり使っていない」ということについて、人気作品の比較に基づいて確認を行う。
(2)比較の対象
●カクヨム内の総合累計1位(2024年4月13日段階)の小説 1作品20話
じゃがバター『転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。』
●オリコン文庫本チャート2023年2位 一般文芸作品 1作品1章
辻村深月『傲慢と善良』(朝日文庫)
●青空文庫所収の文芸作品 1作品全データ
堀辰雄『聖家族』
底本:「昭和文学全集 第6巻」小学館 1988(昭和63)年6月1日初版第1刷発行
(3)比較手順
1.常用漢字を学習学年で再分類※
※ 小学生のみ
2.対象となるテキストデータから漢字のみを抽出。
3.使用漢字を学年別で集計
4.ひらがなを含めた総文字数、漢字のみの総漢字字数との割合を出す
なお、割合は百分率(%、小数点第1位で四捨五入)で表記
※ 青空文庫では漢字について、漢字コードに関して一定の「許容」をおこなっているため、底本と全く同じ漢字を用いている保証はありません。
(4)結果
●総文字数に対する漢字の出現頻度
カクヨム作品:26.9%(常用漢字のみでは26.4%)
一般文芸作品:25.1%(常用漢字のみでは24.8%)
青空文庫作品:23.8%(常用漢字のみでは22.6%)
●使用漢字数に対する常用漢字出現頻度についての学習学年別集計
<カクヨム作品>
小学1年生:17.9%
小学2年生:22.8%
小学3年生:18.2%
小学4年生:10.1%
小学5年生:7.8%
小学6年生:4.7%
中学生 :16.4%
<一般文芸作品>
小学1年生:16.2%
小学2年生:28.3%
小学3年生:21%
小学4年生:9.2%
小学5年生:5.9%
小学6年生:3.7%
中学生 :14.8%
<青空文庫作品>
小学1年生:24.8%
小学2年生:27.5%
小学3年生:12.3%
小学4年生:6.9%
小学5年生:4.9%
小学6年生:4.5%
中学生 :14.1%
●全ての使用漢字のうち常用漢字の割合
カクヨム作品:98.0%
一般文芸作品:99.1%
青空文庫作品:95.1%
(5)比較
使用している漢字の出現頻度(全ての漢字の文字数/テキストの総文字数)でみると、比較対象としている3作品では、カクヨム作品が最も多く、続いて、一般文芸作品、青空文庫作品の順となっています。
また、使用漢字数に対して出現する常用漢字の頻度(常用漢字の文字数/全ての漢字の文字数)を、学習する学年別で割合を出してみると、カクヨム作品では小学校3年生までの漢字の使用は50.0%以上、一般文芸作品・青空文庫作品では、60.0%以上となっています。
中学生で習う漢字は、カクヨム作品が最も多く、続いて、一般文芸作品、青空文庫作品の順となっています。
全ての漢字のうち、常用漢字の割合は、一般文芸作品が最も多く、続いて、青空文庫作品、カクヨム作品の順となっています。
以上から考えるに、「web小説では本当に漢字をあまり使っていない」とは言えない可能性が示唆されます。
ただし、あくまで3作品の比較であり、今後、より多くの作品を比較対象としてデータを整備していく必要があります。
(6)考察
使用する漢字1文字単位での比較を行うと、カクヨムで読まれている作品は、一般文芸や青空文庫で公開されている作品と比較して、常用漢字の使用が少ないということはありません。
紙で出版されることを前提とした小説との漢字の使用の差を意識する必要は、なさそうです。
とはいえ、本速報版の比較の問題点や限界があることも事実です。サンプル数もめちゃくちゃ少なく、また、あくまで、漢字1文字単位での比較の範囲では、ということもご理解いただきたいところです。
また、今回の比較に関連して、私のような読み手は時として「漢字が多くて読みづらい」という助言をしてしまうことがあります。
この助言については、以下の3つの可能性が想定されます。
1つ目は、繰り返しになりますが、「本速報版の問題点や限界」に起因する部分です。こちらについては後述します。
2つ目は、助言者が「web小説というものは漢字の使用を制限すべきである」と考えている場合。
3つ目は、助言をもらった作品では「一般文芸作品よりも漢字の使用が多い」場合。
2つ目であれば、助言をしてくださったこと自体はありがたく頂戴しつつ、あまり気にしなくてもよいかもしれません(とはいえ、1つ目の可能性がありますので、まだまだ予断は許しませんが)。
一方で、3つ目であれば、作者は「作品の修正が必要」と考えるか、「いや、自分が新しい表現のブームを作るのだ」という強い意志を持つ必要があるかもしれません。
さて、最後になりますが、「本速報版の問題点」についてお話をしたいと思います。
大きく2つの論点がありそうです。
1点目です。本比較では、漢字1文字1文字の自体の読みにくさを考慮に入れていません。
とはいえ、この点については、一般文芸作品でも6割が小学3年生までに習う漢字を使用しているため、それほど大きな問題にはならないように思います。
続いて、2点目です。漢字の使用方法にによって生まれる読みにくさを考慮にいれていません。
具体的には、2字以上の熟語を用いている、といった違いなどによって、読みやすさの違いは出てくるでしょう。
もしも、web小説やライトノベルではあまり熟語を用いないのだとすれば「漢字が多くて読みづらい」といった助言は、正確には「熟語が多くて読みづらい」といった意味合いである可能性があります。
今後、この2点目の問題については、比較を行っていきたいと思っています。
【追記】
(6)考察で助言について3つの可能性を示しました。個人的には本比較が十分ではないため、と思っていますが、作者様におかれましては、「どう判断すればよいだろうか」ということで悩まれるかもしれません。
特に「別にそこまで複雑な漢字の使い方はしてないんだよなあ」と思われる方こそ助言をいただいた際に悩まれるかな、と。
そこで、Excelで作品の漢字使用数をカウントする簡単なワークシートを準備しました。欲しいな、という方がいれば、コメント欄で共有します。
web小説における漢字の使用について【速報版】 とり @takuma2323
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